第17話 さらばリリボア
俺は部屋に戻り、バトラーに明日のマダム・ノワールのアポを念押しして下がらせた。
タンに連絡し、違う車で迎えに来てもらうことにする。
あと、念のため例の件をやっておいてもらう。
今日の結果をタンに教えてやったら、「レイさん、やりすぎよ。」と言われた。
まあなあ。 俺を怒らせた報いさ。
あとはヴェルにショートメッセージを送り、シャワーを浴びて寝た。
翌朝、またプールで泳く。今日はロバートは来なかった。忙しい男だし、当然、もう香港に戻っているはずだ。
そのあと部屋に戻り、バトラーに朝食を頼んだ。
シンプルなベーコンとイージーオーバー、トーストとオレンジジュースだ。
軽く食べてみたが、毒は入っていないようだ。
一応念のため、部屋の冷蔵庫に入っている水を飲むだけにした。朝食は結局テーブルの上にそのままだ。
俺は荷物のパッキングを済ませ、テレビのニュースを見ながらマダム・ノワールを待つ。
時間通りに彼女が支配人を連れてやってきた。
恰幅のいい彼女も、今日は顔色が悪い。目の下のクマも隠しきれていない。
「ミスターハリタ、昨夜はご活躍でしたね。」彼女は力なく言う。
無理やり作った笑顔であることがわかる。
「ああ、マダム。やはりチェックアウトするよ。これをすべて換金してくれ。」
俺はそう言って巾着袋の中のゴールドブラックのチップ、それからこのホテルのカードを渡す。
チップjは、元からあったものを含め、57枚あった。5億7000万パタカ。
ホテルから114億円が流出することになる。
マダム・ノワールが俺におずおずと聞いてきた。
「一部を残していただくことはできませんか?」
俺は答える。
「いや、全部出してもらおう。誰かが、俺に対して良くないことをしたからな。俺は怒っているんだ。」
俺は皮肉を込めて言う。
「一応、ここから先は録画させてもらう。渡していないとか言われても困るしな。まあ、まさかマダム。ノワールがごまかすことはないと思うが、念のためだ。」
俺はそう言って、スマホでチップの山とマダム・ノワールを映す。
俺は続ける。
「ここにゴールドブラックが57枚ある。5億7000万パタカだ。
あと、カードに3723万パタカ入っている。
一応確認してくれ。」
俺はそういう。支配人がチップを数え、あとは手元のポータブル機器でカードをスキャンした。
金額は正しかった。
「じゃあ、小切手を作ってきてくれ。もちろんキャッシャーズ・チェックでな。マダム、いいよな?」
入れがマダムに念を押す。
マダムは力なくうなずいて、支配人の男に広東語で命令する。
男は一礼して下がった。
俺はスマホをしまう。
俺はマダムに言う。
「マダム、俺はいままでリリボアとはいい付き合いをしてもらっているつもりだったよ。 ここに呼んでくれたわけだしな。
まさか、あんなことをされるとは思わなかった。」
俺は地元のマフィアに脅されたことをさしていった。
「本当にごめんなさい。私の知らないところでやられたことよ。」
「そうかもしれないしそうでないかもしれない。いずれにしても、息子さんのトーマスとはあまりいい関係を作れそうにないよ。」
マダム。ノワールは黙っている。
「もし彼が後継になるとしたら、俺も考えないといけない。 だからとりあえず金を引き上げさせてもらう。」
リリボアに限らず、俺は一部のカジノに金を預けている。このほうが楽だし、クレジットラインも追加で貰えるからだ。まあクレジットラインを使うということは、預けた以上に負けるということなので、使うことはあまり考えたくないのだが。
「彼には継がせないから、だから少しでも残してもらえませんか?」
「今は無理だな。俺は許されたルールの中でしか動いていない。彼はそれを破っているんだ。さすがにあんたの口約束だけでは無理だね。」
俺は当然のことを言う。彼女は言う。
「お願い、私たちが何十年もかけてやっと積み上げたものなの。」
俺は同じことを言う。
「俺は許されたルールでしかやっていない。金をおろすのも、許されたルールだ。」
