第2話
仮想世界での生活に慣れ始めた頃、美沙子は衝撃的な研究に出会った。それは「意識の量子もつれ実験」と呼ばれるものだった。
「二つの意識をデータレベルで量子もつれの状態にすることで、お互いの感情や記憶を共有できる」
研究資料を読み込む美沙子の瞳が輝く。これこそ、自分が探し求めていたものではないか。
「翔太、私たちでこの実験をしてみない?本当の愛を確かめられるかもしれない」
美沙子が熱っぽく語りかけると、翔太は少し戸惑いながらも頷いた。
「君と同じ気持ちを共有できるなら、僕は喜んでそうする」
実験の準備は着々と進んだ。特殊な機器を使い、二人の意識データを量子もつれの状態に同調させていく。いよいよ実験開始の時が来た。
「準備はいい?」
美沙子が翔太を見つめる。翔太は彼女の手を握り、頷いた。
「始めます」
研究員の合図と共に、意識の融合が始まった。途端、美沙子の脳裏に翔太の感情や記憶が流れ込んでくる。翔太も同じ体験をしているのだろう。圧倒的な情報の波に、美沙子は息を呑んだ。
「これが、翔太の心の中……」
喜びや悲しみ、愛情や孤独。翔太の感情が美沙子の全身を駆け巡る。同時に、美沙子自身の感情も翔太に伝わっているのを感じた。二人の意識が完全に重なり合う、奇跡のような瞬間だった。
しかし、実験は思わぬ方向へ進んでいった。意識の共有が深まるにつれ、二人の自我が曖昧になってきたのだ。
「私はどこまでが美沙子で、どこからが翔太なの……?」
混乱する美沙子に、翔太も動揺を隠せない。
「僕も、自分がわからなくなってきた……」
さらに、実験の影響は現実世界にも及び始めた。二人の意識データに同調した量子コンピューターが、予期せぬ動作を見せたのだ。
「これは、一体どういうこと?」
研究員たちがパニックに陥る中、美沙子と翔太の意識の融合はさらに加速していった。
「翔太、私はもう……」
「美沙子、僕も……」
二人の自我は溶け合い、もはや個人の区別がつかなくなっていた。美沙子と翔太は、文字通り一つの存在になったのだ。
気がつくと、美沙子は現実世界の研究所のベッドの上にいた。
「私は……美沙子?」
自分の名前を呼ぶことさえ、違和感を覚える。隣のベッドには、翔太の体が横たわっている。だが、そこにいるのは翔太ではない。美沙子自身の意識の一部なのだ。
「一体、何が起こったの……?」
混乱しながらも、美沙子は仮想世界に意識を戻した。すると、そこには翔太が佇んでいた。
「美沙子、君も感じただろう?僕たちは一つになったんだ」
翔太の言葉に、美沙子は頷くしかなかった。二人の意識は融合し、もはや完全に分離することはできない。現実世界と仮想世界を行き来しながら、美沙子は新たな存在としての自分と向き合うことになる。
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