第8話 僕は引き金を引いていた
サクラと旅に出るにあたり、世界情勢について再確認しておこう。
ヘージとしての知識はあるが、この世界には冒険者からの情報や、国からの情報公開が主だ。映像技術のない世界では、真偽は自分で見聞きしない限りは分からない。
「ここは、東の大陸であるヴェルダン大陸のさらに東に位置している最果ての集落で、ヴェルダン大陸には今は3つの国がある。北の寒冷地にある軍事国家 ノルズリ、南の海辺にある海洋国家 フィアラル、大陸中央に位置する宗教国家 ヴォルス」
僕の話をサクラが頷いて肯定する。世界は広い、そのはずだが海や渓谷などにより人が通ったことのない場所は地図からは省かれる。たった3つの国しかない大陸だと思うかもしれないが、世界というのは自分の理解できる範囲が世界なのだ。
「けれどここはその何処でもない。そして、国に属さないがヴォルスからの物資援助を受けている。ヴォルスに教会の総本山があるからだ。―――ここまであっているか?」
「うん。補足すると、この世界には普通の人は知らない他の大陸が2つあってヴェルダン大陸の三カ国は協力関係にあるの。だからそこの防衛に兵士を集中させたいからここは国には入ってないんだよ。東の端だもん、周りは深い山だし道はヴォルスまでしかない。なら、放置が一番だよね」
「なるほどね。だから、武力は置かずに庇護の教会があるわけか。成人して自主的に国家に所属してもらうために」
サクラってこんな頭良かったっけ? ヘージとしての記憶ではちょっとぬけている妹だったはずだ。それに平次として触れ合った女神としてのさくらも幼くて、ここまで頭が回ることに疑問を浮かべた。
「あー! なんかバカのはずが意外なこと言ってるって顔してる」
「そんなこんないよ! バカじゃなくて世間知らずというか幼稚というか―――」
「噛んでる時点で真っ黒だし、それもひどいよね!? もうっ、お兄ちゃんのバカッ!」
思ったことを読まれていた。僕は顔に出やすいのかな? 気をつけるとしよう。もしかしたら女神様パワーで心を読んだ可能性もあるけど。
「そうそう、この世界には魔王がいるらしい。なんでも15年前に突如として西の大陸に現れて、それ以来、魔物が各地に出現しているらしい」
「それはわたしが管理室から消えたせいだね。世界消去プログラムみたいなものだよ」
「へー、そうなんだ。―――って、僕のせいじゃないか! 15年前ってそういうことかー、世界崩壊の引き金は僕が引いたのかっ!」
つい、叫んでしまった。そして、頭を抱える。したばたしながらマジかーと一人で繰り返していると、
キィ
「ヘージ、五月蝿い。眠れない。死ね」
バタン
澄んだ青空の様な髪色をしたショートの女の子が部屋の扉を開けて、容赦ない一言と共に去っていった。
「ごめんよ、スノリェ」
「私からもあとで謝っておくね。お兄ちゃんが迷惑かけてごめんなさいって」
もう去った後なので、扉の向こうで止まっていてくれなければ恐らく聞こえてないだろうけど、それでも僕は悪いと思って謝った。そして、サクラが地味に追撃をかけてきた。……ほんとさっきはごめんなさい。
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