華麗なるランベルトの一族
殺人の動機を語り終えたダリアは、すっかり力をなくし、立ち上がることもできずにいる。
そんな彼女を、アインハルトは軽々と持ち上げた。お姫様抱っこで。
「……どんな理由があろうと、殺人は重罪です。貴方は法の下で裁かれなければならない」
そして、告げた。
「ダリア・ランベルト。貴方を殺人容疑で逮捕する」
その言葉を聞いて、俺はようやく大きく息を吐いた。これで、事件は解決である。
しかしながら、学者たちは固唾を呑み、ギルバーツはうなだれ、フジノは啜り泣く。お世辞にも大団円とは言い難い結末だった。
「……アルムくん」
アインハルトに抱き抱えられたまま、ダリアは俺に問いかけてきた。
「どうして、私が犯人だとわかったの?」
「……パーティーでケーキを食べたとき、貴方は紅茶をしきりに飲んでた」
その理由は、あのケーキは彼女にとって、非常に甘ったるかったから。雷属性の【エレメントフルーツ】を食べて、だ。
つまり、ダリア夫人は【木属性】。
「【雷魔法の魔法陣】だって、ただ踏めばいいってもんじゃない。確実に感電死させるなら、【押さえつけて踏ませ続ける必要がある】。なら、マーカスさんと同時に、自分も感電するリスクがあったはずだ」
だとしたら、雷に耐性のある人物なら可能、という推理ができる。そして彼女は、その条件に該当したのだ。
「【宝石魔術】に詳しい貴方なら、【エメラルド】も使ってさらに耐性もつけられるだろうしね」
「……そう。全ては、あのケーキがきっかけだったのね……」
「あれは、マーカスさんの好物だったと聞いてます。……貴方も、当然知ってましたよね?」
「ええ。あれを初めて食べさせたのは、私だもの。私も、あのケーキは好きだったわ。……お父様が、たまに作ってくださったの」
母親を早くに亡くしたダリアは、父である先代侯爵によって育てられた。父は再婚もせず、ダリアに精一杯の愛と魔術の知識を与えて来たのだ。……ダリアの好物は、赤い果実だったが。
「最後の食事になるのだし、せめて好物くらい、と思ったのが、運の尽きだったわね……」
悲しそうに微笑むダリアは、今にも消えてしまいそうな気がする。アインハルトがガッチリ抱えているというのに。
「では、参りましょう。ダリア夫人」
「ええ。……では、ご機嫌よう、皆さん。そして――――――小さな賢者さん?」
アインハルトに抱かれたまま、ダリアは隠し部屋から去っていく。きっと俺は、彼女と二度と会うことはないだろう。
彼女は気付いているだろうか。
唯一彼女に残っていた家族の暖かな絆を、自ら断ち切ってしまったことに。
父親から授かった【宝石魔術】を、あろうことか殺人に使ってしまったことで、その思い出も暗く歪んでしまった。
それに気付いたら、きっとこれから先に待つのは、地獄のように苦しい後悔の日々だ。
その日々を支えてくれる人は、誰もいない……。真の意味で孤独になってしまったのは、彼女自身の選択の果てだということを。
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