現場にあった【増幅魔法陣】の考察
「あの部屋の規模からして、こういったものではないかね?」
「いや、私は違うと思う。【増幅魔法陣】を使っている以上、ある程度大きさも制限できるはずだからな」
「いや、これは――――――」
「いや――――――」
客室に入ると、学者たちがこぞって、一つの机に集まっていた。せっかく用意された朝食を、ほったらかしにして。
「……おはようございます。何してるんですか?」
「おお、アルムくん。これは昨日の事故現場にあった、【魔法陣】の解読だよ」
彼らがやっていたのは、どんな【爆発魔法陣】ならあの部屋の爆発を起こせるか、という思考実験だった。
「はあ、それはまた……」
「ランベルト家の書斎にあったということは、きっと前侯爵の残した【魔法陣】であることに間違いないからね。学者として、どんなものだったのか、興味がわくじゃないか」
「……なるほど、それもそうかもですね。でも、あの【魔法陣】の焼け端って確か……」
爆発の証拠として、駐在が預かっていると思うのだが。
「――――――ふふふ。それは心配いらんよ。わしはあの現場で見た【魔法陣】を、はっきり記憶しておる。見たまえ」
学者の一人である老人が見せてきたのは、手描きの焼け端だった。それは、【魔法陣】の模様だけでなく、焦げ跡まではっきりと同じの。
「……これ、どうしたんですか!?」
「ほっほっほ。ワシには、瞬間記憶能力があってのう。一度見たものは、忘れず鮮明に思い出せるのじゃ」
「でも、こんな、焦げ跡まではっきりと……どうやって!」
「それこそ、魔法の出番じゃよ。ほれ、これを見たまえ」
老人が取り出したのは、ちょっと変わったペン。それを持って、アルムの顔を見ると、老人の手が勝手にすらすらと動き出す。
わずか1分足らずで、精巧なアルムの顔が、紙には描き出された。
「す、すっごーい! パパだぁ!」
「これは……念写ですか?」
「その通り。このペンは特別製でな。思い浮かべたものを、イメージ通りに描くことができるのじゃ。今、特許を申請しておる」
「へえ、すっごいね、パパ!」
「ああ、凄い。凄いけど……」
……こんなの、この人みたいな記憶術持ちじゃないと使えないんじゃなかろうか。
「せっかくだ、君も検証してみないかね? どんな【爆発魔法陣】だったのか」
「え? うーん……」
見せてもらった紙をじいっと見やって、そのまま考える。【増幅魔法陣】を用いた、【爆発魔法】……。
(……確かに、今どきの魔法に【増幅魔法陣】はつきもの。しかもここは、【増幅魔法陣】の発案者であるランベルト侯爵のお膝元だ)
確かに、【増幅魔法陣】の紙があっても違和感はない。が……。
(……そもそも、部屋の爆発に【爆発魔法の増幅魔法陣】なんて、使うか?)
本来、【爆発魔法の増幅魔法陣】なんて、より爆発を強力にするために使うものだ。屋敷の中で作動なんてさせようものなら、書斎どころか新館そのものが吹き飛びそうなものだが……。
それが、被害は書斎と外の窓だけ。となると、やっぱりおかしい。
(……現場に置いてあった以上、単なるミスリードも思えない。切れ端が
燃え尽きれていればそれまでって可能性もあるだろうけど……)
ただ、あの規模の爆発にわざわざ【増幅魔法陣】を使ったという意味が、俺にはよくわからなかった。
そして俺が悩んでいるということは、高名な学者の皆さんも同じように悩んでいるわけで。
「ううむ、やはりちょっと規模が大きすぎないか?」
「確かに……被害の度合いを考えると、【増幅魔法陣】を使うといささか効果が大きすぎますね」
「ふむ。では、この魔法式をさらに小さくして……?」
再び学者たちは、【魔法陣】とのにらめっこを始めてしまった。俺はため息をついて、リリーの方を見やる。
彼女はじっとこっちを睨みながら、食事に手を付けずに待っていた。
「……難しい話、終わった?」
「何だお前、ずっと待ってたのか?」
「いただきますは、パパと一緒。そういうルールでしょ?」
そう言うと同時に、グゥ~~~~~~~~、と、盛大な腹の鳴る音がする。学者たちも思わず振り向くほど、大きな音。鳴いているのは、もちろんリリーの腹の虫。
「……とりあえず、食事にしましょうか」
「そうですな。頭脳労働には、十分な食事と睡眠が必要ですから」
学者たちもにらめっこをやめ、ぞろぞろと食卓に着き始めた。
凄いぞ、うちの娘は。
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