第5話 VS投資詐欺④ー決着ー

 私はまず、この投資における本当の利回りを提示することから始めます。これが投資詐欺だとしてここで終わらせることも出来ますが、それだけでは何の解決にもならず、また簡単に詐欺に引っ掛かるのが目に見えていますので。


「そこのあなた。さきほど月に10%増えた程度で詐欺だとは思わないとおっしゃいましたわね」

「ああ、だって50万円投資して5千円しか増えないんだぜ? それだけで詐欺と王女様決めつけた。そう言いたくもなるだろ」

「……そうよね。ここで誤認拘束されたことで利益が出なくなったら国が保証してくれるのかしら? それに私たちは分配金をちゃんともらっていたわよ?」


 私が話しかけた男に同調するように詐欺と決めるには根拠がないのではないかという声がそこかしこからあがり始めます。


「―――あなたたち、金融機関で50万円のお金を借りた時に支払う上限金利をご存じかしら?  10%? そんなありえない話にのる方々が知るわけがないでしょうけど、知っているなら答えてください」

18%だろ。それくらい常識じゃね?」

「っ!? ……正解ですわ。なら、この投資話の年利は?」

「年利214%。複利計算でいいんだよな?」

「そうね。合ってるわ」


 私は冷静を装って両方の金利を即答してきた少年を見つめる。身なりは中級家庭の子供ようだがその金融知識、計算力は普通ではないと感じたが今は関係ないので話を進める。


「214%がなんだっていうだ……。投資はリスクに見合っただけ儲けが出るものだろ!」

「年利214%、この意味がわかっていらっしゃらないようですわね。あなたの投資した50万円が約3倍、157万円になって帰ってくるのです。もしそのまま2年間預けた場合、493万円になるのです。たった2年で約10倍ですよ? それでも大したことないと言えますか?」


 ここまで言えばさすがに異常な利回りだと分かったようで騒いでいた男たちは黙りました。


「確かに凄い利回りだけれど! もしこれが詐欺だとしても分配金はどこからでたのよ! 投資で儲かったから払えてたんじゃないの!?」

「いいえ、それは違います。そもそも投資して毎月10%、いえ自分の取り分を合わせるとそれ以上の利益を継続的に得られるのならお金を集める必要もありません。先ほどの計算をもう何年か行えば数年で一生分のお金が手に入るのですから。そして分配金ですが……」


 ここまで説明してあげたのだ。もう十分でしょう。


「集めたお金の切り崩して払っていたのです。タコが自分の足を食べてお腹を膨らませるように……。これはいわゆるタコ足分配と呼ばれる詐欺です! そして、その支払われる原資が増えていったのはあなたたちが儲かるからと身近な知り合いを勧誘していたからでもあります!」

「シルヴィア! そいつらに投資の実態は一切ない! キャロが説明された投資先も出鱈目だ!」

「そうでしょうね。ふふっ、知っていましたけどこれで確定しましたわね。―――まさかあなたたち、この国の王位継承権を持つエリックお兄様が嘘をついているとか言い出しませんわよね? もしも言おうものなら侮辱罪でどうなるうかわかりますわよね?」


 国民に説明する丁寧な口調はここまで。タイミング良くエリックお兄様が酒場に飛び込んできてくれたことですし、ここからは被害者でありながら詐欺の片棒を担いだ者として私は対応していくこととします。


「では、改めてこれが詐欺でないならまずはそのお酒の代金をお支払いなさい! そして来月からの利払いを停滞させないと王家の名のもとに契約をしなさい。詐欺でないのならできますわよね? あ、もちろん詐欺でないのならキャロの900万円にも利息を付けて返してもらいますからね。ここの支払いを終えた後で」

「そんな契約……、投資は損をするリスクだって……」

「酒代を払った時点で元金がないんだ。真面目に返すこともできないだろ……。ならやることは一つだろ。はぁ! ノマンネコンティ、最高だねぇ! お前も飲んでおけ。酒の力を借りろ―――このクソアマを一発殴って逃げる!」


