SCENE-002 肉食系ゆるふわ女子
ダンジョンでモンスターがドロップするアイテムはどれもこれも
ダンジョンができて三十年。
おそらくダンジョンを探索してレベルをあげるうちに、ゲームで言うところの〝魔力〟や〝気力〟に相当する〝目には見えないエネルギー〟の保有量が増えていって、ダンジョン産のアイテムはそのエネルギーに反応しているのではないかというのが今の通説。
だから。もしものときに備えてDタグを取るだけだけ取っておく、という人もわりといる。
いざというときに備えて保険をかけるよう。何かあったときに、運良くポーションが手に入ればその恩恵を享受できるように。
そんな人たちは、大半が教習所に通うか合宿に参加するかして、探索者免許を取得したら探索者としてはそこでドロップアウト、という感じらしいけど。
私たちが在籍している逢坂大学に探索者サークルがあることを私が知ったのは、構内を飛び交う呼び込みの声で毎日がお祭り騒ぎのようだったサークル勧誘期間も終わって久しい、五月の末のことだった。
「月森さんって、いつも鳴神くんたちと一緒にいるよね? 三人でダンジョンに入ったりもするの?」
学部が同じなら学科が違っていても、共通単位の授業で毎日のように顔を合わせることも珍しくない今の時期。
なんとなく顔見知りになって、普段はすれ違いざまに挨拶をするくらいの同期生から話を振られて。うん、まぁ……と、そんな流れで。
……なんて名前だったかな。
咄嗟に名前も思い出せなければ、ダンジョンの待機列で隣り合わせても気付かないだろうな……と、確信を持って言える。
その程度の、関係と言えるようなものもろくにない相手。
頭の天辺から爪の先までバッチリおしゃれに決めていて。それなのに、どこか緩くてふんわりした雰囲気と甘い香りを纏っているその
「私、この大学の探索者サークルに入ってて。サークルの先輩たちと逢坂ダンジョンに入ったとき、月森さんたちのことも見かけたの。もしよかったら今度、月森さんたちも一緒に行かない? サークルにはこれから免許を取るって子もいるし。OBがいるギルドの人も親切にしてくれるから、今からでも全然遅くなんてないよ」
「うーん……どうかな。私たち、アルバイト代わりに潜ってるから……他の人たちと一緒に、っていうのはちょっと難しいかも」
はっきり言うと角が立つだろうから、濁した言い方にはなったけど。内心考える余地もなかった。
むしろ絶対嫌だ、面倒臭い……という本音が愛想笑いの下にちゃんと隠れているか、思わず鏡を確認したくなったほど。
「えっ。そうなんだ……なんかごめんね、月森さんも大変なのに」
何も大変ではないけどそういうことにしておけば、もう声をかけられることもないだろうと。
女子トイレの中で、私が一人になるのを見計らったようなタイミングで声をかけてきたその子と穏便に別れることができた時点で。私の中で、その話はすっかり終わったことになっていた。
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