第9話 いつもと違う「いってきます」
僕らは翌日、セリアさんに国には所属しない冒険者になることを告げた。
「そっかー。冒険者になるんだ。何処にいてもあなたたちは私の子供みたいなものだから。いつでも帰って来ていいからね。―――少しだけ、あなたたち二人が一緒にここで働いてくれたらいいなって本当に少しだけ思ってたんだけどね」
いつもより砕けた話し方をするセリアさんはどこか寂しげで、けれど僕らを家族というよりは友人としてこれから接していこうとするような、そんな気がした。―――そして、本当に少しだけなのか分からないが最後に聞こえた呟やきは僕らとの別れを心から残念に思っているようだった。
「うん、ありがとう。何がしたいかまだ分からないけど、ゆっくり世界を回って考えたいんだ」
「安全には気をつけるのよ。それと、荷物とか準備は怠らないこと。これは、経験者からの忠告よ」
セリアさんは教会に所属する前は冒険者をしていた。その時に経験した困ったことやワクワクしたこと、旅をするうえでの知識、心構えなどを話してくれた。年齢は聞いたことがないが、かなり若いのはわかるのでまだ20代だと思う。それなのに、冒険者になって旅をして、その後に協会で働くなんて、彼女はどれほど密な時間を過ごしてきたのだろう。改めて尊敬する。親として、人として。
「持っていきなさい。ここも裕福じゃないから渡せるものはないけど、これは私にはもう必要のないものだから。―――大切に使ってね」
「……ありがとう、かーさん!」
「ありがとうっ!」
受け取ったのはセリアさんが昔に愛用していた短剣、その重さは昨夜に聞いた思い出話の分だけ重みを増して感じた。―――護身用としてプレゼントされたその短剣を僕は大事にしようと決意し、落とさないようにしっかりと腰に括り付けた。それから三日後、旅の準備を整え終えた。晴れた気持ちの良い天気にこれからの旅路が楽しみで胸が躍った。
「「いってきます!」」
「いってらっしゃい」
「「「いってらっしゃーい!!!」」」
かーさんは、優しく微笑んで送り出してくれた。いつも遊びに行くのを見送る様に笑顔で手を振りながら。セリアさんが僕らの旅立ちについてうまいこと説明してくれたのだろう。他の孤児たちも僕たちを笑顔で見送ってくれた。
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