第42話 聖女とドームファイト


 俺達はドームの中で敵である豪華な法衣の女と睨みあった。


「何しているの!?」 ヨゾラさんが叫ぶ!

「収納が効きません!」 俺も叫ぶ!

「え!?くっ!!なら私が!!」 ヨゾラさんが法衣の女に斬りかかる。


「くっ!」 女が応戦する。

 良かった!法衣の女の動きは早くない。武術をやっている動きじゃない。


 警戒しながら見ていると、何度もヨゾラさんの魔法剣に斬られているが、倒れる様子はない。

 ステータスが想像以上に高いのか? それとも支援魔法のせいか?


 ゴウ!ドガギイィイン!!


「うわっ!」 また砲撃だ。ドームに当たった。

 周囲を見るとドームに敵が集まってきていた。


「聖女様!!」「何だこれは?」「早く聖女様を助けろ!」

 法衣の女は聖女だったらしい。フードをかぶっていたから分かりにくかったが、確かによく見ると黒髪黒目だ。


 ガン!ドン!バキ!


 ドームが攻撃を受けている。周囲の敵を収納してしまおう。

「何だこれは!フン!」 ドォォォン!!

「俺が壊してやるよ!!」 ズガガガガ!!

 音に驚いて振り返ると指揮官らしき立派な騎士と燃える大剣を持った大きな獅子獣人がドームを攻撃していた。


 ヤバい!とにかく収納だ!


 死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!


 指揮官らしき騎士と強そうな獅子獣人を収納できた。周囲の奴らもかなり収納できた。ドーム内の聖女に気をとられてしばらく収納していなかったため、大勢近づいていたから指揮官も攻撃されないと勘違いして近づいてきたのだろう。聖女が中で攻撃を受けているのが見えて焦ったのかもしれない。不幸中の幸いといったところだ。


 ゴウ!ドガギイィイン!!

 また砲撃が来た。耳が痛い。


「聖女様!!」「何だ?」「人が消えて?!」「離れろ!」「聖女様を助けろ!!」

 敵の動きは離れていく奴や近づいてくる奴などバラバラだ。指揮官がいなくなったからだろう。俺の情報を知っているのか離れていく敵がいる一方で、聖女を助けるためになりふり構わず近づいてくる奴もいる。近づいてくる奴はどんどん収納だ!


 ガン!ドン!ボン!ガガガガ!


 ドームを壊そうとしているのか他の遠距離攻撃も飛んできている。特に弓が凄い威力だ。遠距離攻撃はこの状況ではどうしようもない。


 近づいてくる敵を収納しながら周囲を見る。


 砲撃が飛んできた方を見ると、ノワリンが何者かと戦っていた。両者とも凄いスピードで動いている。しかも変な浮遊機械がビームを撃っている。

 そんなSFみたいな兵器があんの?! ズルだろ!

 ヤバい、ノワリンがおされているように見える。もしかして砲撃してた奴だろうか? もう砲撃は止んでいるし可能性は高いな。

 敵の武器が光っている。ビーム薙刀だろうか。いや光魔法だろう。ノワリンも攻撃を受けたら一撃で切り裂かれてしまうだろう。ノワリンが不利だ。何とかしたいがどうにもできない。


 ヨゾラさんはまだ聖女と戦っている。ドームを張っているので体のバリアは無いが、聖女は素人なのでやられることはなさそうだ。しかし聖女も全然倒れない。


 心配でチラチラノワリンの方を見ていると、凄いスピードの黒い影が参戦して浮遊機械を吹き飛ばした。恐らくカゲイチだろう。

 よし! 優勢になったようだ。しかしノワリンとカゲイチという、うちのツートップが二人がかりでなかなか倒せないとか強すぎだ。マジヤバだ。浮遊機械も戻って来てるし。

 敵の主力を俺達が結構倒したから何とかなっているが、配下だけだったら普通に負けていただろ。俺達がいても状況は膠着している。


 まあ状況は膠着してしまったが、敵の指揮官や主力っぽい奴ら何人かと神官の半分くらいは収納したし、このままいけば配下達が押し切って勝てそうだ。


「ちょっとこいつ全然倒せないわ!硬いしたぶん回復してる!取り押さえようとしても変な力で弾かれるし!」 ヨゾラさんが叫んだ。

「でもこのままドームにいれば勝てそうですよ。」

「いえ。こいつと戦いながらじゃMPドレインができない。マズいわ。」

「え?!・・・そうですか・・・」

 ・・・今もドームは遠距離攻撃を受けている。ヨゾラさんのMPが削られているのだろう。

 配下をここに出しても聖域で動けないし、ヨゾラさんのMPが切れてドームが消えたら遠距離攻撃をまともに受けてしまう。俺が代わりに戦うのもステータス的に無理だろう。

 一か八かMPが無くなる前にドームを解除して走るか?


