第7話 確認は大事

 部屋に戻りセリアに言われたことを考えために、僕ら二人はベッドの上で向かい合っていた。



「なあ、サクラって女神様のさくらだよな」

「うん、そうだよ?どうしたの急に」



 念のためにサクラに確認すると目の前の妹は、まぎれもなく元女神様だと答えた。綺麗な桜色の髪はブラウンに変色しているが、雰囲気、背格好や声にいたるまで間違いなく吉野さくらだ。さきほど川に移った自分の姿を思い出す。兄妹である僕も髪の色がブラウンだった気がする。となると平次として死んだあの時の続きの人生ということになる。



「もしかしてだけど、自由が欲しいって願いが家に縛られないように孤児になったのか?」

「うん。さすがお兄ちゃんだねっ。本当の両親は亡国の騎士とお姫様なんだけど、色々あってね。私たちは孤児になり、セリアさんに拾われたの」



 どうやら僕の自由に生きたいと言う願いを汲んでくれたようで、孤児として暮らしていたのは意図的なようだ。



「なら15歳で成人して、大人としてどう生きたいか選択する。……それが僕が平次として目覚めて初日の夜ってのは?」

「決められた生活が嫌かなって思って、旅立ちの日に目覚めるように設定しておいたんだよ」



 ずっと続く日常、確かに平和で安寧な世の中は魅力的だ。しかし、僕は漫画や小説、ゲームのような冒険を夢見ていた。だからなのだろうか、さくらはその気持ちを汲んで今日という日に僕を目覚めさせたという。



「慈愛は循環し、新たな世界を作るであろうって教義はサクラが作ったんだよな?」

「この世界の人たちが、孤児である私たちを助けてくれようにね。教会の崇める神様はわたしだから転生前に将来のために御告げしておいたの」



 ヘージとしての記憶がここでのみんなとの生活がとても心地よい訴えている。セリアさんのように教会に所属して人助けをする立派な人間になるのも悪くないという気持ちにもさせる。……けど、僕は平次だ。それにこの妹はお膳立てが好きらしい。ここまでされたら明日、セリアさんにする返事はもう決まった。



「きっとセリアさんにとっては、慈愛は人道支援で新たな世界は、子供達との生活だったんだな。なら僕は、この世界を愛して好きに生きよう。それが僕の新たな世界だから」



 ―――旅立ちを決めた。自由な旅だ。サクラの顔を見るととても嬉しそうで兄のヘージとして僕も嬉しくなった。



「二人ならなんとかなるさ。一緒に世界を回ろうな」

「うんっ!」



 兄貴っぽくそう言うと、サクラは楽しそうに頷いた。まだ行先も、何をする旅にするかも決まっていない。何も始まっていない旅だけれど、それだけで僕もワクワクした。

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