探索者Lv10
SCENE-001 ルームシェア
進学するにあたって、家を出るとなった時。進路もお金のことも私の好きにさせてくれた両親が一つだけつけた条件が〝鳴神兄弟との同居〟だった。
普通は子供の方がそういうことを言い出して、大人が反対するものだと思うけど。うちの両親としては私に一人暮らしをさせる方が心配だったらしい。
普段から狼と仁のことをうちへ預けっぱなしにしている鳴神父は言わずもがな。
学生向けのアパートはとてもじゃないけど、三人で生活するには狭すぎたから、探索者向けの物件から少し広めの部屋を借りて。それでも三人で家賃を出し合ったら普通に一人一部屋借りるより安く済んだから、結果的にはよかったんだろうけど。
「ねぇ、やっぱりあんたたちが広い方の部屋を使ったら?」
2LDKの賃貸で三人暮らし。
三人の内訳が男兄弟と家族同然に育った女一人なら、紅一点の私が一人部屋を貰うのが当然とまでは言わないけど、私たちの間では自然な流れだという感覚はある。
だからせめて、狼と仁が広い方の部屋を使えばいいのに。
二人で一部屋を使うことになる狼と仁は、そうは思わないらしかった。
「こっちの部屋は引き戸で鍵がかけられないから。クローゼットは狭いけど、姫がそっちの部屋を使った方がいいよ」
仁の言うことに狼ももっともらしく頷いて見せるけど。そもそも私たちは、これまでも同じ家で家族同然に生活していたのだから、私の個室に鍵がかかるかどうかなんて、そこまで気にするほどのこととは思えなかった。
「鍵なんてかけないわよ」
「それでもいいから」
障子風の引き戸を開け放てばLDKと一続きになる和室と、しっかり扉で区切られた内鍵付きの洋室。
プライバシーの観点で後者が優れているのは間違いなくて。こっちの方が広くていい部屋なのに……と渋る私に、仁はだからだよ、と無理やり方向転換させた私の肩を掴んで押してくる。
「あ、」
気がつけば。私と仁が話しているうちに、リビングスペースに積み上げられた段ボール箱の一部を、狼が洋室へと運びはじめていた。
「あいつのことだから、放っておくと荷解きまでやりはじめるよ」
「荷造りにもあれだけ手を出しておいて、まだ世話を焼き足りないわけ? ――ロウ! 服が入ってる箱には触らないでっ」
目の前で着替えるのも、着替えられるのも別に平気だけど。実の母親でもやらないような世話の焼き方をされることには妙な気恥ずかしさを覚えて。
狼が持っている箱を取り上げようと私が伸ばした手は、さっと背中を向けてきた狼の体に阻まれてしまう。
「運ぶだけだ」
「自分たちの分をやりなさいよ」
「これを運んだら」
そう言って狼が洋室に運び込んだ箱が、私の荷物の最後の一つだった。
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