第6話 カトレアの友達?

「シルヴィア様、私、最近とても多くのお友達ができましたの」

「そうですか。私たちくらいになると年齢や地位から新しい交友関係の構築は難しいでしょうに、素晴らしいですわね」


 タコ足配当による投資詐欺事件以降、平和な日常が何日も過ぎたある日、私はカトレアを招いてお茶を楽しんでいた。なんでも市場に出かけた際、商売人の方にその人柄に惚れられて是非お友達になりましょうと言われて承諾したらしい。


「ええ、皆さま素晴らしい方ですわ。それに勉強家でもありまして、ために休みの日には集まって成功者のお話を皆で拝聴しておりますのよ」

「……えっと、自由に生きるために休日を使って勉強しているって本末転倒じゃありませんこと?」


 貴族が平民の友達を作る際は利用される可能性を考慮して、慎重になるべきであると私は考えているが、友人に友達が増えて喜んであげたいとも思う。貴族社会に捕らわれていない金銭ではない繋がりの友人は貴重であるからだ。一方で、何か嫌な予感がして詳細について踏み込んでいくことにした。


「いいえ、そのお友達が紹介してくださった成功者である方のお話は、休日を使ってでも拝聴する価値があるものですわ」

「……それってお金を払ったりしてませんわよね?」

「シルヴィア様にしてはおかしなことをおっしゃいますわね? お忙しい中で貴重なお話を私たちにしてくださるのです。もちろん講演料を参加者全員がお支払いしておりますわ」


 詳しく話を聞いていくと、経済的自由を自分の手で勝ち取り、自由に好きなことをして生きることを目標に有料講演会セミナーに参加しているそうです。なんでも有料会員制の商会に所属し、友達を紹介して商品を購入してもらうとお金が入る仕組みだから自分を高める必要があるのだとか……。


「それってネズミ講じゃ……」

「まぁ! シルヴィア様もそうおっしゃるんですの? ネズミ講はお金を集める仕組みですが、これは会員が商品を売ることでその利益の一部、販売に対する報酬としてお金を手にすることができる、れっきとした合法的なビジネスですわ!」


 その昔、会員を紹介することで紹介報酬を与えることで高額な入会費や会費を巻き上げる詐欺が横行しました。これは、例えば簡単に言えば月会費5万円、1人紹介すれば毎月1万円入るとして、6人を紹介すれば毎月1万円の利益を得られるという謳い文句で人を集めて、無限連鎖で被害者を増やした悪魔的な詐欺でした。


「……そうね。カトレアの言う通りだわ。たしかに合法だわ」

「そうなの! 平民の方に色々と教えていただいて私もネズミ講について学びましたわ。金融に関してシルヴィア様には及ばないにせよ、そのように勉強されている向上心溢れる皆さまですの。そうだ! 今度の集会に一緒にいかがでしょうか? きっとシルヴィア様もお友達になれますわ!」


 私はいわゆるマルチ商法だと断定しました。正式名称『マルチレベルマーケティングMLM』はネットワークビジネスと呼ばれるもので合法です。商品の流通工程を直売にし、宣伝、販売を会員に委ねることでその報酬を渡します。また、紹介者の紹介者までしか報酬が発生しないためネズミ講と違い無限に稼げるわけではありません。


「今度の講演会にはプラチナランクの指導者メンターさんもいらっしゃいますの! きっとためになるお話が聞けると思いますわ!」


 他に、会員ランクに応じての報酬はあります。簡単に言えばその商売への貢献度が高い方に贈られる称号と報酬ですが常識の範囲のはずです。私は法が順守されているか、カトレア友達を本当に友達と思ってくれているかの潜入捜査をすることにしました。


「そうね。あなたがそこまでいう方に私もお会いしたくなりましたわ。ぜひ、紹介してくださるかしら?」

「もちろんですわ! あっ、そういえば私のことは〝ラン〟とお呼びください。お友達同士フレンドリーにあだ名で呼び合うことになってますの」

「では私のことは〝ロマネ〟と。それに話し方も庶民の方々に合わせますので、あなたも私に対して畏まった話し方はなさらないように」

「わかりま―――、はい。よろしくね、ロマネ」


 詳しい日時については後日、正式に決まってからカトレアが手紙をくれるということで今日はお開きとしました。カトレアを見送り自室へ戻り、お茶会の時から後ろに控えていたキャロに向き直る。


「―――キャロ、話は聞いていたわね。あなたはキャロのままでいいわ。同行なさい」

「畏まりました」


 恐らくは身バレのリスクを避けるため。友達と言いながらも上にいる人間の方がいい報酬を貰い、下にいる紹介者と接触しなければいけないのだ。何が起こってもいい様にあだ名で呼ぶ仕組みにしているのだろう。


「……キャロ。私はあなたと主従関係ではなく友達になりたいのよ」


 幼いころから傍にいてくれたキャロルに何度もその話をした。二人きりの時だけでもと言っても、それでも彼女は侍女として振る舞い続ける。だから私はずっと呼ぼう。彼女が想いに応えてくれなくても親しみを込めて、キャロと。

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