第30話「天才少女と理科室と太陽光」

「……………。」

「「「「………………。」」」」


奏は頬杖ついて、のんびりしていた。

しかし残りのみんな―何故か蘭もいる―は緊張した面持ちで構えていた。

理由はこれから始まる授業が科学だからだろう。


「ねえ、椿くん。」

「ん?どうした、遊佐さん。」

「今日はみか……ゆーちゃん先生の授業なんだよね?」

「そうだな。」

「なにか、コレはした方がいいとかあったりする?」


そう聞かれたものだから、奏はうーん…と唸った。

見ると全員、こちらを見て注意点を聞こうとしているのだ。

気を付けたほうが良いことって言われたら全てだからな……、まあ気をつけると言っていいのか分からないが……


「……ノートと教科書はしまう、とか?」

「えーと………授業するんだよね?」

「うん。」

「それなのに授業の道具しまうの?」

「うん。そもそも、ノート取れた試しがないし、何ならこのノートなんか一年の時に買ったやつだ。」


「えぇ……」と薫は困惑を隠すこともせず呻く。だが事実なのだ。


「ゆーちゃんのやる事を予測することなんて不可能だし、そんな事出来れば苦労は……、あ、一つだけあった。」

「な、なに?」

「やばくなったら何でもいいから机に隠れる。これだけは間違いなくいつも変わらなかった。」


「「「……………」」」


全員黙ってしまった。

……やはり俺は何か変な事を言っているのだろうか……。


◆◆◆


「それでは今日はこの疑似太陽光発射システムと屈折システムを使った的当てゲームをやります。」


結月は目の前に置かれた、何故か眩い粒子を撒き散らす装置を撫でながら授業の説明をする。

蘭は恐らく結月の近くが安全だと判断したんだろう。結月の隣にいた。

(…………普通はそうなんだけど、間違ってんだよな……。)


などと考えながら机の中央を眺める。そこには結月が用意した太陽の絵が置かれたシートがある。

要はこれをアレで狙うんだろうが……、何故か無性に嫌な予感がした。


「使い方はこう。」


結月が手元のボタンを押すと光を屈折させるらしい装置が複数展開された。

彼女の授業を知らない奏以外の全員は見たこともない装置と、それを動かす結月に「おー。」と感嘆の声を漏らしている。

懐かしい…自分達も昔はそうだったな……。と、遠い日の出来事を思い返した。


「光の発射はこう。」


そう言ってボタンを押すと、光の発射光と思しき部分から溢れている光が謎の駆動音を立てて収束を始める。


(初めて見る機械だけど、アレは大丈夫なのか……?)


「奏。」

「ん?」

「たぶんさっき、失礼な事を考えた。」

「…………。」

「覚悟。」


見ると何故か周りの生徒達は結月の側に行っていた。

何故かドクロマークの描かれたボタンをポチッと押すと、発射された光が……って考えてる暇は無い!


「危ねえ!?」


奏が飛び退くと六人がけの机の上に置かれた太陽の絵のシートと……奏目掛けてレーザーが飛んできた。

何となく発射コースを察して横に回避すると太陽のシートに着弾したあと、何故か爆発を起こし、レーザーはそのまま真横を通り過ぎ消失していった。


「何しやがる!」

「大丈夫、当たっても死なない。」

「え……本当だ。何も切断されてないし、太陽のシートも無事………、ってそうじゃなくて!そこ、笑うな!!」


願い通りの展開が見れたからか、あくまが満足そうに笑っていた。

母さん報告確定だな……。


「私の授業は普通。」

「どこの世界にレーザーカッターを生徒に飛ばす先生がい……る?!」


隣の机に逃げながら抗議すると、どうやって曲げてるのか分からないレーザーが今度は後ろから飛んでくるのでしゃがむと横薙ぎに太陽のシートを爆発させながら薙ぎ払われた。


「ゆーちゃん先生、次私良いですか!」

「うん。ボタンはこことここ。」


普通なら特別講師として来た母校の先生と、ここのクラスメイトが仲良くしているのは喜ぶ光景なのだろうが、的になってる身としては冗談ではない。


「仲良くしてるのは嬉しい事だが、ちゃんと的を狙え!」

「大丈夫、的に当たるように射角調整して狙ってる。」

「俺も狙うな!?」


避けた直後に曲がりだしたレーザーを後ろに飛び退きながら文句を言うが、最初は引き気味だった女子達も次は私もと言い出して、直線、湾曲、拡散したレーザーの全てを避けるために文句を言う暇すら無くなっていく。


「あれ……何で避けられるんだろ。」

「半分だけ人類辞めてるよね…」

「と言うより、完全に辞めてると思う。」

「失礼な事を言うな!!」


サッシも利用した乱反射レーザーを着弾予測地点を読みながら最小限に避けてどうにか文句を言う。


「……あと一発でエネルギー切れ。」

装置に繋いでるノートパソコンでエネルギー残量を確認し、結月は残念そうに呟く。相変わらず表情は読めないが、あれは明らかに残念がってる顔だ。


「じゃあ次、アタシやっていい?」


最後に名乗り出たのは奏がひたすらレーザーを避けている姿を泣きながら笑い飛ばしていた蘭だ。


「どうぞ。」

「ありがとう、操作は見てたし…こうで良いのかしら?」

「なんでこの人、学園長やれてるの?って、待て何だコレ……」


教室中央、天井に飛んだレーザーは拡散し、奏を狙う…のではなく、中央の机の太陽のシート目掛けてゆっくり収束していく。


まさか…と肌がざわつく。

この後の未来を察し、普段なら向こうのクラスの女子の役目を口にする。


「全員退避!机の後ろに伏せろ、早く!!」


奏が血相を変えて近くの机の後ろに隠れたのを察して全員が隠れるのと同時に全てのレーザーが同時に束ねられた瞬間……


聖皇女学院高等部の教室は、奏が何度も見てきた光景に染まるのだった。

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