ランベルト侯爵屋敷の聞き込み捜査

 翌朝になって、俺とリリーはメリナと一緒に、侯爵の屋敷へと訪れた。彼女の出勤に合わせての事である。


「メリナさんは、いつも朝から夜まで仕事を?」

「いいえ、昼過ぎまでよ。家の仕事も手伝わないといけないから」


 彼女の家は宿屋であり、彼女はそこの看板娘でもあるらしい。なので、勤務時間もそこまで長くはないのだそうだ。


「ってことは、昨日も……」

「ええ。パーティーの前半が終わって、お色直しの間に村に戻ったの」

「そうかぁ。だから戻ってきたときに服が違ったんだね」


 最初に見た時はメイド服だったのに、あの時は村娘の格好だったので、ちょっと気になっていたのだ。

 そんなささやかな疑問も解けて、屋敷に着くと、セバスチャンがピシッとお辞儀をしてくれた。


「おはようございます。昨日はゆっくり休めましたか?」

「ええ、お陰さまで」

「それは良かった。メリナ、わかってるとは思いますが、新館は立ち入り禁止です。前の更衣室を使ってください」

「わかりました」

「前の更衣室?」

「ええ。昨日までは、新館にあった更衣室で着替えていたんだけど……」


 なんでも、マーカスが建てた屋敷に、使用人の休憩室なども完備していたらしい。どうやら旧館は、完全に外部の人間用にしようとしていたそうだ。


「昨日の夜とか、新館はどうしてたの? 誰か見張ってた?」

「ええ、駐在さんが部下数名と、寝ずの番をしてくださいましたよ。今は、ぐっすり休まれております」

「ふーん……」


 そうなると、誰かが侵入した可能性はありそうかなさそうか……微妙なところだな。


「ちょっとだけ、中に入ったりは……」

「いけません! 駐在さんに代わり、私共が「誰も入れるな」と頼まれておりますので!」

「そっか。やっぱそうだよね」


 この感じじゃ、現場にもう一度入るのは難しそうだな。

 となると調べるとしたら、あの時の様子を周囲に聞いてみるしかない。だとしたら急がないと。時間が経つと、記憶ってあやふやになるから。これは時間との勝負になりそうだ。


「セバスチャンさんはあの事故の時、広間の外にいたんだよね?」

「ええ。会議室で、メイドたちと後半後の清掃の打ち合わせをしておりました」


 パーティー中、メイドたちとセバスチャンは別室で会議をしていたらしい。明日の朝への引継ぎなどをしていたそうだ。この時、当番だったメイドたちは、セバスチャンが全員顔と名前を確認している。欠勤者もいなかったらしい。


「じゃあ、爆発の瞬間を直接見ていたわけじゃないんだ?」

「はい。大きな音がしたので中庭を見に行ったら、新館の部屋が燃えていて……」

「なるほどね……」


 中庭から焼け焦げた跡が見える、新館の部屋を見ながら、俺は思案する。


 ……現場の爆発規模は、書斎はもちろん、当然周囲にも被害は及んでいる。それは、部屋の外。

 廊下を挟んで後ろには窓があるのだが、爆発の衝撃か窓は全損している。一方、上下左右にはあまり被害がなかった。勿論、壁が壊れたりはしているが、あの書斎と隣の部屋には、結構な距離があって、部屋が壊れたりはしていない。


(ほかの部屋に被害が出ない、書斎での爆発。やっぱり、偶然とは思いにくいな……)


 となると、やっぱりあの部屋の爆発は仕組まれていたのだろう。少なくとも俺は、そう思う確信があった。


「……そう言えば。マーカスさんがパーティー会場にいなかったんだけど、何か知らない?」

「ええ、それはフジノが探していたのですが、見つからなかったと言っていましたね。お色直しの時間くらいから、ふと気づいたら姿が見えなかったそうで」

「お色直し……」


 あの時間は、どちらかというと着替えの時間というよりは休憩時間と言った方が良かっただろう。それくらい、時間の余裕はあった。賓客で大広間の外に出た人物は、ほとんどいなかったと思うが。


「メリナさんは、見てない? 帰るまでに、マーカスさんの事」

「ええと、私は……前半が終わって帰るとき、ちょうど広間から出たマーカス様とお会いしたわ。「お先に失礼します」って挨拶だけしたけど、やっぱり無視されて、そのまま行ってしまわれたけど」

「その時、マーカスさんはどこへ行ったの?」

「さあ、そこまでは……。ただ、トイレの方へ向かっていたけど。それから、私は更衣室で着替えて、村へ戻るまで、マーカス様の事は見なかったわ」


 メリナはそう言いながら、俺の方をちらりと見る。俺も視線を合わせて、こくりと頷いた。


(……殺人の可能性は、秘密に)


 昨日メリナの家で推理を披露してから、彼女たちには口止めしておいたのだ。理由は、やはり学者や真犯人に、「自分が殺人と思っていること」を悟らせないため。

 真相がはっきりするまでは、このことは大っぴらにしない方がいいだろうと、そう思ったのだ。

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