第4話 VS投資詐欺③
作戦決行の朝、侍女のキャロにエリックお兄様の追跡魔法ともう一つの魔法がかかった大金を持たせて詐欺師との接触する瞬間を私たちは見守ります。
「シル、来ましたよ」
「……本当に来ましたわね」
路地裏に男が入っていき、それを追うようにキャロも路地裏へと消えていきます。隙を見て私たちに大丈夫という自信のウインクをしていましたが、ここには私以外に王妃の二人もいます。もう少し行動は考えて欲しいものですが⋯⋯。
「キャロ、うまくやれると思うけどやはり少し心配です」
「大丈夫よ。私たちが―――いえ、この国最強の魔法使いの、アリアもいます」
「安心してください、シルヴィアさん―――わたくしたち王妃は、城で働く者たち皆を家族のように想い、大切にしています。ですのでキャロさんに何かあったらすぐに私が動きますわ」
新緑の力を秘めた長い花萌葱の髪が少しだけふわりと広がると、私たちの周辺だけ草花が生え別世界の地面であるかのような変化をしました。
「わぁ……。いつ見ても凄いです」
「貴族が貴族たりえる理由が魔法力の有無ですが、そういった意味ではアリアは本来第二王妃ではなく第一王妃、いえ、女王でもいいでしょう」
「フィリア、それは言い過ぎです。魔法とは自然との信用を築き、その力を借りて起こすものです。それに人を治める力は私にはありませんし、ギルガメッシュ様とあなたの熱愛に私が敵うはずもありません」
アリア様は植物魔法、エリックお兄様は万能な光魔法といったようにそれぞれが魔法の適正を持っており、その力を国のために使ってこそ貴族だと教えられて私たちは育ちました。しかし、私はまだ魔法が使えません。
「シルヴィアさん。魔法は信用です。お金に誠実で経済をギルガメッシュ様が任せるとおっしゃったのならあなたの適正は恐らく―――」
「シル、どうやら無事に終わったようですよ」
「アリア様、ありがとうございます。その話はまたのちほどでお願いいたします。―――キャロ! 良かったー!」
路地裏から出てきたキャロが雑踏に紛れたので私たちは急いで追いかけ、尾行がないことを確認してから夜の仕込みをしてある酒場で合流しました。
「お金も渡しましたし、この酒場も教えておきました。シルヴィア様の指示通り、私が儲かったらこの高級酒場で両親と一杯やりたいと言ったら凄い喰いついてきましたね」
「キャロに持たせたお金は一般市民で3年分の年収相当よ? その金額に対して向こうの提示する利回りで儲けたお金を使って行きたいというような酒場なんて、一体どんな高級酒場か興味を惹かれるに決まってるわ」
私は三人へ説明するように見せかけて、今夜に協力してもらう酒場の従業員や客に対して作戦を垂れ流す。各所でなるほどと納得する声があがったことに満足し、それによって私への信用も上がったのを感じた。
「では、皆さま今夜はよろしくお願いいたします」
一度酒場を出て、夜になるのを待ってから再度酒場を訪れた。詐欺師が来るまでに私は給仕服に着替えてホールで働くことにした。
「シルちゃーん、こっちジョッキ2つお願い」
「おいおい、オレらの鳥南蛮定食が先だろ? シルちゃんに持ってきてもらうまで帰らねーからな!」
どういうわけか私を指名して注文を出し合う
「こんな酒場で飲むのが憧れだと?」
「おい、そこの小娘。一番高い酒持ってこい。樽でな」
思っていた酒場の雰囲気と違い不機嫌そうに横暴な態度でお酒の注文をしてきたのが詐欺師の二人だった。
「……私ですか? あの、本当にここで一番高いお酒を注文されるんですか? 樽でって900万円くらいしますけど……この店では注文後のキャンセルはできませんので、私が持ってきた時点で返金はできませんよ?」
気弱な給仕を装いながら罠に誘い込む。この国の市場に出回る飲食物の値段は、不当な金額の吊り上げで国民が飢えることのない様、商品ごとに適正価格が常に王城から公表されており、そんな金額の酒が出てくるわけがないと腹をくくっているのだ。
「っへ、今はお金があるんだ。金額なんて怖くないぜ」
「そうですか。ではお待ちください」
「ちょっと! お金があるなら今月の分配金を渡しなさいよ!」
「そうだそうだ! オレたちへ支払うのが先だろ!」
私はそう言って踵を返し仕事に戻ろうとすると、周りの卓から詐欺師の男二人に対して分配金の請求が始まった。なんでも先月分は支払いが満額といかず、残りの支払いは待ってもらっている状態だったらしい。
「―――どうぞ、ロマンネコンティの40年物になります」
「「……はぁ!?」」
まあ、そんなことは最初の調査で知っていたのでここで利用させてもらったのですが。私は、投資詐欺の被害者たちに詐欺師たちが詰め寄られている間に、お城に保管されている宝物庫に眠る浪漫が詰まった酒樽の一つ、ロマンネコンティを詐欺師のもとに持ってきて、開封した。ロマンネコンティ、その名は歴史の教科書に載っているほどで知らぬ者がいない国王に献上される幻のお酒である。
「これでもうお客様のものです。あとはお好きにお飲みになってください」
「―――貴族っ! いや、シルヴィア王女殿下だと!?」
さぁ、準備は整いました。強気な方の詐欺師が持ってきたお酒と貴金属を身に着けて髪の艶を取り戻した私の姿を見て正体に気付いたご様子です。
「ふふっ、所詮この世はお金が全てですわ。きちんと支払うことが出来るのなら私は何もいたしません。けれど、今朝に騙し取ったお金がなくなっても支払いは可能かしら」
「―――っ!?」
「キャロ、出てきていいわよ」
厨房から現れたキャロの姿をみて詐欺師の二人は青ざめていく。一体いつから? どこから泳がされていた? そんな思考の堂々巡りに陥っているはずだ。
「今、エリックお兄様がお金が保管されているあなた方の投資会社に踏み込んでいるはずです。投資実態がまったくなく詐欺だった場合、残っているお金の全額を差し押さえたのち今朝のお金も返納していただきます。といってもあれは捜査のために細工した使用不能な貨幣ですが」
「はぁ? あれはオレたちの金だ! 大体、金に色は付いていないのにその女の900万円だという証拠にならねーだろ! そもそも使用不能って意味わかんねーよ!」
詐欺師は吠えますが、あのお金には追跡魔法と共に会計処理がされた瞬間に国庫に戻る魔法が実はかけられているのです。
「貴族は魔法が使えるのです。魔法を使えない庶民に詳しく話したところで理解できるわけありませんわ」
「詐欺じゃねーか! オレたちを騙しやがって!」
「そーだそーだ!」
理解できない、させていないからこそ悪事の不意を突ける。それが貴族が負う責務を全うすることに繋がるなら、これから先も魔法は貴族の特権であるべきだ。―――いつの日か貴族制度が腐るまでは。
「それは大金を使うことを知らない国民を、ありえない投資話で騙してお金を奪っていたあなたも同じだと思いません? 月利10%の複利? 投資で運用する気も返す気もサラサラないような金利設定だと私は思うのですけれど」
騙された庶民の皆さんはポカンとしてただ私の言葉を聞いているだけ、あまつさえ投資で月に10%増えたところで大した額は儲からないし詐欺なわけないだろ。など言っている始末で、ここまで言っても意味は理解できていないようでした。この問題が解決したら国王である父上に頼んで金融教育の義務化を急いで行ってもらう必要性を私は感じました。
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