第32話「外堀?ドコイッタンダロウネー」
幼児退行から復活した奏は4人を追い出し、荷解きを始める。
その筈だったのだが……
「これは…こっちね。あと、これがげーむ、という物かしら。なら、これはテレビの方……」
「男の子ってこういう本読むんだ……取り敢えず、漫画と小説は分けて…」
「机に入れる物も台所に置くものも片付いた。あとは奏の服………」
「やめい。」
一人黙々と作業しようと4人を追い出そうとしたが、何故か奏の方がベッドに押しやられ、あれやこれやと荷解きをされていく。
そもそも自分の荷物を他人に、それも女の子に全部やらせるなど言語道断だとベッドから降りようとしたが、柚子に抱きつかれて撃退されてしまった。
3人に目をやると「いいからそこにいろ。」と圧を掛けられた。悲しい。
結局身動き出来ない間に荷解きは終わってしまった。正確には衣類だけは断固として譲らなかったので、それが残ってるが別にそれはすぐ終わるのでいい。
そんな事よりも3人揃って「やってやったぞ。」とこちらを見てるのが怖くて仕方ないが。
「荷解きしていただき、大変ありがとうございます、御三方。それはそうと、何を要求なさるつもりでしょう……柚子もやって欲しい事言ってな?」
ここまでやってもらってる手前、奏はもう覚悟して叶えられる範囲の望みは叶えるつもりでいた。
いくら何でも、そうトンチキな願いは言わないだろうとタカを括っていたのだが……
「GWはデート。」
「デートよ。」
「奏とデート。」
「……デート。」
「………………。」
何でやねん。
◆◆◆
「――そもそも、俺はここから出られないし、こないだのアレだってあった。加えてもうGWになるんだから、そんな危ない事になるかもな状況は俺は反対する訳で………聞く気ねえな。」
座布団に座らせ、状況が状況だから反対する姿勢を見せたが、4人娘は聞く耳を持たないとばかりにおやつを摘みながらデートの日程を調整していた。
「奏、うるさい。」
「そもそも、ゆーちゃんは教師だから倫理的に一番アウトだろうが。」
「じゃあ先生辞める。」
「良い訳ねえだろ!俺が江崎の全校生徒に殺されるわ!!」
デート一回の為に結月が教師を辞めようものなら、間違いなく奏はこの世から消される自信がある。
「……そう言えば、どうしてゆーちゃん先生ってこんなに奏くんにベッタリなの?最初から?」
「……それが俺にもさっぱり。気になって聞こうとはしたんですが…」
「………奏のばか。」
「こう返ってくるばかりで。」
結月が奏にベッタリなのは初めて会った時からだった。意味が分からず聞いても、いつもこう返ってくるばかりで教えてくれないのだ。
お陰で結月のファン大勢に一年の時に狙われたりもした。全員撃退した事で誰も何も言えなくなったが。
再度結月を見ると、何か考え事をしてるようだが、何を考えてるかまでは分からないので首を傾げる。
「取り敢えず、デートの順番は智花ちゃん、静香ちゃん、柚子ちゃん、私の順で行く。」
「いや、だからゆーちゃんは先生だからアウトだって……」
「いいじゃない、どうせデートは聖皇の園の中だし。」
「へ?」
どうやって結月を止めようか考えていたら智花が結月の援護を始めたので、奏は情けない声を出した。
「だから、聖皇の園の中。知ってると思うけど、ここ大分広いのよ?私達だって、静香があんな目に遭ってるんだし、奏くんの事情も込みで、その辺は考えてるって。と、言うよりも…」
そこからは静香が繋ぐ。いやに悪そうな笑顔で。
「今日、ゆーちゃんが授業を受け持ったのは奏のクラスとあと2つ。どのクラスからも好評だったそうよ。そのゆーちゃんを泣かせたなんてなったら、奏はどうなるのでしょうね?」
「ぐっ………。」
皆から好かれる結月はここでも同じらしい。江崎の暗黙のルールとして結月を泣かせるのはご法度だが、たぶんここでもそうなるだろう。
珍しく頑固な結月をもしここで除け者にしようものなら……
起きうる未来を想像していると、いつの間にか横に来た柚子が膝をぺちぺちと叩いてる。
要するにこれより酷い未来が待ち受ける事になる。
「日程と時間、場所は好きにせい………。」
もう断る気力も体力も失せた奏は投げやり気味にそう返すしかなかった。
翌日、想像以上に恐ろしい事が起きるとは、この時の奏には予想することなど出来なかったのだが。
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