第41話 決戦!太陽の炎
ついにアンデッド討伐部隊「太陽の炎」がやってきてしまった。
町に送り込んだ諜報員によると、2日前にレバニールの港に船で到着したらしい。
昨日来るかと思ったが、恐らく昨日は天気が悪かったので様子見していたのだろう。今日は快晴だ。まあ天気が悪くても森から出るつもりはないので関係ないが。
アンデッド討伐部隊は、120名くらいで、一団となって真っすぐこちらに向かっているそうだ。
「ヨゾラさん。ユリアさん。準備は良いですか?」
「ええ!バッチリよ!」「はい。大丈夫です。」 二人も準備は良いようだ。
今回俺達は、一緒に戦う左翼の十名の兵士達と同じ格好をすることにした。兵士にまぎれて見つからない様にする。敵を油断させて近づくためだが、それだけでなく、俺の容姿と能力はバレているので、見つかると遠距離攻撃で狙い撃ちにされる可能性があるからだ。
敵はまもなく森に入るようだ。遠くから偵察させたがやはり神官が多いようだ。
ギルバーンの正面隊と騎士団長の右翼隊が迎撃のための配置につく。
木の上隊と不意打ち隊も出撃していった。
俺達は戦闘が始まったら配置について奇襲する予定だ。それまでは最低限の護衛としてAランク冒険者と副団長だけ出しておいて、タイミングを見て一気に残りを出して奇襲する予定だ。奇襲のタイミングと位置は副団長が判断する。俺達は素人だからな。
騎士団長は今回アンデッド馬のヨカゼに乗って出陣だ。騎士は騎乗戦闘ができるので、馬に乗ると強くなるからだ。騎士団長が馬に乗ると見た目が物語に出てくる騎士のようでかっこいい。俺の愛馬が取られてしまってモヤモヤするが、俺が乗っても狙い撃ちされるだけだから仕方ない。騎士団長なら狙われてもスキルで避けれるらしい。
緊張しながら隠れて様子を伺っていると、敵が開戦予定位置まで来た。木があるので全体は見えないが、敵の前衛の装備はバラバラだ。騎士団のように統一装備ではない。色々な国からの寄せ集めだからだろう。
敵も正面隊の位置を把握したようで立ち止まる。すると突然敵の集団が光り輝いた。おそらく支援系の魔法だろう。そしてそのまま正面隊と戦闘が始まった。木の上隊も攻撃を開始した。
開戦の口上などは無いようだ。国同士の戦争ではなくアンデッド討伐だからだろう。喋るタイミングがあればギルバーンに何かさせようと思っていたのだが、仕方ない。
ワーワーと激しく戦う最前線を見ていると、浄化の対策は成功しているが、敵の武器が光り輝いていて、簡単にオークを切り裂いている。投げ込んだ亀も簡単に切り裂かれている。攻撃が異常に強い。
一応風蛇の魔法攻撃は効いているが、敵は防御力も高そうだ。多分支援魔法の効果だろう。かなり押されている。正面隊のオークはすぐに全滅しそうだ。
これはヤバいんじゃないか? 早く右翼とギルバーンもやれよ!
心の中で叫びながら指示があるまで黙って身を隠す。焦りと緊張で汗がしたたり落ちる。
仕掛けるタイミングは俺ではなく、各隊の指揮官が判断するので、ヤキモキしながら見ていると、ギルバーンが亀の上に乗って演説を始めた。
「フハハハハ!我は闇の王ギルバーン!我の領域を侵す不届き者どもよ!死霊どもに喰われて後悔するがいい!サモンデスソウルアーミー!!」
ギルバーンが叫びながら詐欺の幻を発動する。敵がざわめいた。アンデッド軍団の幻が見えているようだ。サモンデスソウルアーミーというのはギルバーンが勝手に言ってるだけだ。そんなスキルは無い。
ウオーーーー!!
ギルバーンの演説が終わるとすぐに、右翼が叫びながら突撃して、敵が浮足立った。
先頭にはヨカゼに乗った騎士団長が駆けている。
おい!一騎駆けかよ!お前主力なんだからやられたらどうするんだよ!
騎士団長は森の中なのに機敏な動きで駆けながら斬撃を飛ばして敵を倒しているようだ。
「ユージ様。我々も移動しましょう。」
騎士団長が大丈夫そうでホッとしていると、副団長に声をかけられた。俺はあわてて移動を開始した。
素早く指定の位置に移動し、左翼隊を出している時だった。
ゴウ!ドガアァン!!
突然轟音とともにギルバーンが砕け散った。
「は!?」「何!?」「キャッ!」
な、なんだ? 大砲でも持っているのか? そんな情報は無かったぞ!
