第2話 宝石強盗犯
「おい、早くするんだ」
黒いバラクラバマスクを付けていた全身黒ずくめで、身長が高くガタイのいい男が、痩せ型のバラクラバマスクを着けている男にいった。
「分かってる。ここの店はセキュリティが緩い……。けど慎重にしないとな」
そう言って、痩せ型の男は陳列に並んでいた高価な宝石を、持ってきた黒いバックに無造作に入れていく。
「これ何て、高く売れる感じがするぜ」
彼はカラットが大きい指輪を指で掴んで、間近で眺めるように見上げた。
「おい、そんなことやっても暗いから分からないだろう。誰かにバレちまう前に全て盗るんだ」
「分かってるよ」
二人は物の数分で閉店後の宝石店で、全てのジュエリーをかっさらい、店の裏口から逃走して、表のシャッターが閉まっているほうに回り、停めてあった黒いキャブオーバー型の乗用車に荷物と共に乗り込む。
ガタイのいい男が急いでエンジンを掛ける。バックミラーやサイドミラーで確認する。人は誰もいない。
時刻は深夜の二時前。もちろんどこの店もシャッターを閉めている。
オレンジ色の街灯が立ち並ぶ。丁度雨だったこともあり、それが余計に人気を無くしていた。
車を出発し、緊張と十二月の寒さで体が硬直している。思わず法定速度をゆうに超えたスピードを出して、最初の赤信号に到達したときに二人ともバルクラバマスクを脱ぎ取った。身体は温もりを求めているのに、顔中は汗をかいている。
「何とかバレずに奪えたな」
ガタイのいい男は笑った。不意に見せる頬のえくぼと八重歯が爽やかな印象だった。
「これも、館野の兄貴のお陰だぜ」
「オレが全ての計画をしてやったからな」
ガタイのいい男――館野は緊張がようやくほどけて、奥底に溜めてあった息を全て吐き出した。
と、そこで、ズボンのポケットに入れてあったスマートフォンの着信が鳴りだした。
館野はポケットに手を突っ込んで、自分のスマートフォンを見た。
「守山からだ」
館野は青信号に変わった後、痩せ型の男――野口に電話に出てくれと、スマホを投げ渡した。
野口はスマートフォンを両手でキャッチして、一度スマートフォンの画面を見て、電話に出た。
「もしもし、どうだ? こっちは順調に終わったぜ」
野口は意気揚々と態度が大きくなり、ダッシュボードの上に靴を履いたまま両足を乗せて喋る。
「……え、何だ? え?」
野口は相手の言葉に対して、急に血相を変えた。館野も横目でやり取りを聞いていてその瞬間を見逃さない。
「おい、ちょっと貸せ」
館野は運転しながら左手を差し出しスマートフォンを受け取って、電話の相手、守山と話をした。
「どうした?」館野は恐怖からあからさまに苛立っていた。
「実は、こっちの方は失敗してしまって、警備に見つかってしまったんだ」
「見つかった? そっちの方も何度も下調べしてたんだろう?」
「すまない。若い奴がセキュリティセンサーを通ってしまったんだ。そこで、アラームが鳴りだした。その後に、そこの管理を担ってる警備が一人駆けつけてきた」
「それでどうしたんだ?」
「俺たちは見つからずに逃げたつもりだったが、若い奴がチンタラしてしまって、最後に車に乗り込んだオレの姿を見られた」
「顔も見られたのか?」
「ああ、懐中電灯のライトを当てられたから、そうだろう。それに車のナンバーも見られた」
「何してんだよ!」
館野は感情的になっていて、車内の中で怒号が響いた。野口も館野の声に内心ビクビクしている。
「取り合えず、基地に戻って、詳細を聞く」
守山は何かを喋ったが、館野は無理矢理電話を切った。
野口も何を喋っていいか分からなかった。言葉に出したらこっちにもとばっちりを食らわされそうで黙っていた。
館野は下唇を噛んで、煮え切らない表情を浮かべながら、いつしか速度を上げていた。
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