第5話 意識覚醒
目覚めは突然だった。息苦しさとこのままだと死ぬという無意識の危機感による意識の浮上により、自然と両目が開く。すると水面と光が見えると同時に水が目に入りすぐに目を閉じてしまった。
(ここ水中か!? そんなことよりも早く空気を。このままだと死ぬ!!)
手足をバタつかせながら必死で水上へと浮上していく。どうして水中で溺れていたのかなんて全くわからないが、転生して意識を取り戻したらすぐに死にましたとか笑えない。無我夢中の中で手に紐のようなモノに触れた。それを掴むと僕の体は一気に水上へと引き上げられた。
「っうぉえっぅ……、はぁはぁ……はぁーーー……」
咽ながら口へと不自然に注がれた水を吐き出して呼吸を整える。落ち着いて後ろを振り返るとそれなりに大きな川が流れていて、どうやら僕は川に何かしらの理由で入って溺れていたらしい。
「へーじ!」
「兄ちゃんが無事でよかったな、嬢ちゃん」
見覚えがあるようなないような不思議な気持ちを抱かせる少女が駆け寄って僕にだきついてきた。それを微笑ましそうに見ている体格のいい男の手に握られているロープを見て死なずに済んだのは彼のおかげだと察した。
「―――助けてくれて、ありがとうございました」
「いいってことよ。礼ならその嬢ちゃんにしな。妹なんだろ? 必死で助けてを求めてきたんだ。オレはそれに応えた、それだけだ。じゃーな」
「お兄ちゃんを助けてくれてありがとうっ! ―――あなたに女神の祝福を」
礼は不要と去り行く男は背中で語る。少女のお礼に腕を天に伸ばして応えるその姿はとてもカッコよく見えた。―――そして、少女の女神に祈ると少女から光が溢れ男を包み込んだ。男はそれに気付かないまま姿が見えなくなった。
「へーじ大丈夫? どこか痛いところはない?」
そう言いながら心配そうに少女の手が僕の体に触れながら淡い光を放つと、少しズキズキしていた痛みや後を引いている呼吸の苦しみが引いていき楽になった。
「ああ、ありがとう。助かったよ」
僕も何の気もなしに受け入れる。それは【魔法】と呼ばれるこの世界では、ありふれた力で彼女の力は、癒す事に特化はしている。周囲の草木から水分や栄養を分けてもらい他者へと与える。この少女の魔法は世界中の草木から生命力をもらえるため効果は絶大で、分けてもらう草木の範囲が広すぎるので草木一本づつへの負担はほぼ皆無だそうだ。
「……さく……ら?」
魔法が体に浸透する共に、この世界で生きてきた記憶と目の前の少女の名前、魔法の効果を思い出していく。周りの景色もそれに連れてはっきりと、鮮明に世界としての形を僕の瞳に映し出していった。
「へーじ? ……え? へーじ!?」
「そうだ。女神のさくら! てことは、一緒に転生できたんだね」
目の前にいるのは元女神のさくらだ。だから魔法の能力はとんでもなく、今のように一瞬で痛みや苦しみが引いたのだ。そして僕も全てを思い出した。
「それにしてもさすが女神様だね」
「元だよ? 今はへーじと一緒にこの世界で生きている住人の1人だもん」
「それにしても魔法のある世界か~……」
一方、僕の魔法は召喚系のようだが媒体がないために使った事は未だない。魔法に対する憧れは一度置いておこう。―――この小さな元女神様、さくらは僕が意識を取り戻すまでこの世界で自由を手に入れて生きてきたのだと、蘇った記憶と共に目の前の少女を見て確信し、ホッとする。
「なあ、さくら。ここが僕の望んだ異世界なのか?」
「そうだよお兄ちゃん。ここは、お兄ちゃんのいた世界とは別の世界。わたしの見ていた頃の情報によると、剣と魔法があるみたい。ここは支配者がいない大陸で覇権争いの真っ只中かな?」
どうやら僕とさくらは双子の兄妹として異世界に転生できたようで、さくらの話では世界創造を僕はできなかったようだけど、僕の願ったことは二人の力で叶えられたらしい。
二人は、山小屋で暮らしているところを教会に拾われた孤児だ。サクラがサラッと、亡国の末裔であると付け加えたが、今は、記憶の混乱がありへーじとしての意識が大きい。どうやらこの世界の僕も〝ヘージ〟と言うらしい。そしてさくらも〝サクラ〟である。
僕は、ヘージ ヨシノ
妹は、サクラ ヨシノ
僕らは、この世界で自由に生きてやる。さて、何をしようか。そんなへーじとしての意識をヘージが止める。
「大きな魚は獲れなかったけど、遅くなって心配させるのも悪いよな」
「うん。へーじに話したいことはいっぱいあるけど今日はもう教会に帰ろうね」
とりあえずは、育ての母であるシスターの待つ教会に帰る事にした。
「あ、お兄ちゃんってどこまで記憶が戻ってるか今のうちに確認しとかないとだよね」
「全部思い出してるから大丈夫だって」
「ほんとかな~? じゃあ確かめさせてもらうからっ!」
帰り道でサクラに色々覚えているかクイズ形式で記憶の確認をされ、問題はないとオッケーをもらった後でなので少しだけいつもより遅い帰りになったのは言うまでもない。
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