第8話 僕とゴールドヴェイン
今日も今日とて僕、諸多 紺は美貌のAIブレインとの個人レッスンに励んでいる。
「表現がイヤらしい!」
対面するブレインは僕の心を読んで非難の込められた視線を飛ばしてくる。
いくら何でも意識し過ぎだ。
今日もありがたいことに、面会室で来世の歴史、文化、風習をブレインが手ずから教えてくれている。
幸いなことに転生予定地は文明の発展度合いも、社会構造や文化、歴史も元いた星と殆ど変わらなかったので学習はそれ程苦ではなかった。
しかしながら、彼女も多忙を極める身だろうにこの勉強会は既に四回目を迎えている。
四回目ともなると、当初ブレインに感じていた緊張感は消え失せて今ではスッカリ耳年増の若者を相手にしている気分だ。
「誰が耳年増か!」
今日も皺一つない黒を基調としたスーツスタイルの彼女が、顰めっ面で抗議の声を上げる。
うーむ、見ているだけで癒される。
かわヨ。
「こ…っの」
ブレインが顔を紅潮させて肩を震わせる。
そういえば今日は昨日と違ってサイドテールをツイストさせている。これもよく似合っている。
「ぬああああああ」
「大丈夫?休憩する?」
「ご休憩!?何を馬鹿な!??」
「えぇ…?」
ともかくご覧の有様で最近の勉強会は進捗がよろしくない。
僕が思ったことをそのままブレインが読心し、些細な言葉にも過剰に反応するため、このセクハラのループが止まらないのである。
割とマジで申し訳ない。
忙しいだろうにごめんね?
銀河団?のお仕事も忙しいだろうに申し訳ない。
そんなことを思っているとブレインは溜め息を吐いてこちらに向きなおった。
「銀河団ではなく銀河フィラメントの集合体、生命の樹、無数に存在する大樹の一つを統括しているのが私です」
銀河フィラメントとは何ぞやと思っていると、突然照明が落ちて、暗くなった部屋一面に小さな星々が満ち溢れた。
プラネタリウムと化した一室に、ブレインの透き通るような声が響く。
「銀河団は繊維状に繋がっていて、これをフィラメント、連続した長い繊維と読んでいるのです」
部屋一杯に投影された銀河たちが、彼女のナレーションに合わせて拡大、収縮、集合、分散し躍動する。
大小様々な光の粒で構成された銀河の群れ。
それらの放つ煌めきが葉脈のように繋がっていることに気が付いた。
「そうです。貴方の星ではまだ正確に観測されていませんでしたが、これをゴール ドヴェイン。銀河の脈または生命(いのち)の脈と我々は読んでいます」
ゴールドヴェイン。金の鉱脈。または、ジュエルオーキッドの名の一つ。
幼い頃に見た、祖母の育てていた宝石蘭。
輝く葉脈を持った稀有なる生命。
その瑞々しい輝きは、なるほど今目の前で煌めくそれと近いものがある。
溜め息が漏れるほどの美しさとはこのことか。
手元に映し出された黄金の葉は、儚く、しかし命に溢れた輝きを放っている。
繊細にして野生味あるその葉に暫く、僕とブレインは二人、言葉もなく見惚れるの だった。
「このゴールドヴェインの一塊を我々はひとひらの葉と捉えて、日夜幾つもの葉を手入れしているのです」
これ程の規模の集合体を一と数えて、その上無数に有るらしい葉を管理する。
ますますブレインはこんな所で時間を潰している暇はないのでは?
「ご安心を」
暗闇でその表情は見えないが、ブレインの声はとても穏やかで微笑んでいるようだ った。
「ここにいる私は諸多さんに対応するために作られた、言わば貴方専用の分身(わけみ)ですので」
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