事故現場の不審点

「殺されたって……どういうことだい!?」

「学者さんは、事故って言ってたんでしょ!?」

「そうなんですけど……現場を見たんですが、どうにも違和感があって」

「違和感?」


「――――――現場に、マーカスさんの遺体がなかったんですよ」


 爆発現場は木っ端みじんになった書斎。爆発のせいで、本などは燃えて炭化し、机などもバラバラになっていた。


「で、でも! マーカス様がパーティーでお召しになっていた衣装があったって……!」

「そう、衣装はありました。でも、衣装を着ていたマーカスさんは、どこにもいないんです」

「それは爆発で、木っ端みじんになってしまったからじゃないの……?」

「木っ端みじんになっていたなら、それなりの痕跡が残るはずですよ」


 少なくとも人体よりは薄っぺらい衣装が、燃え端として残っているというのに。人体らしき部分がこれっぽっちもないのは、いくら何でも不自然だ。


「血が飛び散っていたり、焼けた肉片があったり……ともかく、人間がバラバラになったとしても、そういったものは残る。ところがあの現場には、燃えたマーカスさんの衣装の痕跡しかなかった」


 ……まあ、それ以外にも何かの痕跡はあったけど。それについてはまだ調べていないので、今はまだ話すことじゃないだろう。


 ともかく、俺が今言いたいのは――――――。


「――――――まるでマーカスさんがそこで爆死したかのように見せかけるため、犯人によってカモフラージュされたとしか思えない」


「カモ……フラージュ……!?」

「じゃあ、マーカス様は爆死していない……? 生きてるってこと!?」

「……そこまではわかりません。ただこういう場合、やっぱり、マーカスさんは亡くなっている可能性が高いと思います」

「そんな、どうして……」

です。つまり、マーカスさんを別の方法で殺した犯人が、どこかに遺体を隠した後で、書斎で爆死したように思いこませたんだ」


 ……そして、犯人はおそらく……。


「爆死に見せかけた現場に遺体がなかったのも、おかしい。見せかけるなら、遺体を設置して一緒に爆破した方がより確実に、事故死を演出できるはずなのに」


 つまり、殺害はできたものの、より確実に爆死を演出することはできなかった。遺体を書斎に運ぶための、何かが足りなかったのだろう。それは時間か、はたまた労力か――――――。


「いずれにせよ事故現場に遺体の痕跡がないことが、この事件が事故じゃなく殺人だということを物語ってるんだ」


 俺の推理を一通り聞いていたメリナ一家は、顔を覆って天井を見上げた。


「……なんて、ことだ……!!」

「そう言われると、私たちは現場を見てないけど、そんな気がしてくるわね……!」

「でも、何で中庭でそれを言わなかったの? 学者さんたちが事故だって説明してたあの時に」

「あの場で殺人だって言ったら、犯人が警戒するし、殺人の証拠隠滅や事故の証拠捏造をされる可能性もあったからね。学者がいる手前、根拠も言わないと納得しないし」


 あの時――――――現場に来た時、学者一同が俺に意見を求めたのは、「自分の考えが間違っていない」という確信を得たいがためだ。求めていたのは真実というよりも、「賢者の里」のお墨付き。違うと言えば大恥をかくことになるし、敵に回すことになってしまう。それこそ捏造だってしかねない。知恵で食ってるのだから、死に物狂いで自分の意見を撤回はしない努力をするだろう。


「そ、そう……そこまで考えたの、あの一瞬で……?」

「いやはや、驚いたな! まだこんな子供なのに!」

「……これが、「賢者の里」の末裔……」


 驚くメリナたちに、リリーがドヤ顔で俺を抱っこする。

 だが、俺は全く別の事を考えていた。


(……そう、恐らく、殺人であることは間違いない。だとしたら気になるのは――――――)


 ――――――マーカスの遺体はどこにあるのか。

 ――――――マーカスの書斎は、どうやって爆発したのか。遺体がないなら、あの部屋には誰もいないはずなのに。


 そして何より。


 ――――――一体誰が、マーカスを殺したのだろうか。


 


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