 私が庶民の給料で3年分の年収もする酒代を払い、この場でその利回りの投資が詐欺でないと王家のもとに契約をすれば見逃すと提示したところ躍起になった男が支払いが確定したお酒を一杯だけ樽から注いで呷る。そして、拳を構えて私に殴り掛かってきました。


「させるわけなかろう! シルヴィ、少し下がれ」

「ぐはぁっくぁwせdrftgyふじこ」

「ガゼルお兄様っ! ありがとうございます!」


 男の伸びきった腕を取ってガゼルお兄様は投げ飛ばします。それでも意味不明な言葉を発しながらも立ち上がる男に対し、日々の鍛錬で日に焼けた筋肉質の体をしたガゼルお兄様が私たちの間に入り、入り口もお母さまたちが塞ぎます。


「この男以外でもし降伏するものがいるなら減刑とする。投資詐欺の被害者であろうと片棒を担いだの事実、無罪放免といかぬのは覚悟されよ」


 ガゼルお兄様の言葉に臆したのか相方の男を始め、まわりの方々も順に手を上げて床に伏せていきます。


「で、お前はどうなさる? すでに手遅れではあるが抵抗するなら痛みが増えるだけぞ」

「……人を騙して何が悪い。所詮この世は金次第、その金も貴族と庶民ではまったく持っている量が違うだろうが」


 男の目に諦めは感じられず、まだこの場をどうにかしようとしているようでした。そして、貴族、ひいては王族への深い憎悪を感じられました。


「酒を飲んでわかったぜ。どんなに必死で金を集めても俺たちの年収程度じゃ貴族様のお遊び程度の額にも届かねーってことが、ようっ!」

「いいねー! 凄くいい! この国への憎悪、それに詐欺師の才能もあるからここで潰したくなくなったよ。だから―――貰っていくね、


 カゼルお兄様に体当たりをしかける男を少年が《《魔法で酒場を破壊し、翼を広げて男と共に飛びさっていきます。


「あはははははっ! またね! エンドル王国の王族さんたち」

「……まさか魔族だったとはな」

「魔族ですか? エリックお兄様、あの人類を滅亡させようとしていた魔族ですか?」


 お兄様が頷きます。しかしかの国と人類圏の国々は現在停戦協定が結ばれており、武力による戦争は盟約により違反した種族が滅ぶことになっていたはずです。


「魔族の住まう国、シェケルーブルとは現在停戦中のはずですが?」

「……経済による戦争、国力の衰退を狙ったそれが今回の投資詐欺事件とでもいうわけか」

「シルヴィア、このことは国王陛下へと報告させていただきます。そして、魔族に付け入る隙を与えないためにも、今後は国家一団となり金融犯罪への取り締まりを強化していきましょう」

「……はい。お母さま」


 逆らうものが既にいない酒場で私たちは危機感を抱きながら残った者たちを拘束していった。そしてこの場を離れる前に改めて被害者たちにこう言っておく。


「ねぇ、お金を稼ぐって大変なことよね? なのにお金を少し預けておくだけで大金が稼げると思ったの? 美味しい話には裏があるし、あなたたちは共食いしながら身を削っていただけということがわかったかしら? 大体において失敗したらお金を失うリスクといいながらも高配当利回りを保証するなんて話があるわけないでしょ」


 投資をすることは悪ではないと思う。だから私はきっちりと最後にこの投資家たちに言うべきこと言ってこの場を去ることにした。


「―――けれど、その行動力は素敵だと思うわ。せいぜい取るべきリスクを見誤らないことね。本当にお金を全て失う覚悟があるのなら自分で運用しなさい。安全にお金を増やしたいのならいいファンドを紹介しましょう。それが私からあなた達、投資家への手向けです。刑期を終え、また会えることを期待しております」

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