SCENE-006 円満な三角関係
「盛りのついたケダモノどもが……」
「姫。姫。お姫さまじゃなくて女王様の方が出てるよ」
「もう姫プやめる……二人がかりなんて身がもたない……なんで気付かなかったんだろう……これって結局、私が一番大変なやつじゃない……?」
狼と仁が完全に〔獣化〕した姿を私に披露してくれたのが土曜日の夕方。
それから色々あって。私が眠っている間に連れ込まれた和室から出してもらえたのは、日曜日の
土曜日の夜も、日曜日の朝も食いっぱぐれてもう限界だと訴えて、ようやく。
買い置きしていたスポーツドリンクが底をついて、やっと。
コンビニで適当に何か買ってくると言って、狼が出かけていくと。私と二人で留守番をすることになった仁はすっかり大人しくなって。それ以上、私を疲れさせるようなことはしてこなかった。
狼がいなくなってから仁がしたことといえば、せいぜい、すっかりバンビになった私に甲斐甲斐しく服を着せて、ぬいぐるみのように抱きしめながら頬をすり寄せてきたくらい。
私が下着の他に、くたびれたロンTしか着ていなくて。仁が上半身裸なことに目を瞑れば、仁が私にべったりなのは、わりといつものことだから。今更、距離の近さは気にならなかった。
そういう雰囲気にさえ、ならなければ。裸を見られて恥ずかしいと思うような関係でも、体型でもないのだし。
「姫が大変なら、一人ずつ日替わりにする?」
「普通に気まずい」
「じゃあ仕方ないね。姫に体力つけて、頑張ってもらわないと」
「うぅっ……」
既にだいぶしんどみを感じている私のことを慰めるよう、唇をよけて顔中にキスをしてくる仁の振る舞いに、性的なものは感じられなくて。
あくまで仲のいい家族めいた触れ合いに、すっかり騙されていたのだと。私が仁に向ける視線は、だんだん据わったものになる。
「昨日まで二人して性欲なんてありません、って顔してたのに……」
「俺たちみたいに若くて健康なオスがそんなだったら、むしろ不健全じゃない? 性欲なんてむちゃくちゃあるよ。むしろ姫の方がその手のことに潔癖な感じだったから、嫌がられないように隠してただけ」
潔癖と言われると、少し違うような気もする。
とはいえ、昨日までの私がその手のことから努めて意識を逸らしていたことは間違いなかった。
私のことを家族として受け入れてくれている二人に女としての欲を向ける、そんな気持ちの悪い同居人にはなりたくなかったから。
そういう意味では、私も狼や仁のことをとやかく言えない。
「それで、どっちと先にヤるか、そろそろ決まった?」
こういうデリカシーのないところは、本気でどうかと思うけど。
「やめて。選ばせないで……私は双子の兄弟がいたらまとめてどっちも欲しがるような女なの。ロウとジンの〝どっちか〟なんて選べない……選べるならとっくにどっちか選んだ方と付き合ってる……」
昨日からずっと悩まされている問題を蒸し返されて。私はもう何度目かわからない頭を抱えた。
「姫が決められないなら俺と狼がジャンケンして決めることになるけど」
「二人で決められるなら是非ともそうしてほしい……私に背負わせないで……」
「姫がどんな理由でどっちを選んでも、俺たちは気にしないのに」
私にとっても大事なことだから、と判断を委ねてくれた二人には悪いけど。こればっかりは、本気で決められそうにない。
「でもジャンケンだと十中八九ロウが勝つだろうから、平等にくじ引きとかにしない? イカサマなしで」
「イカサマ前提なのはやめてね。多分俺のことだと思うけど、姫のことで狼相手にズルなんてしたことないから」
「ロウはそもそもイカサマをしないのよ、あんたと違って」
「姫って、イカサマはするけど勝手にキスはしてこない男と、イカサマはしないけど勝手にキスしてくる男なら、どっちが好き?」
「選べないって言ってるでしょ!!」
「んっふ……マジギレじゃん」
「――なんの話だ?」
玄関ホールと繋がっている扉をガチャリと開けて部屋に入ってきた狼は、コンビニ帰りとは思えない大きさの袋を両手にぶら下げていた。
「どっちと先に寝るか、姫は決められないからくじ引きで決めていいって」
「本気か……?」
私と仁が座っているフロアソファの前に置かれたローテーブルにガサガサと並べられる大盛りパスタだの、カツカレーだの、チャーハンだの、本気で適当に選んできたとしか思えないメニューに、デリカシーがないのは兄弟二人して同じようなものだったと、私は露骨な溜息を吐く。
「二人がかりで一人の女を抱こうとしてる男どもの片割れにだけは言われたくないわよ」
「でも姫は一人ずつ日替わりも嫌なんだよね?」
「嫌だけど……なに。もしかしてロウとジン的には一人ずつってアリなの!? 解釈違いなんだけど……!」
「アリかナシかで言えばナシ寄りではある」
「同感。一人しかいない姫を狼と共有するのは構わないけど、分け合うのはちょっと違うかな」
そうでしょうと、深く頷いてから。
とにかく空腹が限界だと手を伸ばした私に、狼が何食わぬ顔で差し出してきたのはカップ入りのサラダで。
そこはちゃんと押さえているんだな……と。なんだかおかしくなって、笑ってしまった。
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