SCENE-007 ハジメテをもらう方と将来的にナマでさせてもらう方


 お腹が満たされると、途端に眠たくなって。

 ソファにもたれながらうとうとしはじめた私に、二人はこれまでと変わらず優しかった。


 眠いなら寝ていいよ、と連れて行かれた先は、私の部屋ではなく、二人が使っている和室の方だったけど。




 力尽きて、倒れ込むよう布団に転がった後のことは、プッツリと記憶が途切れて覚えていない。


 泥のように眠って、ふと目が覚めると。部屋の中はとっぷりと暗くなっていて。

 私の体には、いつもどおり、狼と仁の腕や足がこれでもかと絡みついていた。




 いつもと違うところなんて、どこにもない。


 それなのに、私たちの関係は、昨日までとは決定的に変わってしまっている。


 ……本当に?


 私たちの関係は変わってしまった。

 そのはずだけど。


 この状況があまりにも、いつもと変わらなすぎて。やっぱり全部、夢だったんじゃないかと、少しだけ怖くなる。


「じん……」


 夢なら覚めないでいてほしかったけど。

 覚めてしまったのなら、仕方がない。


 そんなふうに、心の中で予防線を張りながら。私が名前を呼ぶと。私の背中に回されていた仁の腕にむずがるような力が込められる。


「ん……ぅ……? ひめ、おきたの……?」

「うん……」


 ぐっ……と抱き寄せられて。頬をすり寄せられるのも、いつもどおりだったから。なんの判断材料にもならなかった。


「ねぇ、いま何時?」

「んー……」


 私の背中から離れていった仁の手が、ごそごそと布団の外を探って。戻ってくると、点灯したスマホのバックライトで周囲の様子が照らし出される。


「八時過ぎ……」


 寝起きの顔で、眩しそうに目を細めながらスマホのディスプレイを見ていた仁は、まだ寝たりなさそうな欠伸混じりに、用の済んだスマホを布団の外へと投げ出した。


「姫、起きる……?」

「うん……」


 戻ってきた手が、私の髪を丁寧に梳き流していく。


「起きるなら、姫が寝ちゃってできなかったことの続きをするけど」


 それでもいい? と、仁の声が、強請るように甘くとろけて。


 もう一度、仁の方へと抱き寄せられた私の体に、ゴリッと硬いものが押し付けられる。


 その張り詰めた感触の正体へ理解が及ぶ頃には。いつの間にか起きていた狼の手が、私の体の輪郭を、いやらしい手つきでなぞりはじめていた。




 夢なんかじゃない。




「ゆっ……ゆっくりして!」

「もちろん。姫のハジメテはこれっきりなんだから、俺も狼もがっついたりしない。本物のお姫さまより大事にするよ」


 思わず大きな声を出した私のことを、狼の方に押しやって。唯一の光源だったスマホのバックライトが消灯したことで、戻ってきた暗闇の中。体を起こした仁が、つられてこっちまで体が熱くなってくるような熱を帯びた体で、本格的に覆い被さってくる。


「痛い思いはさせないように気をつけるし、姫が愉しめるように努力もする」


 だからいいよね? と、仁は私にキスをした。




 真っ暗な中で二つの口と四つの手から施される執拗な愛撫に、時間をかけてやりすぎなくらい蕩かされるのは、信じられないくらい気持ちが良くて。


 これが夢でないのなら。それだけで、私にとって怖いことなんて一つもありはしなかった。



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