第3話 DAY3 二人の時間
4月24日。ここからは一緒にいたときのことを思い出してみよう。
唐突に告白してしまったが、トモは受け入れてくれて、交際が始まった。
と、言ってもお互い受験生。部活が終われば直ぐに学習塾、というパターンも多く、
特にトモは地元でもスパルタで有名な塾に通っていて、いつも塾長の文句を言っていた。僕も3年生になるときに、受験に向けてスイミングをやめて別の学習塾に行きだした。さんざん悩んだけど、そもそも学区内の高校で水泳部があるところが少なく、あっても学力的に折り合わないからだ。
後輩や同級生が入部して、常時15人前後練習するようになり、結構忙しくなった。同級生の女子が4人、男子は5人になって、部活の形ができたのは、トモが声をかけてくれたのが大きい。
だから、なかなか二人の時間というのは限られてた。
学校からの帰り道は、途中までは同じ道だけど、僕の方が先に家へ着く。
そのうち、余裕があるときはちょっと先のトモの家の近くまで送るようになった。
同級生でトモの家の近くの「男子」がいたので、ちょっとばかりの警戒?を兼ねて。
そんなある日の帰り道。
あの日は少しばかり雨が降っていて、カサを持たずに歩いてた僕たちは、道の横にあるビニール製のガレージの中に(勝手に)入って雨宿りをしていた。
トモも僕もずぶ濡れ、というわけではないけど、結構濡れてしまった。
「大丈夫?」
「うん」
雨は強く降っているわけではないけど、止む気配はない。どうしようかなあ。
「ねえ、どうして私だったの?」
「んー、始まりは・・・・」
そんな話をしていて、一瞬会話が途切れてしまった。
トモを見る。濡れた前髪を気にしている姿がかわいいと思った。
健全?な男子中学生の僕は・・・・
経験もなかったせいか、抱きしめも肩ももたずに、不意に顔を近づける。
でも、余裕がなかったせいか、狙い?がそれて唇のほんのちょっと横側に、軽く。
「・・・!」
トモはびっくりして、うつむいて。真っ赤な顔で上目遣いにこちらを見て、
「帰るね」と言って、小雨のなか帰っていった。
次の日。
水泳部の練習の後、相変わらずポンプ室にこもって作業していたら、トモが来た。
「・・・・あれ、ファーストキスじゃないよね?」
「ごめん」
「いいよ」
今度は、二人の顔が近づいて、そして。
「「・・・・・・・・」」
「/////・・・出ようか?」
「/////・・・・うん」
ファーストキスは、プールの消毒薬の匂いと、トモが使ってるシャンプーの匂い。
小学校のころから体力づくり、ということで朝にランニングをしていたけど、
日曜日のランニングのコースが変わって、トモの家の近くの林道まで行くようになった。時間を合わせて、トモが家から出てくる。少しだけ持てるトモとの時間。
市総体が9月にあるので、3年生最後の夏休みは部活と受験の両輪で忙しい。けど、僕にとってはこの上なく、幸せな時間を過ごしていたと思う。
夏休みの間は、水泳部の他のヤツをくっつけようぜ! って色々画策したり、「DRAGON BALL」1巻の巻末にコメントが載ったのが自慢のカオル(多分、今でも自慢してそう)の「オボレフライ」をなおしたり、犬かき選手権を開催(やたら速いヤツがいた)したりで、前の年と違って楽しかった。
・・・ただ、あれだけ頑張ったのに、卒業アルバムの水泳部の写真には、トモが載っていない。用事があって撮影日に来られなかったんだけど、なんとそのまま撮られてしまった。今なら考えられない事で、当然トモも
「せっかく今まで頑張ったのに~!!!」
って悔しがっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます