第4話 そして転生へ
「わたしの名前? ないよ?」
「え? ……名前ないの?」
「うん。ない」
何ということでしょう。名前の無い小さな女神様が、首を傾げてそんなことを言い出した。聞き返してみてもやっぱり名前はないようでちょっと困った。そんな僕の様子をみて彼女は理由を語り始めた。
「だって、ずっとひとりだったもん。ひとりなのに名前なんて必要ないでしょ?」
「じゃあ、君はなんで世界の管理人みたいな事をしているんだ?役割をくれた人がいるんじゃないか?」
他人がいるから区別をつけるために。個性をつけるために。自分が自分でいるために名前がいるはずだ。彼女が役割を持っているなら、それを与えた人がいるはずなのだ。それが例えば管理番号であったとしても……。
「わたしは、かみさまに作られたの。かみさまに名前はないの。かみさまの一部がわたしだから」
「なら、君はかみさまなのかい?」
少女は、自分を女神様だと言った。女神様、つまりは、女(の子の)神様だと。僕は、女神様と神様は似て非なるモノだと考えていた。一神教による異教徒の考え方が近いかもしれない自分の信じる神様以外の神様は偽物である。けど、もし偽物の烙印を押した神様も神様の一部だとしたら?
そうなれば、自分の信じる神様でさえ本当の神様の右手の小指程度の存在なのかもしれない。偽物と弾糾した神様だって本当の神様の左足の中指なのかもしれない。その推測に彼女はすぐに答えてくれた。
「わたしはわたし。かみさまの一部であるけど自我はあるの。けど、かみさまにとっては自分だから名前なんてつけないの」
「なら、君としての自分があるなら僕が名前をつけてあげる。〝さくら〟なんてどうかな? 鮮やかなピンク色の髪の毛が印象的だったから、さくら。僕のいた世界では春になると咲く綺麗な花なんだよ」
「……さくら」
彼女がそう呟くと、真っ白な空間は若葉の緑と桜の花びらが舞う春を思わせる光景へと変貌を遂げた。
「後は、苗字があった方がいいかな?僕の前世の苗字が山田だから、山田 桜にしようと思ったけど兄妹みたいだし。山桜の事を吉野の桜って言うみたいだから〝
苗字まで考えたのは、さくらって名前だけだと神様の束縛から解放出来ない気がしたからだ。彼女が受け入れてくれるなら、きっと女神様だって神様の一部から離れられるはず。
例えば、神様の左足の小指の爪が剥がれたとする。それは、神様か? 否、御神体の一部ではあるが、それ自体は元神様の爪だったもので、ただの爪なのだから
ふと、女神様が微笑んだ。
「ありがとうっ」
優しい声で力強く。 自分の意思で自由を掴み取るようにさくらは、僕の袖をしっかりと掴んで扉の方へと引っ張っていく。
「お願い。へーじ」
それが合図。僕は、僕が来た扉を大きく両手で開いた。恐らく、この先には僕が望んだ、創造した世界が広がっているはずだ。隣には、袖を掴んだままのさくらがいる。光が僕らを包み込む。
そして―――、見知らぬ世界で、僕は目を覚ました。
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