第27話「内通者はここに。」
今、聞き逃してはならない何かを聞いた気がする……。
怪訝な顔をして蘭を見ると、どうにも失言だと気づいたらしい。ヤバ、と片手で口を覆っていた。
「ちょっと待て………、何で学園長が圭一を知ってる?」
「あ、あー……。いや、テスト生に関する打ち合わせをしに行く時に、たまたま会って………?」
「……………。」
冷や汗をダラダラ流しながら身体ごとこちらを視線を逸らす蘭。
彼女は何故、奏から目を逸らす?
理由は一つ。知られたくない何かがあるから。
圭一と繋がりがある事か?否、別にそれくらいなら……良くはないが、圭一ならば学園長と知り合いでも不思議ではないし、問題はない。
そうなると、圭一と付き合いがあって、尚且つ直近で奏に知られたくない話とは…………
「……………。」
あるな。
「………奏?」
静香が心配そうに声を掛けながら、一度手を離して距離を取る。
「学園長。」
「…………は、はい。」
蘭は引き攣った笑顔と怯えた声で返事をした。
ギギギ、と錆びた玩具の様な音を出しそうな動きで奏を見る。
蘭が怯える理由は一つ。
それは学生時代、蘭も経験した事のある感覚だからだ。
相手を安心させる穏やかな声、それでいて決して心休まらない雰囲気。
友人である綾乃、恐ろしい綾乃。
同じものを、こちらを穏やかな笑顔で、なおかつまったく笑ってない目で見てくる少年に感じる。
彼は間違いなく、綾乃の息子だ。
「この間の食事会の写真、見せてもらえますか?」
逃げられないと悟って、蘭は口にする。
「ご、ごめんなさい…………。」
「貴様の仕業かっ!!!!!」
奏の雷が学園長室に炸裂した。
◆◆◆
「まったく、圭一め。こないだ絞めたのに、まだ懲りないか……!」
「あ、あのねシンちゃん?」
「ん"?」
「ひぃ?!」
「奏、その辺にしておきなさい。」
まさかの内通者が蘭だった事に不機嫌さを隠せなかったが、奏を嗜めるように頭を撫でられるので、抑えることにした。
一度離したのにまた手を繋ぎ直されているが。
「あ、あのねシンちゃん。圭一ちゃんの情報だけじゃないのよ、私が集めた情報って。」
「………圭一だけじゃない?」
「その様子だとまだ知らないのね…。シンちゃん、Ωはスマホに入ってる?あるなら、トレンドを見れば分かると思うわ。」
「まあ、入ってますけど、なに………が……」
言われるまま見て、スマホを落としかけたが、何とか落とさないように握り直した。
何事かと静香が画面を見て、顔を赤らめて固まった。
トレンドには「姫の騎士」などと、とんでもない単語があった。
ゲーム絡みのトレンドであってほしいと願ってタップして見るが、残念ながらそんな事は無かった。
あの時囲んでいたギャラリーの誰かが、恐らく奏と同じ目的で撮ったのだろう。
これから殴りかかろうとする男を一方的に鎮圧させている自分の姿があった。
圭一に送った動画は圭一によって奏と静香の2人の顔は隠れるよう加工されていたが、こちらはそうではない。
完全に顔が映っていたのだ。
それだけでは無かった。別の動画には、奏が男達がナンパしてる現場を予め抑えてから動いてる動画まで挙がっている。
概ね好意的な意見が乱立している。
あとはやたら静香が可愛いという投稿も上がっていた。
取り敢えず止めてやれ、静香が見たことない泣きそうな笑顔で顔が真っ赤になってるから。
もう見たくないのでΩを切る。というか、いつの間にかメッセージがエラいことなってるが、今はもう見る気力も起きない。
「と、見た通りになってるのと……、明日、シンちゃんがちょっと忙しくなります。」
「……………何故?」
「まあ、その件が騒がれてるのは他に理由もあるからなんだけど。取り敢えず、明日の全校集会はシンちゃんがメインの話になります。あと、ちょっとしたゲストも、ね?」
この日を境に、奏の日常が思わぬ方向に進むことを、この時の彼は知る由も無かったのだった。
―――――――――――――――――――――
第一章 完
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