第6話 行方不明捜索

 真は満田の証言をもとに、妻、幸恵が出勤するはずだった、ネジ製造工場の会社へと、電車を使って一時間かけて着いた。

「すまんのう。付き合ってくれて」満田は眉が八の字になっていた。

「いいですよ。奥さんの何かが分かるといいですね」


 満田はこの捜査で幸恵が見つからなくて、打ち切りになったとしても、あかねにお金を払わなくてはいけない。そんなことを分かっているのかと、真は思った。

 ネジ工場は電車を降りて、徒歩で十分も掛からないところにあった。この駅の周辺ではそれほど人通りが多いわけではなく、ファストフードや理髪店、本屋や不動産はあるのだが、それを抜けると、マンションが立ち並ぶ場所にその工場は存在していた。


 真は予め、このネジ工場の総務の女性と電話で幸恵の話をしていた。なので、会社の前にあるインターホンを鳴らして、自分の名前を告げると、製造側ではなく、本社の小奇麗な建物の二階の総務部の方へ上がってくださいとのことで、早速二人は履いていた靴を靴箱の中に入れ、来客用のスリッパを使い二階に上がった。


「すみません、お時間を取らせてもらいまして……」

 真は頭を下げながら総務部へ入った。

「いえ、取り合えず、こちらへ」

 総務部の女性に案内された場所は、来客室と書かれてあった小さな部屋だった。そこには会議室で使われる木材の机と、背もたれのある足に駒が付いてあるプラスチック製の椅子と、観葉植物があるシンプルな部屋だった。


「こちらでお掛けになって、お待ちください」

 そう言われて、真と満田は隣に座って待っていた。


「部長はこの工場に来られたことはありますか?」

「いいや、わしも幸恵の職場に行ったのは初めてや」


「奥さんはこの工場で何年働いているんですか?」

「まあ、十年くらいや。元々接客業をしてたんやが、人間関係が良くないとかで、職を変えてここで働き、上手く収まったという感じや」


 ――工場の方が、どちらかというといろんな人が良そうな感じだけどな。

 真はそう思っていると、ノックの音が聞こえて、恰幅のいいダンディな男性がこちらに姿を現した。

 彼は満田を見ながら、真と満田を向かい合って椅子に座った。


「これは、満田さんの旦那さんですね。この度はようこそおいでになりました。そして……」

 総務の男性、高石が躊躇していると、真は、「初めまして、飯野真といいます。天橋出版社のジャーナリストで満田とは上司に当たります。それと兼、私立探偵の助手をやっています」と頭を下げた。

 恥ずかしながら、探偵の助手というところまで言わないと、不審に思われるのではないのかと、真は半ば赤面していた。


 しかし、高石はそういわれても不審な顔をしていた。

「あ、そうなんですね。探偵の助手……」

 その表情からは笑いが入っていてバカにしているようにも見えた。

「この度、課長の奥さんが行方不明になりまして、昨日のことについてお聞きしたくて伺わせていただきました」

「はい」高石は口元に手を当てて、にやけているのを隠そうとする。


「早速なんですが、奥さんの幸恵さんは何時ごろに退勤なされたんでしょうか?」

「えっと」男性は聞かれると思ったのか、持ってきていた幸恵の勤怠リスト用紙を目に通す。「昨日は午後の四時十五分に退勤されてるようですね」


「その四時十五分に退勤したという、その決定的な証拠はタイムカードでしかないですか?」

「まあ、一応、事前に職場のパートの方に満田さんの事情を説明したんですけど、同僚の一人が満田さんと退勤を打刻した後、立ち話をしたと聞いています」


「その方は、今日出勤されてますか?」

「はい、勤務しています。満田さんの奥さんが行方不明ということを聞くと、非常に心配そうにはしていましたけど……」


「なるほど。ちなみに、その女性とは話せないのですか?」

「いえ、飯野様が仰るのであれば、連れてこさせますけど……」

「是非ともお願いします」

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