≪秋≫落ち葉を踏みしめて歩く日々
パキッ、ザリッ――
僕らは落ち葉が敷き詰められた道を歩いていた。見たところ、降り積もったばかりのようだ。
バキッ、ザリッ。
僕らが一歩進むたび、足の形が落ち葉に残る。
「ねぇ、キミト君。足元ふかふかで面白いね」
ふわりはそう言って、少し強く踏み込んだ。
「見て見て、私が踏んだ後がちょっとわかる!!」
ふわりが指さした部分を見る。
「流石に分からないって」
「そんなことないもん、ほらっ。あっ、」
彼女は落ち葉を力強く踏もうとして、体制を崩した。
「おいっ、危ないだろ」
ふわりが後ろへ倒れる寸前、彼女の腕を掴んで支えた。いくらなんでもはしゃぎ過ぎだ。
「ナイスだね、キミト君」
「ナイスじゃない。次は助けないぞ」
僕は呆れながら、彼女の腕から手を離した。
その腕を見る彼女の顔は、少しだけ残念そうだった。
そんな表情だったのは、落ち葉を踏み締めた音みたいに一瞬で。新しく降ってきた紅葉のように、明るい顔が上乗せされた。
「キミト君見て見て。めっちゃ赤い、きれー」
彼女は足元にあった紅葉の葉を手に取って、僕に見せてくる。
その紅葉は、見事なまでに真っ赤だった。
「綺麗だね。こんなにきれいな紅葉を見るのは始めてかも」
「へぇ、キミト君でも見たことないんだ。綺麗だなぁ」
ふわりは手に持った紅葉をクルクルとさせながら、紅葉の色味にうっとりとしていた。
夢中になっているのか、あまり人様に見せられないような顔をしている。紅葉に興奮しているヤバいやつはさておき、先程から気になっていた頭上へ目を向けた。
木々に生い茂る葉は、そのほとんどが緑色ではなくなっている。赤や茶色に色づいているその姿は、変わりゆく季節から振り落とされまいと、必死にしがみついているように見えた。
桜並木が綺麗だった春の日を思い出した。
あれはもう、半年も前になるのかぁ。
「紅葉って食べられるんだってね」
僕の言葉に、ふわりは顕著な反応を示した。言われたことが突拍子もなかったからか、「……これ、食べたいの?」なんて、恐る恐る聞いてくる。
「なんでだよっ! 別に食べたいとかじゃないから!」
彼女は「ふーん」と言いながらジト目で見てくる。僕の言葉を信じていないのか、「あげないよ」と宣言し、守るように紅葉を抱えていた。
「僕は紅葉の天ぷらよりも、もみじ饅頭の方が良い。だからそれはいらない」
「紅葉って食べられるんだねぇ。初めて知ったなぁ」ふわりは話の流れなんて無視して、自分の世界に入っていた。
「紅葉って色が暖かそうだけど、季節としては寒くなる頃合いだよね。温かいものが食べたくなるなぁ」
「温かいもの、食べたい!!」
僕の一言に、ふわりが自分の世界から帰ってきた。
最近は気温が15度を下回ることも増え、肌寒さを感じることが増えた。
「秋の温かいものと言えば、やっぱり焼き芋だよね。それとカレー!!」
確かにカレーの具材には秋が旬なものも多いし、おいしいだろうな。
「甘いものも秋って感じしない?」
「プリンとか?」
彼女の唐突なプリンに笑ってしまった。
そう言いながら彼女が僕の肩を小突いた。
「中秋の名月って言うじゃん」
「売ってるプリンは大体丸い入れ物だもんな・・・・・・」
僕は少し呆れた。
「そんなに笑わないでよ」
彼女はぷいっとそっぽを向いた。「ごめんって」と反射的に謝ったけど、ふわりの様子がおかしくて笑いを堪えながらになってしまった。
「もー、知らない!!」
僕が悪いんだけど、彼女は完全に拗ねてしまった。
「だからごめんって」
「お団子食べたい」
ふわりはぶった斬るように唐突にそう言ってきた。
「温かいものじゃなくて?お団子?」
「うん、お団子が食べたい。みたらし団子がいいな」
僕が疑問符を浮かべていると、彼女は胸を張って「だって満月と言えばお団子なんでしょ」と言った。
あー。
「秋だもんね」
「そう、秋だから」
僕らは顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。
「じゃあ、コンビニに行って買う?」
コンビニのお団子といえば、三本で百円のパックだ。安くてお得感がある。
「コンビニかぁ、あのみたらし団子も好きだけど・・・・・・」
けれど彼女はあまりお気に召さなかったようでコンビニのワードに唸っていた。
その姿を見て、お団子屋さんが近くになかったか思い返してみた。……あ。そういえば。
「それじゃあ、この近くにできたお団子屋さんに行ってみる?」
「そんなの出来てたの?」
「ふわりと行きたいなって思ってリサーチしておいた」
