少年賢者の推理:動かぬ証拠
「ま……マーカス坊ちゃん……!!」
フジノはよろよろと、うつぶせで倒れているマーカスに近づき、触ろうとする。しかし彼女の腕を、アインハルトが掴んで止めた。
「失礼。まだ、現場保存中ですので」
「……マーカス……!! おお、なんという姿に……!!」
「マーカス様……!!」
目から一筋の涙を流すギルバーツに、使用人たちもつられて泣き出す。横柄な態度を取ってはいたが、それなりにマーカスも慕われていたのだろう。
「……それにしても、この部屋は一体何なのだね?」
「……使用人の皆さんには、悲しんでるところ申し訳ないんですけど。この部屋の、その鏡を見てもらえますか?」
「鏡?」
言われるがままに鏡を覗き込んだ一同はぎょっとした。
鏡の向こうには、女子更衣室がはっきりと映っている。
「これは……
「その通り。でなければこんな隠し部屋、わざわざ造らないでしょう」
「ということは、まさか、マーカス様は……!!」
「そう。彼は【この部屋で、メイドの着替えを覗いていた】んですよ」
「な……っ!!」
あまりにも衝撃過ぎる事実に、使用人たちは言葉を失った。悲しめばいいのか怒ればいいのか、複雑なところだろう。
「……マーカス、なんて馬鹿なことを……!!」
ギルバーツは泣きながらも、息子の愚行を悔いるように呟いた。
「こんな部屋など作らなくとも、使用人の一人や二人、妾にすればよかったではないか……!! それほどまでに、色に狂っていたというのか……?」
そこ? と思うかもしれないが、貴族である以上、愛人を抱える方がよっぽど健全である。事実、マーカスにはその権力もあったはずだ。女性の裸に興味があるなら、こんな覗きをせずとも命じればよいだけの事。ギルバーツの言い分も、あながち間違いではない。
「……話を戻しましょうか。ここにマーカスさんの遺体がある以上、【マーカスさんの殺害現場は
そう言う俺の視線の先にいたのは、メリナ。彼女も青ざめながら、それでもコクリと頷いた。
「つまり、お色直しの時に、マーカスさんはここに来る。貴方はそれを知っていて、【お色直しの時間をメリナさんの退勤時間に合わせた】。そうですね? ダリア夫人」
「……仮にそうだとしても! 私が犯人であるという証拠なんて、どこにも……!!」
「いいや、【証拠はこの部屋にある】!」
なおも食い下がる夫人に、俺はトドメとなる証拠を突き付ける。そのために、俺は隠し部屋の床に落ちていた、あるものを拾い上げた。
「これを見るんだ! この赤い繊維は、【貴方がパーティー前半で着ていたドレス】のものだろ!?」
「…………っ!!」
「何で屋敷の誰も存在を知らない隠し部屋から、この繊維が出てくるんだ!? それは、【ドレスを着た貴方がこの隠し部屋に来た】ってことだ! 何だったら、貴方のドレスと繊維を照合したって良い!!」
照合、という言葉に、ダリアの表情は険しくなった。
「う、ううううううううう……!!」
――――――もう、言い逃れはできない。
「だ、ダリア……!!」
「奥様……!!」
周囲に呼び掛けられる中――――――ダリアは、ふっと笑みを浮かべた。それは、最初に屋敷の中で見たような、穏やかな笑みだった。もう、すべてを諦めたのか、隠すことがなくなった解放感からの笑みなのか。
「……これ以上は、もう、無理なようね……」
「で、ではやはり、お前が……!?」
「ええ、そうよ」
ギルバーツの問いに、ダリアは笑顔を絶やさないまま答える。
「その通り。私が、私がマーカスを殺したのよ。……この、忌まわしき屋敷でね……!」
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