第29話「出撃、ゆーちゃん!」
「さて、それではもう一つ、伝えなきゃいけない大事な話があるから、みんなちゃんと聞いてくれると嬉しいわ。」
蘭がもう一つ大事な話がある、と伝えると静まり返る。事前に聞いてはいたが、結局何かは教えてくれなかった方の話だ。
「本日からと、特別講師の方が週2日来ていただける事になりました……ふふ。みんな、しっかり仲良くしてね♪」
蘭は一度奏を見てから、何故か笑うのを堪えながら特別講師が来ることを全校生徒に話した。
(俺に教えなかったのは、皆も知らないのだから先に教える訳にはいかない、とかか?)
しかし、それなら何故こっちを見ながら笑うのか……。
「それではお入りください。三上結月先生!」
「は!?」
ステージ脇の待機室から階段を昇る音が聞こえ、奥から一人の女性が姿を現した。
里桜くらいの背丈、亜麻色の髪をミディアムの長さで切り揃えた眼鏡の女性、三上結月が。
「ゆーちゃん、なんで!?」
「私の授業見たいって、蘭学園長が。」
蘭は予想通りの反応だと言わんばかりにマイクを切って大笑いしていた。
「くくくく……ごめんねシンちゃん。こないだの話聞いてて、どうしてもその授業見たくなって司君とゆーちゃんにお願いしちゃった♪」
「……あの時か。」
「そー言う事。それでは三上先生、自己紹介をお願いします!」
「分かりました。でもその前に、奏。」
自己紹介を始める前に、と結月は幼さの残る声で奏に呼びかける。
「ん?」と首を傾げると、結月は奏の前に立ち、片手を奏の顔の前に持っていき………思いきりチョップした。
「痛え!!」
「奏、こっちで何か失礼な事考えたでしょ?」
「何で!」
「変な授業とか、おかしいとか。」
「………………………。」
「私は激怒した。」
うん、言った。たしかにこないだ、そんな事を言った。だが何故そんな事を知ってるのか、と聞いたら「気配。」と返された。
………気配じゃしょうがないなぁ。
チョップでは飽き足らず、ジト目で頬も引っ張ってきて為すがままだったのだが、急にそれを止めて真面目な顔で見つめてきた。
「奏。」
「………何だ。」
「私がいない授業は……どう?」
「………ああ。何と言うか、新鮮だったよ。爆発しないし、先生は武器も持ってないし。」
「むぅ。」
「でもさ。」
「?」
結月がコテン、と首を傾げるので奏はおかしくなった。
「いや……たとえ教室が吹き飛ぼうと、武器持って暴れてようと、全然ノート取らせる気配無かろうと、やっぱ……ゆーちゃんの授業が一番だなぁ、と。」
「………そう。」
「そうとも。」
「奏。」
「ん?」
「ニュース見た。」
「ああ……」と声をあげてしまった。
表情に出さないし、なんか武器で生徒を毎回ぶっ飛ばす人だが、誰にも負けないくらい皆が大好きな人なのだ。
何かを言う前に、結月に頭を捕まえられて胸に押し付けられてしまった。
女子の黄色い声が体育館に響いてるが、結月は構うことなく抱きしめる力を強める。
「心配した。」
「ごめんなさい。でもあんな奴らに負けないし。」
「そういう事じゃない。」
「……そうだよな、ごめん。」
「あんまり危険なことしないで。」
「ゆーちゃんが泣いても嫌だから、約束する。」
「ん。」と、満足した様な、あんまり見せない笑顔で頷いて離してくれた。
変な授業云々も怒ってるだろうけど、きっと危ない事をしたから激怒したんだな、というのは奏にも分かった。
「………んー。お二人さん。二人の世界に入ってるところ、大変申し訳無いのだけれど、そろそろ自己紹介をしてくれるかしら。」
「あ、忘れてた。」
「……忘れるなよ。」
蘭が顔を赤らめてやんわり注意して、状況に気付いた奏は一度下がる。よくよく考えれば、恋人っぽいやり取りだよな、と急に恥ずかしくなって、そっぽを向くことした。先生達にあらあら、と見られてるが、気付かない振りをしておこう。
「特別講師として江崎高校から招かれた三上結月と申します。向こうでは『ゆーちゃん』、『ゆーちゃん先生』と呼ばれているので、好きに呼んでください。担当科目は科学です。それと………」
結月が一度こちらをチラリと見てきたので「ん?」と首を傾げる。
「奏は私のものです。」
「おいコラ!!何て事言いやがる!!!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます