新館周りでの聞き取り捜査

 新館に入りたくても入れないので、俺とリリーは旧館内をウロチョロしていた。メリナは仕事があるし、学者たちは客間で再び【魔法陣】とにらめっこをしている。


「マーカス様を昨日最後に見たのはいつか? そうねえ……」

「些細なことでもいいから、何か覚えてない? お色直しの時とか」

「う~~~~~~ん、思い出せないわ、ごめんなさいね。坊や」


 通りかかる使用人に聞いてみるのだが、あまり芳しい成果は得られないままである。


「……全然いないね。マーカスさんを見たって人」

「ああ。お色直しの時間を含めても、いくら何でも屋敷の外に出たとかは考えにくいんだけどなあ」


 マーカスが殺されたとして、その遺体はどこにあるのかも、依然としてわからないままだ。


「パパは、どこにマーカスさんの遺体があるか検討はついてるの?」

「んー、そうだなぁ……あくまで、俺の場合だったらだけど……」


 リリーの問いかけに俺は、新館の1階を指さす。


「……3階の書斎を爆破するなら、遺体は1階より下に隠すかな」

「どうして?」

「爆発なんてしてみないと被害がわからないだろ。そうしたら、2階に置いとくのは危ないじゃないか。何かの拍子で出てくるかもしれない。だったら、最初から1階に置いといた方が、バレる可能性は低いしな」

「なるほどねえ」

「間取り知らないから、地下室もあるのか知らないけど……地下室がなければ、1階のどこか、かな」


 そんな風に話しながら、俺達は旧館中庭の周りをグルグルと回っていた。新館は旧館に囲まれるような作り方をしている。中庭の真ん中、敷地ギリギリのところに建てたのだろう。そして後ろの敷地外は、森になっている。

 新館の警備は中々に厳重で、正面玄関はもちろん、左右の窓からも入れないように、使用人が見張りに立っていた。いずれも屈強な男たちで、簡単には入れそうもない。


「……いっそ、あの人たちやっつけて中に入っちゃう?」

「お前、次それ言ったらデコピンな」

「ぴえっ」


 そんなやり取りしながら新館の周りをうろうろしている子供と、それにくっついている女性というのは、目立つものだ。警備の人も、先ほどからちらちらとこちらを見ている。リリーが悪魔だということも知っているはずだから、ごくりと息を呑んでいる人もいた。……本当すみません。


「――――――コラ――――――っ!」


 突然、旧館から怒鳴り声が聞こえてきて、俺たちはびっくりしてそちらを見やった。

 見やれば、若いメイドさんに、太ったおばさんメイドのフジノが、カンカンに𠮟りつけている。


「ダメじゃないの、お客様も来てるんだから! 壁によりかかったりしたら……!」

「で、でも、、別にいいかなって……」

「新館、旧館とか、そんな問題じゃないでしょう!」

(……旧館だし……?)


 その言葉が気になった俺は、フジノがいなくなったタイミングで、そのメイドさんに話しかける。彼女は彼女で、いなくなったフジノの背中に向けて舌を出していた。


「ねえ、お姉さん。ちょっと聞きたいんだけど。新館で壁によりかかると怒られたの?」

「あら、今の見られてた? ええ、マーカス様が建築した屋敷なんだけど、壁によりかかってサボってると、「だらしないことするな!」ってめちゃくちゃ怒られたのよ」

「んー、でも、あのマーカスは自分がそんなこと言えたような態度じゃなかったような……」


 リリーの言葉に、メイドさんは苦笑いした。恐らく、呼び捨ても含めての苦笑いだろう。 


「……そう言えばマーカス様があんな風に怒るようになったの、新館が建てられてからね。以前はメリナと旧館で話すときとか、彼女、壁によりかかってたし」

「メリナさんが? それって、メリナさんが幼馴染だから?」

「いや、違うわ。むしろ逆で、メリナこそ新館で何か触るたびに「触るな!」って怒られてたもの。メイドの中でも、一番怒られてたんじゃないかしら」


 そうなのか。そんな仕打ちを受けていたのに、あの事故を見て真っ先に駆け付けてくるっていうのは、凄いな。


「……しかしあのフジノのバーさん、マーカス様が死んだってのに、全然調子変わらないわねえ、腹立つわぁ」

「フジノさん? ああ、さっき怒られてたよね」

「あの人、マーカス様の乳母だったのよ。旦那様の推薦でね。それでマーカス様と仲良くて、メイドの中でも年長だからって偉そうにしてさ……!」

「そ、そうなんだ。大変だね、ははは……」


 指の爪を噛みながら愚痴るメイドさんに、俺達は笑うしかない。


「いっそしょげてくれれば、こっちも仕事しやすいってーのに。……って、こんなの子供に言うことじゃないわね。忘れて頂戴な」


 じゃあね、と言ってメイドさんは、バケツとモップを持って去ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る