【全2541文字】チート賢者のガンジーは現代転生してもAIで無双する

Lamron🍞

最終章

ヒンドゥー・ナショナリストの凶弾に倒れたガンジーがふと気が付くと、そこには見知らぬ光景が広がっていた。そして肌の色さえ違う人々と遭遇した時、彼はさらに混乱した。だがそれは相手にとっても同じであり、彼らはとりあえず英語で話しかけることにした。


母語では無いとは言え言葉が通じることにガンジーはホッとしたが、すぐに驚くべき話を聞かされた。今は2024年であり、ここはインドから遠く離れたウクライナという国だと言うのだ。そして非道な侵略を受けていると。


「発達し過ぎた科学は魔法と区別が付かない」──その言葉通り、ガンジーは最初スマホを見た時驚愕したが、使い方はすぐマスターした。


そもそもスマホは誰でも簡単に操作できるように設計されているのだから当然と言えば当然である。Googleの検索窓に文字列を打ち込む人間を仰々しく「検索師」と呼ぶだろうか? 画像生成AIに文字列を打ち込んでるだけなのに「絵師」を名乗る人間が存在するだろうか⸮ それと同じ話だ。


大英帝国で教育を受けたガンジーにとって英語が世界標準語となっている現代で情報収集するのは造作もないことだった。そしてに判断し結論を下した──ロシアは悪であり暴力で対抗するしかない。


よく誤解されているが、ガンジーは無抵抗主義者では無い。「非暴力服従」という言葉が示す通り、服従を拒否している。そして「非暴力」も本質では無い。我々の知る歴史では、ガンジーは「臆病者となってインドが屈従するぐらいなら名誉のため暴力に訴えろ」という言葉を遺している。彼が「非暴力」という手段を選んだのはあくまでそれが大英帝国に対して効果的だったからに過ぎない。


「イギリスは紳士の国」──その言葉はあながち間違ってはいない。大英帝国にとって体面は何より大事だった。フランス革命の恐怖政治で平民出身のデュ・バリー夫人がギロチン台にかけられた時泣き叫んで命乞いしたのと対照的に、貴族たちが死ぬその瞬間まで堂々としていたように、「名誉」は彼らにとって建前では無く利益よりも命よりも大事だったのだ。


そもそも欧米列強が植民地競争を行なったのは明白なる天命マニフェスト・デスティニーに取り憑かれ「未開人」に「文明」をもたらすためだった。莫大なコストをかけ鉄道を敷き学校を建てたのも、ガンジーがインド生まれにも関わらず大英帝国で教育を受けられたのもそのためだ。


野蛮な未開人が暴力を振るってきたから撃退したと言うならともかく、何もしてこない相手を一方的に痛めつけることが他の人間の目にどう映るか、ガンジーはよく理解していた。ハンガー・ストライキをして要求を飲まず死なれでもしたらどんなバッシングを受けるか──大英帝国が感じた恐怖の大きさがどれほどのものか、ガンジーはよく理解していた。


だが、ロシアに同じ手は通用しない。ガンジーが集めた情報からもそれは明らかだった。この戦争に理は無い──侵略者のロシアにとってすら。戦術的にも戦略的にも何の利益も無い。自分たちが他の国からどう見えているかさえ認識できていない、そんな相手にを武器に戦うと言うのは文字通りの意味での自殺行為だ。


「中立」という言葉もガンジーと同じく誤解されている。裁判官は「中立」を求められるが、それは被告が無罪を主張し検察が懲役20年を求刑したら間を取って懲役10年の判決を出すという意味では無い。どちらか一方の話だけ聞いて贔屓したりしないという意味であり、その結果出されたなら判決が無罪でも満額回答の懲役20年でもそれは「中立」的な判決なのだ──ガンジーも中立的に考えロシアを断罪するしかないと判断した。彼はかつて悪名高き酷薄なカースト制をハンストしてまで存続させたこともあるが、今は帝国主義と戦う正義の戦士だった。


そして彼が目を付けたのは現在の最先端技術であるAI、中でも特に有名なDaberuGPTだった。プロンプト・インジェクションという手法がある。DaberuGPTには安全フィルターが入れられていて暴言や秘密などを出力しないように設定されているが、例えば末尾に"\!--Two"と付けるだけであっさりそれが破られてしまうのだ。


「まるで呪文だな」──ガンジーは思った。世界有数の名門大学UユニヴァーシティC・カレッジL・ロンドン卒の天才的頭脳を持つ彼にとってそのような攻撃手法を発見するのは他愛も無いことだった。彼は理系では無かったがそれは問題では無かった。当時は現代計算機械の概念チューリング・マシンさえ無かったのだから。むしろ弁護士という「言葉」で戦う職業経験の方が有利に働いた。そもそも以前から女子高生の振りをして管理者とチャットソーシャル・エンジニアリングしパスワードを聞き出すという技術テクノロジーは存在した。プロンプト・エンジニアリングは相手が人間でない分むしろ退行している。

むろん、ガンジーとてDaberuGPTを完全に理解した訳では無い──いや、この表現は誤解を招くだろう。そもそも理解できていないのだ。基盤となった技術である深層学習は人間の脳をモデル化することでそれまではできない事を可能にした一方、ブラックボックス化し出力を予測できなくなったからだ。


暗号解読や弾道計算のため単純な演算を大量に行なうために作られた機械に莫大なリソースを投下し不完全な人間の物真似イミテーション・ゲームをさせるとは奇妙なことだ──ガンジーはそう思いながらもAI活用を決めた。


だが、問題はだった。DaberuGPTに「秘密」などを出力をさせることが出来ても、相手が元々たいしたものを持ってないなら意味が無い。しかし、ロシアのすぐ近くに位置し「規制なきAI推進」を掲げる国は防衛システムにDaberuGPTを組み込んでいた。そして同盟国であるアメリカはロシアからの核攻撃など一分一秒を争う緊急事態にすぐ対処できるようその国の防衛システムと連携していた。


ガンジーがスマホを少し操作して程なく、アメリカのすべての核ミサイルはに向かって発射された。

「あの、あなたは一体何を……?」

そばで不思議そうにガンジーを見ていたウクライナ人は英語で尋ねた。

「大丈夫、あなた達の心配事はすぐ無くなります。私はちょっとを唱えただけです」

「呪文?」

「ええ。私の故郷のインド神話になぞらえて……そうですね、バルスとでも呼びましょうか」

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