第14話 門出
ー前書きー
前話と比べると落差がありますが、ブラバせずにお読みいただけると皆様を信じております。
↓本編↓
「ここが今日から僕達の住む家だ」
「へ、へぇ〜。なかなか情緒のあるお家だね?」
玄関の手前に立ち、由美と2人で今日から暮らす事となる家を見上げる。
ちなみに彼女は情緒があると言ってるが、単純にこの家が和風住宅だから言っている訳ではない。
予算の問題で、外壁・屋根塗装をしなかったので塗料の色は褪せており絶妙な古臭さを醸し出している。
一応職人にも状態は確認してもらったが、雨漏りもなく緊急性はないとの事で洗浄のみに留めた。
「さて、そろそろ引越しの荷物も来るからあともう少しだけ頑張ろう」
「うん!!今夜は引越しのお祝いしよ、ご馳走を作るね!!パパ、何か食べたいのある?」
「急には思いつかないから何でもいいかな……。折角のお祝いだし由美の食べたい物を作ってよ」
「何でもいいってそれ作る人に失礼だから絶対言ったらダメなやつだよ」
あの日から時を置かずして、彼女からパパと呼ばれる様になった。別に僕がパパプレイを強要した訳でなく彼女が望んだのだ。
彼女の望みはもう一つあり、僕が彼女をちゃん付けで呼ばなくなったのはそれが理由だ。
ただ、これだけの事ではあるが僕と由美の距離はこの1ヶ月という短い期間でかなり縮まったと思う。いや、ちょっと近づき過ぎているかもしれない……。
由美は生まれてからずっと父親という存在がないまま育った。そして、最も親しい家族であった母親と距離を置く事になってしまった。
親からの愛を得る事が出来ない現実に心が壊れそうな時、親の代わりに愛情を注いでくれる人が居たならば……その人物に依存してしまう彼女を誰が責める事ができるだろうか。
まぁ、彼女の行動が行き過ぎていると思わなくもない点もあるので注意が必要ではある。
一応自重する様に言っているのだが……正直あまり変わっていない気がするんだよな。
先日まで居た仮住まいのアパートは築50年を経過する古アパートだった。
無職、いかにも訳ありそうなオッサンと苗字の違う女子高生の同居。
僕も同業だから気持ちが分かる、こんな客が来たら適当にあしらわれても文句は言えない。
そういう意味では、快く部屋を紹介してくれた不動産屋の社長には感謝しかない。
『駆け落ちかい?俺も若い頃に今の女房とそうだったから分かるぜ。籍はもう入れたのか?親の理解が得られなかった以上、籍をきちんと入れてからやる事やんなよ』
性に疎い彼女はそれを聞いて顔を真っ赤にしていた。
僕が結婚は18歳にならないと出来ないから心配しなくていいと由美に伝えた時のあの社長の顔は一生忘れる事はないだろう。
いきなり笑い出した僕を、由美は不思議そうに見つめてくるが特に追求してくる事はなかった。
そんなこんなで苦労して2部屋ある間取りを借りたのに、朝起きたら由美が隣で寝ているなんて事は日常茶飯事だった。
彼女の僕に対する距離感は……多分おかしい。これがここ最近の僕の悩みだ。
僕と彼女では歳の差が18あるので、僕の娘と言っても見た目的にはおかしな話ではないのかもしれない。
だが、血の繋がりのない僕達はどこまで行っても他人であり本当の親子ではないのだ。
由美は今年16歳、一昔前ならば結婚の出来る年齢だ。
一般論として……あくまで一般論であるのだが、そのぐらいの年齢の少女を性的な目で見る大人が世の中には大勢いるのだ。
僕はそういう汚い大人ではないのだが、もっとこう……慎みを持って欲しいと父親代わりとしては思う訳で……。
由美は贔屓目なしに美少女なのだから、そんな距離感で異性と接する事になれば、僕ぐらいの人格者でなければきっと勘違いをさせる事になると思う。
そもそもなぜ彼女の距離感はこんなにもおかしくなったのだろうか?
きっかけとなる出来事があったはずなのだが、原因は何だ?
荷物が届くまで少し時間があったので、僕はここ最近の記憶を遡る事にした。
由美が母親と離れる事を決意したあの日の夜、僕は彼女を自分の部屋に連れ帰った。
「私ってママにあんなに嫌われてたんだね……。帰る場所無くなっちゃったよ……」
そう言って涙を流す由美が僕の胸に飛び込んできた。
そんな彼女を慰めたくて、力一杯抱きしめて泣き止むまで頭を撫で続けたのは今でもハッキリと覚えている。
由美はなかなか泣き止まず、疲れて眠ったのは確か明け方近かった気がする。
前日から色々あった僕もその日はそのまま眠ってしまったんだよな。
思い出した……冷静に考えてみれば、初日からから添い寝してたじゃん。
犯罪的な意味で少しマズい気もするが、意図してやった訳じゃないんだしアウト寄りのセーフと思っておこう。
添い寝ぐらいならどこの家庭でもやっている事だろうしな。
それともう一つ気になるのは、お風呂事情である。
一緒に住み始めて1週間程が経った頃、予定が運悪く重なってしまった日があり、帰りが少しだけ遅くなってしまった。
無職の僕は、由美の帰宅時間には必ず家に居たので、留守にしていた事で彼女をどうやら不安にさせてしまったらしい。
また捨てられるかもしれないと思った彼女は、何とか僕の役に立たないといけないという強迫観念に駆られた。
そんな彼女が導き出した結論は、母親の影響を色濃く受けたとしか言いようがないものだった。
その日の夜、僕が湯船に浸かっていると突然ドアが開いた。びっくりして振り返ると一糸纏わぬ由美が入ってきたのだ。
突然の出来事に唖然とした僕は咄嗟に顔を逸らす事が出来ずその姿を目に焼き付けてしまった。
『背中を流す』という彼女の申し出を丁重に断ると、拒絶されたと勘違いした彼女は大泣き。
結局、その日だけは彼女に背中を流してもらうという事で終わった。
アレは僕が見たかった訳じゃなく、由美が勝手に見せてきたのだ。だからセーフ寄りのセーフ。
あの時の由美の姿は、今でも脳裏に焼き付いているけど、絶対にセーフだ。
僕の役に立ちたいという気持ちは、料理を作る事に転換してもらった。
この短い期間でも、彼女の料理の腕はどんどん上達しており、作る事が楽しいと言っていた。将来はそういう仕事も向いているのかもしれないな。
隣で幸せそうに笑う由美を見ていたら、犯罪うんぬんを考えるのが馬鹿らしくなった。僕はこの子が幸せと思える時間を過ごしてもらいたいだけなのだから。
だが、幸せな時間と言うのは長くは続かないのが世の常である。
「せーんぱい。その子……誰です?さっきその子がパパって言ってるのが聞こえましたが、先輩結婚の経験ありませんよね?もしかして隠し子なんですか?それとも、今流行りのパパ活とかしてやがります?なんでその子の事を呼び捨てにしてるんですか?しかも名前呼びだし……それっておかしくないですか?どういう関係かちゃんと説明してくれますよね?」
後ろから突然声をかけられ慌てて振り返ると、そこにはなんと笑顔の矢野が立っていた。
だが残念な事に目は笑っておらず、先日の惨劇を思い出してしまった僕は小さく身震いするのだった。
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