第2話 プリンペン

 「記憶を取り戻すって言ったはいいけど、どうやったら取り戻せるの?」


 僕は森の中で木の実を探して辺りを這いつくばっていた。この前はジョシュが持っていた不思議な食料のおかげで命が救われたけれど、あれは最後の一個だと言っていた。これからは自分たちで食料を見つけないといけない。


 「そんなことワガハイに聞くニャよ。わかってたらとっくに取り戻せてるニャ」


 それもそうか。ジョシュが言っていたことが本当にせよ嘘にせよ、僕を放っておいて一人? いや一匹で記憶探しの旅に出れるはずだ。なのになぜ――


 「イタッ!」


 鋭い草に指を切られたみたいだ。


 「大丈夫か!?」


 他の場所を探していたジョシュがすぐに駆けつけてきた。僕はそのことが嬉しくて思わずニヤけてしまう。


 「大丈夫だよ。そんなに大きな傷じゃないし」


 「変な毒にでもかかってたら大変だ、今日はこのあたりで休もう」


 ジョシュの言う通り、僕たちは野営することにした。


 火をつける道具も持っていない僕たちは、ただただ、その辺りの草場に倒れこみ夜空を見ていた。光という光がないこの森から見る夜空は輝いて見えた。


 「ジョシュはさ、なんで何者かって知りたいと思ったの?」


 森の静寂に言葉は響く。


 「ワガハイは、ハカセのようにワガハイに目を覚まされたわけではなく、ただ一人、この森で目覚めた。昔の記憶もなく、姿かたちがこの有様だ。正直不安だった。猫のような姿をして、機械の様で機械ではない、ワタシはいったいなんなのだと」


 森の中に風が流れた。僕が慰めや何か他の言葉を言うのを止めるかのようだった。


 「でも、考えるのがアホらしくなった。そもそも情報が少なすぎる。知らんなら知っていけばいい。そう思ったときハカセと出会ったんだ」


 「だからハカセ、一緒に記憶を探してほしい。ともに何者であるかを見つけてほしい」


 いつのまにか近くの上に座るジョシュは猫でも、機械でもなく、とても美しい存在に見えたんだ。



 そのとき、近くで何かを貪る音が聞こえた。僕とジョシュは目を合わせ互いに音を立てないよう、静かにその音に近づく。


 その何かは、一心不乱に目の前のものを貪り食べていた。


 その異様な光景に僕たちは微動だにせずにいた。


 近くにいた鳥が飛び去ったといるやいなや、その何かは猛烈な勢いでその場を後にした。


 いなくなったその場を確認すると、プリンターのインクが見るも無残に壊れ辺りに飛び散っていた。

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