SCENE-008 女王様の犬
ダンジョンに泊まり込みで探索をしようと計画していた週末の予定がすっかりおじゃんになった連休明け。火曜日の朝。
「ジン。〔支配〕を解くから、こっちきて」
「えー……このままでいいのに」
「〝首輪〟がないと私の言うことなんてきけない?」
「……その言い方はずるいなぁ」
最終手段としてドロップ品のポーションで体の調子を戻した私が、すっかり出かける仕度を終えた状態で呼び寄せると。仁はいかにも渋々といった風情で私の前までやってきた。
いつもなら呼ばれなくてもそばにいて、べったりなのに。今日は起きてからずっと妙な距離の取り方をして。挙げ句、何を警戒しているかわかりやすく首元が隠れる服を着ている。
「――
すとん、と私の前に座り込んだ仁の首元に触れて〔解放〕を唱えると。今度こそ、仁の首から首輪めいた茨模様は綺麗に消えてなくなった。
「いい子ね」
気持ちとしては嫌だけど、私に逆らうのも違うからと大人しく従っている仁がかわいくて。ちょうどいいところにある頭をわしわしと、犬でも褒めるよう掻き混ぜから、最後につむじへキスをする。
「んふ。待って。これやばい。癖になりそう」
ぎゅっ、と抱きついてきた仁がそのまま立ち上がると、思いの外視線が高くなって怖いくらいだった。
「そろそろ出るぞ」
鞄を肩に引っかけた狼が、仁に持ち上げられて、足をぶらぶらとさせていた私のことを引き取ると。そのまま私を荷物のよう運びはじめた狼に、私が足元に置いていた鞄と自分の鞄をまとめて持った仁がついてくる。
「二人とも背が高いから、気軽に持ち上げて運ばれると結構怖いんだけど」
「昔はそんなこと言わなかっただろ」
「子供の頃の話でしょ。二人がにょきにょき伸びる前」
言われてみれば。こんなふうに抱き上げられるのが久しぶりのことだと思い至った。
座っている時にピッタリとくっついて来られたり、膝の上に乗せられたりすることはよくあったけど。抱き上げて運ばれるようなことは、もう何年もなかった気がする。
「二人とも、実は結構、私に気を使ってくれてたの?」
「うん?」
「なんの話だ?」
ここで意味がわからなそうに首を傾げて見せられるのも、それはそれでポイントが高いと感じるのは、私の贔屓目というやつなのだろうか。
「姫、俺のこともぎゅーってして」
「さっきしたでしょ」
何がしたかったのかよくわからないまま、狼が玄関の手前で私を降ろすと。後ろをついてきていた仁がまた私のことを抱きしめて、首元にぐりぐりと顔を押しつけてくる。
「ねぇ、もしかしてマーキングしてない? いくら完全に〔獣化〕できるようになったからって、自分が人間だってことは忘れないでいてほしいんだけど」
「そんな……俺たち、もうずっと姫の狗のつもりで生きてきたのに。今更そんなこと言わないで。責任持って死ぬまで面倒見てよ」
仁の頭に突然バサッ、と生えてきた耳がこれ見よがしにペタンと伏せられて。
私の前に膝をついて、上目遣いで見上げてくる仁の「きゅーん……」とでも鳴きだしそうな、わかりやすい
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