「キミト君流石!!」
母と二人で出かけた時、瓶詰のみたらし団子持ってる人を見かけたんだよなぁ。おいしそうだなって話をしたら、この近くにも出来たと教えてもらった。だから自分から調べに行った訳じゃないけど、それはまぁいいだろう。
「じゃあ、今日はそこに行こうか。瓶詰のお団子だよ」
「瓶詰なの!? 可愛い!!」
母から教えてもらった時、ふわりが好きそうだなと思ったので、なんとなく覚えていたんだよなぁ。
「じゃあ、そのお店に行こうか」
僕らは足元をパキッ、ザリッ、と鳴らしながら、目的のお店へと向かった。
お店に着くと、少しだけ列が出来ていた。
見た感じ、僕らと同じ学生が多いようだ。
二人で列の最後尾に並び、お団子を購入して離れていくお客さんを眺める。
その人たちは早速とばかりに、瓶からみたらし団子をぬいていた。団子に引っ張られ、ぎゅうぎゅうに詰まっていた瓶からきな粉が溢れ出す。みたらしにきな粉までついてるなんてお得だな。
あれは家で食べると怒られそうだなぁ。
ふわりも同じことを思ったのか、「ねぇキミト君あれ家で食べたら絶対に怒られるよね」なんて、恐る恐る言っていた。
二人して、家で食べたら怒られると思ったのは、なんだか面白いな。
普通、きなこの量や、瓶について言及しそうなのに。
それにしてもあんなにボロボロこぼしながら食べられるのは、気持ちよさそうだなぁ。
あれは、外で食べるときの特権的な部分がある。
「これから私たちが食べるのってあれだよね。外だから思う存分食べられるね!!」
ふわりも同じ事を思っていたらしく、目が輝いていた。
少しずつ列が進み、やがて僕らの番が来て、三本入りのみたらし団子を一瓶だけ買った。
彼女は手に持った瓶を眺めながら「おお、瓶入りのみたらし団子って新鮮だね」と感慨深げだ。
早速瓶の蓋を開けようとするも、固かったらしい。
助けを求めるような目でこちらを見た後、「キミトくーん、開けてー」と言いながら瓶を手渡してきた。
力を入れて蓋を回すと、思いのほかあっさり開くやっぱり男女の差だろうか。いや、だとしても。
「ふわりひ弱すぎないか」
「いーの、私は女の子なの。それにひ弱じゃなくて、か弱いと言って!!」
文句もそこそこに、ふわりはきな粉に埋もれた団子をゆっくり引き抜いていく。ずももという音が聞こえてきそうな勢いで、きな粉まで溢れ出していた。瓶を持つ僕の手にきな粉が積もっていくのもお構いなしに、彼女は団子の串を抜き切った。その様子は、さながら伝説の剣を抜いた勇者のよう。
「わぁ。めっちゃおいしそう」
まぁ、実際はお団子なんだけど。感想を述べたふわりは、きな粉付きお団子カリバーにガブリと噛み付いた。その口の周りはきな粉まみれだ。そんな惨状もお構いなしに、彼女は頬一杯に団子を詰めながら喋った。
「んー。ふぃふぃとふん、めっひゃおいひいよ」
「口にものを入れたまま喋るんじゃありません」
ふわりが子供っぽいので、思わずお母さんみたいな事を言ってしまった。
そんなふわりはさておき、僕も串を引き抜いた。
ものはみたらし団子だけど、どちらかというときな粉団子って感じ。
ひとしきり眺めた僕は、団子にかぶりついた。
「うまっ」
口に広がるきな粉の中から、みたらし特有のあまじょっぱさが溢れてくる。
想像してたよりちゃんとみたらし団子だった。
目を見開いて堪能していたら、ふわりが話しかけてきた。
「おいしいよね、めっちゃみたらし」
「正直みたらしってよりきな粉もちって感じなのかと思ったけど、めっちゃみたらし」
ねー、と同意した彼女は、続けて言った。
「次はクロワッサンだね」
「みたらし食べながら言うことか・・・・・・」
僕は彼女の発言に呆れながら、ツッコむ。
「だって、秋と言えばお月様なんでしょ?今度は三日月も食べに、さ」
「あー、はいはい」
僕のおざなりな返事に対してはにかんだと思ったら、「最後の一つもーらいっ」と三本目のみたらしを取っていった。油断も隙もあったもんじゃないな。まぁいいけどさ。
「じゃあ、この瓶は僕が貰うね」
「あー、ずるーい。その瓶可愛いなって思ったから狙ってたのに!!」
「ふわりがその手に持ってるのは?」
「むー。じゃ、じゃあまた来ようね。その時は私がその瓶を貰うんだから」
僕は瓶を鞄に仕舞いながら、お団子を嬉しそうに頬張る彼女の隣へ並ぶ。
パキッ、ザリッ、と時折秋の音をさせながら並んで歩くが、それすらも耳に届かないぐらいの心臓の音が聞こえていた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます