第2話 VS投資詐欺①

 私は今、金髪縦撒きロールが立派な侯爵令嬢のカトレアをお城の中にある庭園に招いてお茶を楽しんでいる。


「カトレア、前に紹介しました『ドラゴンの宝眼』は手に入りましたか?」

「いいえ。あれは確かに美しくて欲しくなりましたが、あれほどの量が出回ってしまっては希少性という意味での価値はありませんわ」


 入手困難なアイテムである『ドラゴンの宝眼』、それを超絶高値での買取募集を出していたのはこのカトレアだ。そして、そのアイテムの情報を辺境でドラゴンの大量発生が起こったと国王へ報せが入った時点で渡したのだ。


「―――ですので54億円での買取募集は取り下げさせていただきました。侯爵令嬢たるもの、常に羨望の眼差しを浴びていたいですもの」

「そうでしたか、ドラゴンなんて滅多に現れませんのに。私の保有する『ドラゴンの宝眼』も価値が下がってしまって残念ですわ……。ですが、カトレアは市場に大量流通し始めたのが買取を行う前でよかったですわね」


 私はあたかも無関係を装いますが、カトレアの性格を利用し闇金業者に大金を貸し付けたので心の中で感謝し、誠意として最高級の茶葉とお菓子を用意してのもてなしとさせてもらった。


「ええ、―――あっ! そういえば、なんでもその『ドラゴンの宝眼』を買い占めて破綻した金融会社があるとか」

「面白そうね、詳しく聞きたいわ。カトレア、話してくれない?」


 超高額買取の話が広まり出したタイミングで闇金業者に私がお金を貸し出したのだ。いくら暴利で稼ごうが貴族の高額買取提示するようなアイテムは庶民が手の出せる金額ではない。そこで私が所有する『ドラゴンの宝眼』をカトレアの買取金額より下で売りに出すと喜んで借金して購入してくれた。そして、その日のうちに供給過多で価値が暴落し、買取も取り下げられ借金だけが残ったというのが私の仕掛けた作戦だった。


「面白かったわ。ありがとう、カトレア」

「シルヴィア様、それとこんな話も市中で広まっているのですが……―――」




 カトレアとのお茶会を終えて私はキャロと共にシャリンお姉さまの書斎を訪れました。


「失礼します。シャリンお姉さま、今お時間をいただいてもよろしいですか?」

「ええ、可愛いシルとお話しできるならいつだって大丈夫よ。それが例え仕事の話だったとしても、姉として頼ってもらえるのは嬉しいもの。それで、今日はどうしたの?」


 机には本が何冊も積み上げられていてシャリンお姉さまの姿は見えずに声だけ聞こえてきましたが、本をどけ初めると緑色の髪から徐々にシャリンお姉さまのお顔が見えてきました。


「シャリンお姉さまはいつも難しい本を読まれておりますが、頭が痛くはならないのですか?」

「シル、話し方が固いわ。姉妹なのだからもっと楽にしてちょうだい」


 お姉さまは書斎に備えてあるソファーへと移動して私を隣に座らせます。そしていつものようにシャリンお姉さまは私の髪を撫でてきました。


「痛くはならないわ。だって知るということは楽しいことだもの」

「ですが―――、ううん。ですけど限度はあると思います。私はシャリンお姉さまのことが心配なのです」

「シルは優しいのね。私は大丈夫だから、―――私よりも脳筋バカ兄貴の心配をしてあげて欲しいわ。ガゼにぃは雨が降り出したことも気付かずに素振りをよくしているバカだから」


 父であり国王でもあるギルガメッツには妻が2人おり、第一王妃ファリアの子がエリックお兄様、プラージュお姉さま、そしてシルヴィアで、第二王妃アリアの子がガゼルお兄様とシャリンお姉さまです。私たち兄弟姉妹に確執はありませんが、それぞれ血のつながった兄弟姉妹は特別なのだと思います。


「シャリンお姉さまもガゼルお兄様もアリア様に似ていて、集中しだすと周りが見えなくなるとお父様がいつも言っていますから……、どっちもどっちだと思います」

「……そんなことは置いておきましょう。それでシル、話って何かしら?」

「あっ、はい。なんでも最近、市民たちの間で投資がブームのようなのですが、住宅投資を高利回りで持ちかけられるケースが相次いでいるようなのです」


 私はキャロに調べてもらった平均的な住宅投資の年間利回りのデータをまとめた資料を渡して、さきほどカトレアから聞いた話をお姉さまに話しました。


「なるほど。明らかに異常な利回りの投資なのに分配金は支払われている。なのに住宅着工戸数や販売価格に例年並みの変化しか見られずその集めた金額分の投資が行われた痕跡がないのね」

「そうなのです。その会社が他に資金を転用して運用している可能性も調べてみたのですがそれもなく、一体どこからお金が出ているのか私では見当がつかなかったのでシャリンお姉さまを尋ねました」


 私の金融知識は幼少期から鍛えられ、経済の動向やお金の動きは少し調べればすぐにわかるレベルになっているが、市場に流れているお金の計算は合うのにどこからかお金が湧いて出てきているこの状況にはお手上げとなったのだった。


「―――わかったわ。シルがそういうのなら、お金の動きはシルの推測通りで行われていない。だったら簡単よ」

「……え? もうお姉さまはわかってしまわれたのですか!?」

「ええ。簡単なことだわ」


 お姉さまは私が用意した資料をキャロに返すと初めて聞く美味しそうな詐欺の方法を教えてくれました。

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