本編その後~だらだら続く蛇足のはなし~

探索者Lv20

SCENE-001 明日からのお楽しみ


 専業探索者として生計を立てていくのは難しい、という話は聞くけど。私たちの場合は大学の授業終わりや週末だけの活動で、家賃や三人分の生活費を賄うことができているから。最近は、収入源の一つとして考えるなら意外と悪くはないんじゃないかと思えてきた。


 私は実家のことがあるから就職を考える必要がない。……というか、それなりに長く続いている社家の一人娘だから、家業を継がなければ将来的に実家が実家でなくなってしまう、なんてことになりかねないわけで。実質的に選択肢なんてないわけだけど。


 我が家が代々管理している月杜つきもり神社の境内には、未だに踏破されていない深深度のダンジョンがあって。うちの両親も神職としての仕事と探索者活動を両立させているくらいだから。家業とは別に、趣味と実益を兼ねた副業として探索者をやるというのは、私の中で、そこそこ現実的な選択肢になりつつあった。




 社家としての仕事も、探索者としての活動も、それ以外のことも、何もかも、全部。ロウジンは当たり前に〝私と一緒〟だと考えているらしいから。


 それならきっと、最終的にはなんとかなるんだろうな……って。




装備変更はやきがえができるアイテムも揃ったことだし、そろそろ完全〔獣化〕した獣士を実戦投入してみる?」

「いいね。そうこなくっちゃ」


 探索者免許を取得する前、教習所に通っていた頃から固定パーティを組んで、戦闘への貢献度に関係なく経験値が分配されるようにしていたから。誰か一人が突出するということもなく、足並みを揃えることができている私たちのレベルもついに20を超えて。そろそろ次のフロアボスへの挑戦も視野に入ってきた。


 湧き待ちの関係もあって時間が許す限り無限周回、とはいかなかった逢坂ダンジョン第十層のフロアボスがようやく目当てのアイテムをドロップしてくれたことで、着替えの心配もなくなって。ロウジン獣士ビーストとしてのポテンシャルを遺憾無く発揮してくれるなら、レベルと同じ階層が適正の狩場とされれている中、安全マージンをとって一つ二つ手前の階層を周回するなんて、石橋を叩いて渡るような用心もしなくてよくなる。


「でも、十層のおつまみ周回もまだ続けよう? 姫の分の〔早着替え〕も欲しいし」

「ロウとジンの分が壊れた時のことも考えて、予備を確保しておくのはいいかもね」


 二人分の装備変更アイテム――大学最寄りの逢坂ダンジョンでは第十層のフロアボスが確率でドロップする、〔早着替え〕が付与エンチャントされた装備品――が揃う今日までは、一人分しかなかったアイテムをロウジンのどちらに使わせるか、私が選べなかったせいで、パーティ内で一番それを必要としていない私が使うことになっていたわけだけど。


 手軽に装備変更ができるアイテムがパーティメンバー全員分あれば便利なことは間違いないので。探索者の装備品が消耗品であることを考えても、第十層のボス周回を続けることに異論はなかった。


「今より深い階層に潜れば実入りも増えるだろうから、余裕ができたらマーケットで買うって手もあるけど。周回でいいの?」

「今までは予約が取れた時間に合わせて動いてたけど、これからはちょうどいい時間に予約が取れたら……って感じにすればいいんじゃない?」

「ロウもそれでいい?」

「あぁ」


 じゃあそういうことでと、〔早着替え〕の準備が終わっていない今日のところはいつもどおり、第十七層から十九層にかけてを時間が許す限り周回してうろついて。何事もなく帰路に着いた。



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