「私を逃がせば撤退してあげるわ。」 何かを察したのか聖女が話しかけてきた。

「それを信じろって言うの?」 ヨゾラさんが答える。

「どのみちこの状況じゃ今回は撤退するしかないわ。でも私が捕まっていたら誰も撤退できない。最後の最後まで全員戦うことになるわ。全滅覚悟ならこの状況から勝てる可能性もあるわよ。あなたたちも余計な被害は嫌でしょう?」

 ・・・確かに聖女を殺すために命をかける必要はない。逃がして撤退してもらうのもありだ。しかし本当に撤退するのか。そして逃がして再侵攻してきた際に勝てるのか。リスクが高い気がする。それでもヨゾラさんがMP切れになるよりはマシか。こいつがいなくなればMPドレインも使えるし、ドーム維持も楽になるだろう。

「・・・分かった。ヨゾラさんこいつをドームから出してください。」

「・・・分かったわ。でもその前にこいつに死体収納を連打してみて。」

「分かりました。」 連打で相手の防御を突破できる可能性か・・・試してみよう。

「何を言っているの? 無駄よ。早くしないと仲間がどんどん消えていくわよ?」

 すました顔で焦っている様子はないが、演技かもしれない。分からん。とりあえずやってみよう。


 死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!

 ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!

 小さな光とともに音が鳴る。

「無駄なことは止めて早く出しなさい。」

 気のせいか焦っている気がする。行けるのか?

 死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!

 ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!

「わ、分かった!捕虜になるわ!言うことを・・・」

 死体収納!

 聖女が消えた! やはり回数制限があったんだ!


 しかし捕虜になると言いかけていたな。ちょっと早まったかもしれない。・・・まあしょうがない。車は急に止まれない。もっと早く言わなかったのが悪い。


「よし!」 ヨゾラさんがMPドレイン周囲にを放つ。

 MPは大丈夫なようだ。

「見ての通り聖女は死んだわ!聖女の魔法が切れたらあなた達も終わりよ!」 ヨゾラさんが叫んだ。


「そんな!」「聖女様!!」「よくも!!!」「神はお前を許さないぞ!!」


 激昂して泣きながら向かってくる奴を収納した。宗教怖い。


「撤退しますよ!!」 嫌みっぽい派手な服の男が叫んだ。

「し、しかし!!」

「ライアスも聖女も死にました!今の最上位は私です!命令違反で処分しますよ!従いなさい!」

「は、は!!了解しました!撤退の合図を打ちます!」

 兵士が何かを打ち上げ、音がなる。森なので打ち上げた物は見えないが撤退の合図なのだろう。


よし!!勝利だ!!

「やったわ!!私達の勝利よ!!」 ヨゾラさんが高らかに勝利を宣言する。

「やりましたね!!」 ヨゾラさんに声をかける。

 完全にヨゾラさんが主人公だ。ヨゾラさんの笑顔が眩しいぜ。


 ドームへの攻撃が止み、敵が撤退していく。配下達は全力で追撃を行っている。さすが非情なアンデッドだ。


 まあ追撃はどうでもいい。俺にとっては配下を増やす方が大事だ。

「殺さずに倒せた敵は配下にするから連れてこい!」 俺は配下に指示を出す。

 HPがゼロになって気絶している敵を配下達が次々と連れてくる。それを死体収納で収納した。


 ヨゾラさんはドームを解除して、周囲を見ている。

 すると視界の端で何かが光った気がした。


「危ない!!」 ドン!

 ゴウ!ドガギイィイン!!


 俺はヨゾラさんに突き飛ばされて転がった。

 砲撃らしき攻撃がヨゾラさんに当たり斜めにそれていったようだ。炎が舞っている。

 ヨゾラさんはすぐに俺のそばに来てドームを張った。


 し、死ぬかと思った! ビックリした~


「危なかったわ。あの攻撃はやっかいね。ドームの解除が早かったみたいね。ごめんなさい。」 ヨゾラさんが言った。

「い、いえ。助けてくれてありがとうございました。」

 砲撃がそれた先を見ると木を1本なぎ倒して、別の木に突き刺さった槍のような物が見える。


 気絶した敵を持ってきたカゲイチに砲撃をしてきた奴のことを聞くと、俺が敵を持ってくるよう命令して追撃を緩めたから攻撃されたのだろうと言われた。


 危なかったのは俺のせいだった・・・

 砲撃してきた奴も逃がしてしまったようだ。

 敵が完全にいなくなるまで余計な命令はしないようにしよう・・・


 俺はがっくりとうなだれた。



 森の中は戦いで木がなぎ倒され所々日が差していた。


 差し込む光が、人が大勢死んだ戦場とは思えないような幻想的な美しさを見せていた。


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