第三王女の悪徳商法撲滅法 (中編二万文字)

たっきゅん

第1話 エンドル王国の王族

「ふふっ、所詮この世はお金が全てですわ。貴族はすべからくお金持ちですし、お金を持たない者は人ですらないのです」


 薄暗い倉庫に月明かり差し込んでいる。私は簀巻きにして地面に転がした少しだけ身なりの良い小太りの男を見下ろしながらほくそ笑む。周りにも芋虫のように簀巻きにされた男女が何人も転がっているがリーダーであるこの男こそが金貸しの胴元、此度の闇金事件の主犯だった。


「あなたもそうは思いません? 思いますわよね。だって散々あなたがやってきたことですものね」


 私が侍女のキャロに向けて手を出すとアタッシュケースが差し出されたのでそれを受け取る。ずっしりとした重みが感じられるアタッシュケースに入っているのはこの国が発行している紙幣だ。


「―――そうねぇ、今のあなたは一文無し。……けれどそれだけじゃ足りないわ。だから借金を背負わせてあげる。キャロ、その男の口が利けるようにしてちょうだい」

「畏まりました」


 キャロが男の口に噛ましている布を解くと忌々しい表情で私を睨みつけてきた。しかし、男は睨みつけるだけ。いくら待てど言葉を発しようとしないのでだんだんと私はイライラしてきた。


「ねぇキャロ? せっかく話せるようにお口を自由にしてさしあげたのに何も言ってこないのはどうしてかしら。こんな小娘にいい様にされて悔しいからかしら?」

「それもあると思いますが……、その無言で応える行為そのものが無礼だという認識がないのでございましょう」

「そうなの? じゃあ―――名乗りましょうか」


 月がちょうど雲に隠れたので暗くなったその隙に積まれていた木箱の上に急いで登った。いい感じに高い位置から見下ろす姿はまさに高貴な身分に相応しいように感じて一人で悦に浸っていると再び月明りが倉庫に差し込んで来た。


「―――私はこのエンドル王国の第3王女、シルヴィア・ユーロポンド・エンドルですわ! 法外な金利でお金を貸し、借金のカタに王国民の大切なモノを奪っていったお前たち、闇金業者〝ダークネスト〟を私たち王族は絶対に許さない! ―――あっ」


 私はビシッと名乗りを決めた後にアタッシュケースを男に向けて投げつけた。しかし、手前に落とすはずが勢い余って顔面直撃、男は意識を失ってしまった。


「……はぁ。シルヴィらしいというか何というか」

「まあまあ、エリックお兄様。こういうちょっと抜けてるところとかシルヴィの可愛いところだと思いません?」

「あっ! エリックお兄さま! それにプラージュ姉さまも!」


 そんな私の失敗を見ていたお兄様とお姉さまが姿を現した途端、声を発せない蓑虫どもが無言で騒めきだした。少し面白くないですが、国を敵に回したということが目の前に第1王子と第1王女が揃って現れたことで実感が湧いたのだと思った。


「さすがお兄様とお姉さまですわ。私の顔を見ても何も反応しなかったこの者たちが慌てふためいていていい気味」

「シルヴィはまだ公の場に顔を見せたのは数回だからしかたがないさ。だからこそこんな囮捜査のような真似ができるんだ。危険なのに引き受けてくれて本当に感謝しているよ」

「そうね。私たちじゃできないことだもの。ありがとう、シルヴィ」


 プラージュお姉さまにぎゅっと抱きしめられ、私の今回の役割は終わったのだと思え、緊張の糸が切れました。思考をその柔らかな胸に頭を埋めながら放棄して後始末はエリックお兄様にお任せすることにしました。


「それじゃ、君をこの男の代わりに組織の代理人に任命するよ」

「……わかった、従う。俺たちは何をしたらいい」

「この国での上限金利を越えた過払い金の被害者への返金、それと正規金利での利益に対する税金を納めてもらう。もちろん違約金と追加徴税込みでね」

「だが俺たちは文無しだ。払いたくても払えないが……」


 代理の男が払うためのお金がないことを手振りを交えて訴えるが、エリックお兄様の側近の一人が私が投げたアタッシュケースを拾って手渡した。


「金貸し業が悪とは言わない。君たちはこの国に必要な仕事の一部を果たしてくれた。その仕事に対する正当な利益を受け取って元手としてくれ」

「……いいのか?」

「もちろん。―――ただし、それとは別にシルヴィに借りた金は耳を揃えてきっちり返済しろ」


 被害者への返金や税金への説明では優しかったエリックお兄様の声が急に冷え切ったことで、ガクガクと震えながら頷く代理の男がプラージュお姉さま越しに見えました。


「エリックお兄様。あまり代理の方をいじめないでください。彼らは皆、連帯保証人ですもの。そのリーダーの男がお金を返せるように全員で一致団結してお仕事に精を出してくださいますわ」

「シルヴィは手回しが早いね。では以上の内容で契約魔法を結ぼうか」


 私たちの活躍により悪徳商法、違法な高金利の闇金業者の一つが潰れました。国王であるお父様は金融知識を身に付けろとおっしゃっていますが、お金さえあれば力技で奪い取ることができると思います。


「庶民には無縁の高額な品の転売をチラつかせただけでこのザマですもの。ミイラ取りがミイラ……いえ、金取りが借金とは笑えますわね」


 お父様は言いました。エリックお兄様は次期国王として政治を、ガゼルお兄様は武によって国防を、プラージュお姉さまは美によって外交を、シャリンお姉さまは知によって発展を、―――そして私、シルヴィアはお金によって経済をそれぞれ極め、この国を守っていってほしいと。


「お兄様、お姉さま、シルヴィアは学んできた知識を活かしてこれからもこの国のために頑張りますわ!」


 4人の兄と姉、そして私でこのエンドル王国の更なる発展と安寧を。

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