第二章:第一王女が目指すべき場所、その険しさ

第8話 プレゼント。そして風変わりな第一王子の遣い

 そいつはえらく眩い光 あらゆる自然がそれを祝福している

 これだけそこから離れていたのに あたしの目には強く焼き付いた


 走る 走る

 大地を踏みしめ 岩を踏み台に 木々を伝い 小川を飛び越え

 あたしの住処に勢いよく飛び込む


「親父!親父おやじー!」


 ワクワクが止まらない あんなの見たらみんなすっげえ喜ぶ


「おぅ。どうした、サキ?」


 熊のようにのっそりと 傷だらけの岩肌みてーなゴツゴツとした手で あたしの頭をぐわんぐわんと撫でる


「すげーぞ親父!『おーこく』なんかすっげー光った!」

「ほぉ?いいもん見れたみてーだな!がっはっは!」

「がっはっはー!」


 あたしも真似して笑う 一緒に笑うとすげー楽しい


「でもなー、一回しか光らねーんだ」

「なるほどな。なら猶更最高のモン見れたと思って焼き付けとけ!」

「うおー!そーだな、見れたー!」


 と やべー


「忘れてた!罠見てくる!」

「おぅ、野菜の方は準備万端だ。ユリ、塩加減見とけ。リスティはカイト泣き止ませとけよ」

「おいしそーなのー」

「あーい」


 再び 地を蹴り 張り巡らせた罠は全部避け 目的の獲物を発見


「よーっし!今日もごっちそーだ!」


 ふと、また『おーこく』の方を見る


「また、見てーな…みんなで」


 陽が落ちるその前に あたしは獲物を担いで みんなのところに帰るんだ


 ………


「わたくしにプレゼント?」


 祝賀会を終え自室に戻り、皆はそれぞれ箱や包みを取り出し差し出した。


「誕生日ですからもちろんでございます。私からはこれを…」


 リディア先生から受け取った箱を開けると、これは…。


「まあ、オペラグラス?」

「ええ、お披露目の儀の前に渡せれば民たちの顔がよく見えたのですが…」

「民たちはこれから触れ合えばよいのです。でも、流石先生ですね。わたくしが民とどうありたいかよくわかってくれてます」

「…あぁ!あんなに小さいころから手のかからず天使のまま育ってくれた…!私はもう、もう…っ!ずびー!…こほん、失礼しました。私はこれにて。おやすみなさい」


 豹変したかと思えばとんでもない感情の起伏、いつもの先生で安心しました。ほら、アル。気にしてはだめよ。


「…ええと、私からは…アル殿と対になるように」

「あ、おう。これをどうぞ」


 包みを2つ差し出され、中身を取り出すと…。


「万年筆と…これは、日記帳?」

「姫様は勉強がお好きですし、書き記すもの…と考えたのが始まりで」

「なら、王宮で手に入るものよか一般市民が手に入るものがいいかな…てことでそれです」


 わたくしは迷わず二人に飛びついた。


「にゃにゃっ!?姫様!?」

「うおっ…と?」

「ごめんなさい、ちょっとにやけちゃって…恥ずかしいから。ありがとう!」


 クルーシェはともかく、男性であるアルに対して飛びつくのは品がないとは思う…けど、嬉しすぎて我慢できなかった。


「では、わたしはコレを。美肌効果のある石鹸です」

「あら、ありがとう。…ところで貴女はどちらさま?」


 少し間をとって、びくっとクルーシェとアルが反応した。

 何故か普通にこの場に存在し、自然とプレゼントを差し出してきたのは獣人…兎耳の白髪の少女だ。


「おまっ!?マキア!?いつの間にここに!?」

「く、曲者ですかにゃ!?」

「あら、アルのお知り合い?最初からいたからてっきりお招きしたのかと…」


 クルーシェはふーっ!と威嚇して、アルも思わずわたくしとの間に入る。


「怪しいものではございません。わたしはマキア=スィール。フレイズ王子殿下の遣いです」

「あらご丁寧にどうも。…ところでその両手の動きは何かしら?」


 パパパっとあらゆる動きをしゃべりながら見せた彼女に疑問を投げかける。


「これはハンドサインです。実は窓の外にわたしの相棒が待機しております」

「あら、流石は兄さまの遣い」

「っていう設定だったな、いつもいねーけど」


 なかなか独特の感性を持っているらしい。


「ちなみにアルにはこれをプレゼント。是非開けてほしい」


 もじもじとアルに対して恋する乙女のように箱を差し出す。あら…まさか?


「中身は?」

「そんなこと…女の子に聞かないで。恥ずかしい」

「な・か・み・は・な・ん・だ?」


 どうやら定番の冗談らしい。


「アル殿…!?そんな不潔な姿を姫様に見せないでくださいにゃっ!」


 冗談が通じない純粋な少女もここにいましたね。


「ちげーわ!?今日は何詰めた!?発煙筒か!?爆薬か!?」

「アル、流石にそれは常識がなさすぎる。いくらなんでも王女殿下のいるところでそんな発想はおかしすぎる」

「全部ブーメランだなコラっ!?」


 そうしてる間にわたくしは温封ポットを用意しそれぞれのティーセットを持ち出す。


「王女殿下。そのようなお気を使わず。わたしが既に用意したお茶がございます。こちらに」

「あら、とても気が利きますね?」

「頼むから姫様も順応しないでください…」


 場を落ち着けようとしたのだけど、アルはとても辛そうに頭を抱えている。面白い方に好かれたものだ。これがお人よし故の苦労なのか。


 ………


「と、いうことで。フレイズ王子殿下からは一週間後、帝国への交流も兼ねた遠征に向かいます。それに同行せよ、とのことです」

「最初からそれだけ伝えろよ…」


 色々あったが、マキアは要件と本当に石鹸を渡しに来たらしい。ああ、お茶おいしい。緑茶に似た風味が独特ですね。


「ところで、スィールということは…確か副騎士団長の?」

「娘でございます。アルよりは1つ下。きっとアルが父より奪ってくれると確信しております」


 まあ、とても情熱的。アルは最早訂正することすらできないほど疲れ切っている。クルーシェはいまだに威嚇しているけども。


「了承致しましたとフレイズ兄さまにお伝えください。マキアも、是非今度お話しましょう」

「是非。フレイズ王子殿下とアルが認めし王女殿下のお話、とても興味があります。それでは」


 シュンッ!と音も無く去っていく。残されたのは緑茶の香りとパニックになっている純粋メイドとお人よし近衛騎士。


「帝国ですか…。そういえばアルは帝国式の剣術と聞きましたが、生まれは帝国なの?」


 マキアが去ってしまったことに安心したのだろう、こほんと呼吸を整えた。


「家系は王国と帝国に分かれてます。まあ…剣術としての基礎は帝国との紛争時に混ざった感じです」

「王国と帝国の紛争ね。確か50年以上前でしたね」


 歴史書においては武に強い帝国がけしかけたが、予想外に強かった王国の抵抗により不可侵条約を結んだとのことだ。


「紛争…ほぼ戦争ですか。民が苦しまない国や大陸の繁栄があればいいのですがね」

「姫様…」


 思った以上に表情を出してたのか、クルーシェが心配そうに見つめてくる。


「大丈夫よ。歴史は重ねていたとして、それをわからない他国ではありません。それに…問題が起こるのは他国との縁だけではありませんからね」


 お茶を飲み干し、二人に改めて向き直り、微笑み礼を言う。


「二人ともありがとう。このプレゼント、大切に使いますね」


 きっと未来はある。舞台装置でしかなかったわたくしでも、それにまつわる繋がりも。


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