第二章「さようなら、俺の陽だまり」
第28話「嵐の山荘だろうか…」
「――――その勇敢な行動に対し敬意を表しここに 記念品を贈り表彰いたします」
月曜日の朝の全校生徒、奏は蘭から感謝状が送られた。
昨日、蘭から聞かされた話は自分が思ってた以上の事だったらしい。
まず、静香にナンパを仕掛けてきた連中は、最近あの辺を拠点に若い女性に声を掛け、断られては無理矢理にでも相手を連れて行こうとする質の悪い集団だったこと。
また、警察が動く頃には既に逃げた後であり、決定的な証拠が無く、動けなかったらしいが、今回の件が決定打となり逮捕に漕ぎ着ける事が出来たという。
どうも圭一もあの集団の事は知っていたらしく、奏が圭一に渡した動画はSNSに上げただけではなく、知り合いの警察にも渡していたそうだ。
後日、警察からも感謝状が届くらしいが、別に欲しい訳ではないから、複雑な気分だった。
実際、ちょっとだけ本気の殺気を飛ばして、腕を折るフリをしただけであのザマだったし。
奏としては、むしろ今この状況の方が問題だった。
「騎士様……、何と勇敢な方でしょう。」
「危険を顧みず六条様を助けるなんて……」
「流石は私達の自慢の弟ね……」
「お兄様………」
奏は今、ステージで蘭や何人かの教師陣と一緒にいた。先生からは静香を助けた事で握手をしつつお礼を言われたりと、まだ構わないのだが、今回の件で奏の生活はいくつか変わってしまうことになった。
まず、静香を助けた経緯から「騎士」と呼ばれるようになったこと。ハッキリ言って本気で恥ずかしいから止めてくれと思った。
続いて、これは自分が特例で許してもらっていただけである意味、仕方なかったのだが、上級生からは「弟」、下級生からは「兄」という呼ばれ方が出来てしまった。
「弟」呼びは……まあ、多いとは言え、上級生は三年生だけなので、たぶん何とか我慢出来るだろう。
問題は下級生である。
たしかに下級生も一学年下だけではあるが、それは高等部だけで見ればであり、中等部から下まで数えたらエラい事になる。
今回の件は中等部から下の子達への知名度まで上げてしまい、現にわざわざ高等部まで来て兄と呼ぶ子が出てきてしまったのだ。
(家に帰りてえ………)
「帰りたいオーラ丸出しなのが丸分かりよ、シンちゃん?」
蘭がからかうように唐突に言ってきたがスルーする。
そもそも、その願いももう叶えられないのだ。
変わってしまった3つ目の願い、これが一番の問題である。
「これからは、シンちゃんには予め宛てがっている寮の部屋で生活してもらいます。」
昨日、帰る前に蘭に言われた言葉だ。
今日は何とか登校してきたが、どうにもメディアが今回の件を取材しようと動いているらしい。
昨日の帰りも商店街辺りで声を掛けられたので、途中で撒いて帰ったし、今日も登校する時はルートを変えるだけでなく、ここで使ってる歩法ではなく、昨日の騒ぎの時に使った歩法で撒いてきたくらいだ。
まあ何かあっても、我が家と江崎高校に手を出す馬鹿なメディアはいないからそこは気にしていない。
しかし、問題は聖皇の方だ。
一応、このテスト生制度は学校間、教育委員会などしっかりと話を通した正式な物である為、問題はないが邪推される可能性もある。
念には念を入れ、という形で奏はテスト生期間中、寮での生活が確定した。今日の夕方にも、奏が両親にお願いした荷物が送られてくる事になっている。
ステージから改めて周りを見渡し、探してる顔と目が合った。
「………………(むすー)。」
智花は露骨に不機嫌ですオーラが溢れている。
ある意味、彼女との姉弟関係は唯一の物で無くなったからだろうか。
(俺のせいじゃねえのに……)
続いて、大きく移動して2年生。
遊佐は苦笑いした顔で
(大変だったね……?)という視線を投げかけてくれた。優しい。
今度は一年生。柚子が不安そうな顔でこちらを見てきている。
たぶん、智花と似たような理由だろう。
(柚子が一番可愛い妹なんだけどな……)
「大丈夫だよ。」と届いてるか分からないが柚子を安心させる様に穏やかに微笑んでみせた。
ちゃんと届いたらしい。笑顔で頷いている。
何人か下級生の子が引っ掛かったのはアレだが。
最後、もう一度3年生。
今回の渦中の一人、静香は………
「大丈夫よ。」と言ってるかのように笑っていた。
まあ……何とかなる……いや、するしかないか。
あと3ヶ月、どれだけ大変なのか考えながら、奏は大きく肩を落とした。
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