SCENE-004 お気に入りの首輪


 大学正門から徒歩十五分。


 更衣室がある管理施設の前で一旦分かれて。預けていた装備に着替え、準備万端、施設の外でまた落ち合う頃には、すっかりご機嫌と言っていいくらい。ジンは散歩が待ちきれないワンコよろしく、私に向かって見えない尻尾を振っていた。


「姫。姫。俺たちが完全に〔獣化〕したら姫とは話せなくなるから。念話ができるように〔支配〕してくれるんだよね?」

「背に腹はかえられないから……」

「やった」

「でも、ダンジョンから出る時にはまた解くからね」

「えぇー……」


 ちらほらとある人の流れを堰き止めないよう、ジンの腕を引っ張って。防空壕の遺構に開いたダンジョンへの扉をくぐると、まずは開けた場所に出る。


 ダンジョン内に点在するセーフエリア。

 スタンピードの真っ最中でもない限りモンスターと出会す心配のない安全地帯で、ベルトにぶら下げていたDタグに触れて。「十七層へ」と誰にともなく宣言した次の瞬間、Dタグの摩訶不思議な機能でパーティを組んでいる私たちは三人まとめて、第十七層にあるセーフエリアへと移動していた。


「ジン、おすわりkneell

「――わんっ」


 私が言えば喜んで膝をついてみせるジンの首元に手を触れさせて、〔支配〕を唱えると。私のスキルはなんの抵抗も受けることなく、ジンの首に首輪のような茨模様を描き出す。


「これで満足?」

「うん」


 にっこりとしたジンに背を向けて、振り返ると。ロウはとっくに、私の手が届くところに膝をついていた。


「ロウは初めてだから、違和感とかあったらすぐに言ってよ?」

「あぁ」

「返事はいいんだから……」


 あんまり気は進まないけど。これが一番賢いやり方なのもわかっているから。私は腹を括って、ロウのこともジンと同じように〔支配〕してしまう。


「――〔支配ドミネーション〕」


 スキルに抵抗されたような手応えは、やっぱり感じなかった。



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