「ユージ様、急ぎましょう。」
驚いて固まっていると副団長に声をかけられた。
「そ、そうだな。」
何が起きたのか分からないが、作戦を止めるわけにはいかない。継続だ。俺が配下を出している間に、エルフ神官が俺達3人に支援魔法をかける。神官の魔法はアンデッドに使えないので、支援を受けるのは俺達3人だけだ。これで攻撃を受けても簡単には死なないはずだ。さっきの砲撃を見たあとでは不安すぎるが・・・
配下を出し終わり、ユリアさんに声をかける。
「じゃあユリアさん。お願いします。」
「はい。サンダーフィールド!」
ユリアさんの前に黄色い魔法陣が展開されていく。ユリアさんは俺達がいない場所に継続的に雷魔法を撃ち込んでもらう予定だ。アンデッドは麻痺しないから俺達以外はフレンドリーファイアしても問題ない。
「行くぞ!」 ウオーーー!!
俺達は、ユリアさんの前に壁用の亀と指揮官兼護衛の副団長を残して、敵に突撃した。
まずは捨て駒のオーク達が亀を投げながら突っ込む。
俺達はその後ろで、ヨゾラさんを先頭に、ヨゾラさんのすぐ後ろに俺、その周囲を同じ格好の兵士でガードする。これでザコ兵士隊にしか見えないはずだ。
Aランク冒険者と鉄仮面は、浄化されないように気を付けながら俺達の周囲の敵を削ってもらう。
今回はダークは使えない。敵がライトを常時出しているからだ。ダークはライトに打ち消されてしまう。
よし!敵は正面と右翼の対応でこちらにはほとんど人を回せていない!10人も収納すれば敵の後衛に突入できるぞ!
目の前のオークが斬り倒され、敵の前衛が見えた。死体収納!
横に亀をバターのように切り裂く敵が見えた。死体収納!
周囲のオークがいなくなり数人の敵が見えた。死体収納!
今回俺はヨゾラさんの前には一切出ない。前回は突入後は俺の判断で敵に向かっていったため、ヨゾラさんが俺を守りづらかった。その反省を生かし、今回はヨゾラさんの背中に張り付いて、射程に入った敵を収納することに専念する。進む方向も狙う敵もヨゾラさんが決めて、俺はついていくだけだ。俺は自動的に攻撃するヨゾラさんのオプションだ。RPGの仲間だ。主人公はヨゾラさんだ。ちょっと情けないが、それが一番強いし、やられにくい。
さらに何人か収納して前衛を突破したと思った瞬間! 目の前が光り輝き周囲の兵士がまとめて浄化されてしまった! 近すぎて浄化が避けられなかった!
俺達2人が浄化で消えないことに驚いている神官をすぐさま死体収納!
敵の後衛の近くに魔物を出す!
敵が慌てているが、後衛付近には聖域の魔法が張られていて、魔物は動けないようだ。継続ダメージもうけている。
「このまま一気に行くわ!」 ヨゾラさんが言った。
「はい!」 俺が返事をする。
俺達2人だけで突入するらしい。さすが男前のヨゾラさんだ。まったく恐れていない。俺はめちゃくちゃ怖いんだが・・・
死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!
動けない魔物やゾンビを出しながら、敵が立ち直る前に神官達を次々に収納して敵の指揮官がいる付近を目指す。
「敵がこっちから入ってきているわよ!」 木の上にでかい火球の魔法を放った魔法使いの女が叫んでいる。
死体収納!成功!
「何ですって!」 フードをかぶった豪華な法衣を着た女が叫ぶ。
「お下がりください!」 ガギイィン!
凄いスピードで斬りかかってきた女騎士とヨゾラさんがぶつかる。
死体収納!女騎士を収納成功!
速すぎて正面から来たのに攻撃される前に収納できなかった。相当な実力者だ。
「なっ?!マリー!?まさか!?」
ヨゾラさんが一気に法衣を着た女に近づき俺もついていく。死体収納!
ギン!!
「え?!」 女が消えない!
ゴウ!ドガギイィイン!!
轟音とともに衝撃波が体を伝い目の前に炎が舞う!
「キャッ!!」「うわっ!」
目の前のヨゾラさんに何かが物凄い勢いで当たりはじかれていった。
「マズい!ドームを張るわ!」 ヨゾラさんが叫ぶ。
「はい!」 俺はヨゾラさんにしっかり張り付く。
ドームが張られた。
砲撃を受けたのか? 耳が痛い!
「ちょっとこいつを早く収納して!」 ヨゾラさんが叫ぶ!
「え?」
!! さっきの法衣の女がドーム内にいる!マズい!
死体収納!!
ギン!! 小さな光とともに何かが弾かれた音が聞こえた。
き、消えない!
「なっ、出られない!?」 女はドームから出られずに戸惑っている。
ドーム内に敵が入ってしまった!
ドームを張っている最中はヨゾラさんの体の結界は無くなっている。万一ヨゾラさんがやられたら終わりだ。
緊迫した状況に汗が額を伝う。
俺達は豪華な法衣の女と睨みあった。
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