SCENE-003 似たもの家族


 一緒に暮らしている家族だから。

 姉でも妹でもない私に対する距離感なんて、こんなもの。


 ずっと、そんなふうに思っていたのに。


「い、いつから……?」


 初めて使う内鍵をかけて閉じこもった部屋の中。

 衝動的に飛び込んだクローゼットの中で頭を抱える私に答えてくれる人はいない。


「血は繋がってないけど、家族だって……そんなふうに思ってたのは、私だけだったってこと……?」


 日本育ちの日本人は家族だと思っている異性にマウストゥーマウスのキスなんてしないはずだ。


 そんなことをするのは恋人や、家族の中でも特別な相手――配偶者――とだけ。


 仁は私と家族になりたいと言った。

 今はそうではなくて。あくまで、これからの話。


 私とキスをするような家族になりたいと。


「うぅっ……」


 信じられないのは、仁が〝狼も〟と言っていたこと。




 どちらかを選んでしまえば、どちらかを失ってしまうのだと、そんなふうに思っていた。


 私が余計なことをしなければ、狼と仁はずっと付かず離れずの距離を保っていくだろうし。私は家族だから、他のどんな存在よりも違和感なく、ニコイチという言葉がぴったりな二人と一緒にいられるだろうと。


 それなのに。


「二人とも私のことが好きで、二人ともそれでいいって思ってるわけ? そんなの……」


 にやけそうになる口元を手の平で覆い隠しながら。こんなのはきっと夢に違いないと、だんだん怖くなってくる。


「これが夢なら醒めなきゃいいのに」


 こんなにも、私にとって都合がいいばかりの夢を見るのは初めてだった。



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