マダムもそれはわかっているのだろう。抵抗はしない。
支配人がキャッシャ―ズ・チェックを持ってきた。俺は金額を確認するす。
そして、それを胸ポケットに入れる。
「では、チェックアウトだ。」
滞在費は、当初の約束で向こう持ちになっている。まあそうは言うっても二泊だし、 高々数百万円くらいだろう。誤差の範囲だ。
ボーイが支配人の指示で2つのスーツケースを運んできた。
俺は車寄せに行く。 タンが待っていた。
今日の車は黒のレクサスだ。マイバッハよりは一回り小さい。
ボーイが車のリトランクにスーツケースを入れる。
俺はレクサスの後部座席に乗り込むと、マダム。ノワールと支配人に手を振った。
よく見ると、ロビーにトーマスもいた。できれば見ないで済ませたかったが、まあ想定の範囲内だ。むしろいることがわかっていいかもしれない。トーマスは俺たちに気づくと、そっぽを向いて電話を掛け始めた。
「タン。予定通りだ。」
タンはうなういて、先に電話を掛け、何か広東語で二言三言話をする。
「これでいいよ。じゃあ、出るね。」
車はホテルを出た。今度のホテルはタイパの南側なので、旧市街から南へ下がり、山道へ向かうことになる。
「尾けられてるね。」タンが言う。
「まあいいさ。山道へ行ってくれ。」俺は答える。
車は、最短ルートである山道へ向かうため左折した。後ろから黒い車が ついてくるのが見えた。
「ちょっとスピード上げてくれるか?」俺はタンに言う。
タンは黙ってスピードを上げる。遠くにあった後ろの車がどんどん近づいてくる。
タンはそれを引き離す。なぜか、対向車がやってこない。向こうもスピードを上げる。
レクサスの後ろのガラスに鈍い音がした。
「発砲されたね。」タンが言う。
「この車は防弾ガラスだから、あれくらいじゃ何も起きないけど、いきなりこれはないね。」
「警告かな。」俺は答える。
何にしても物騒な話だ。
突然、タンがスピードを落とした。
前を見ると、バリケードが出来ている。
「やっぱり、先回りされたね。」
対向車が来ないのはそのせいか。
タンはバリケードの前でレクサスを止める。
エンジンを回し、ドアロックも掛けたままだ。
後ろの車が追いつき、中から黒服で屈強そうな男たちが出てきた。
一人はピストルを持っている。」
男たちの中に、先日の男、劉がいた。
やはり、こいつらはマカオの地元のマフィアだ。
どうせ、先日と同じように、トーマスが差し向けたんだろう。
劉は俺の側の窓ガラスをノックした。
俺はどうするかちょっとためらったが、結局少しだけウィンドウグラスを下げる。
「やあ、また会いましたね。先日はどうもありがとう。」
「どういたしまして。手荒なことはしないんじゃなかったのかい?」
俺は一応言ってみる。
「それはあなた次第だ。とりあえず車から出てきてもらえますか。」
丁寧だが、有無を言わせぬ感じだ。
俺はちょっと躊躇した。タンと目を合わせる。
タンが黙ってうなずく。
まあ、こうしていても仕方ない。窓に銃口が突っ込まれた。窓を閉じることもできない。
俺は答える。
「わかったよ。」
俺は、ゆっくりとドアのロックを開け、車の外に出る。
俺に銃口が向けられている。
俺は、おとなしく両手を挙げた。
==
せっかくリリボアから金をおろしたのに、会いたくない相手と再会です。
通常のカジノなら、現金がこれだけ引き出されたらそのまま運転資金不足で大変なことになるでしょう。まあリリボアなら何とでもなるでしょうけど、だから安泰ということではありませんね。
「面白い」
「続きが気になる」
「マカオ行きたい」
「カジノ当てたい」
「金がない」
「反応ないと作者がかわいそうだから」
「愛田さん、抱いて!」(女性のみ。人妻、合法ロり可(笑))
など少しでも感じられたかたは、★、コメント、ハート、レビューなどくださ
レイ「黒服って暑くないか?」
劉「暑くて蒸れる。それこそイン…」
ヴェル「やめて」
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