第11話 パーティと暗号



パーティーは、ホテル・リリボアのグランドボールルームで開催される。

基本的に立食だが、一部来賓は席がある。


おそらく,取り巻きを含む政府関係の連中の分だ。


あとは端に席があり、座れるようになっているくらいだ。


時間通りにパーティんが始まる。


まずはスタン・チャオのビデオが映される。政府に気を使っているのか、普通語(北京語)で語られ、中国語と英語の字幕がついている。


中国語の字幕があるのは、普通語が聞き取れない広東語ネイティブ用だ。漢字表記はそれほど変わらないので、意味が通じる。 ただし簡体字なので、知らないと読めない。


まあいまのマカオ、香港、台湾、広東などの人間で簡体字がわからないやつはほとんどいないだろう。簡体字がわからないと本土で商売ができないからだ。

まあ、広東語の繁体字の字幕にしていないのは、多生の政治的配慮かもしれない。


ちなみにポルトガル語はない。植民地時代は遠い昔だ。


ビデオの後は、第一夫人の娘である、黒ずくめの女性、通称マダムワールことキャリー、チャオがスピーチをする。それからマカオの行政府のトップと中央政府の人間がそれぞれ挨拶し、後は乾杯と余興になる


乾杯は、第一夫人の息子が行った。

チャオの功績と、マカオ、そして中華人民共和国の今後の発展を祝して乾杯との事だった。


よくもまぁ心にもないことを言えたものだ。カジノのオーナーなんて、中央政府にもマカオ行政府にも目をつけられて、金を絞り取られる存在でしかない。まぁ、儲けている事は確かなので、そこは持ちつ持たれつと言うところでもあるのだが。いまのところ公認の賭場はマカオにしかないのだから。


乾杯が終わると歓談タイムだ。マダム・ノワールのところには、多くの人たちが行列を作っていた。俺はその行列を避け、ワインを1杯もらう。


「あら、ここにいたのね。」

聞き慣れた声がする。真っ赤なチャイナドレス赤い靴、赤い口紅。赤いマニキュア。赤い宝石の付いた指輪もしている漆黒の髪の女性。マドモアゼル・ルージュことヴェルだ。


ヴェルもスタン・チャオの孫なので、当然このパーティーには来ている。ただし、主催者と言うよりは、関係者と言う感じの扱いのようだ。


「あぁ。大盛況だね。」

「そうね。とりあえず、こういう時は、チャオ一族が健在であると言うところをちゃんと見せないと、行政府や中央政府に付け込まれるからね。」


「資産家一族もなかなか大変だな。」俺は言う


「そんなのは、香港の人たちだって同じよ。」


「それはそうだな。」


俺も同意する。香港の金持ち連中も、最近はかなり締め付けが厳しくなっていて、いろいろ大変らしい。もちろん、「上に政策あれば下に対策あり」ということで、資産を海外に移したりとかいろいろやっているようだが。


「おや、レイじゃないか。君も来てたのか。」

声をかけられた。見ると、香港の大富豪の息子、ロバートリーだ。


「やあロバート。最近どうだい?」


「うん。メインランドの方で、不動産が暴落していて、結構大変だよ。ただ、こういう時はチャンスでもあるから、うまく金を引っ張って、安いのを買おうとしてるけどね。」


さすがは中国人。いや、香港人と呼ばないと、彼は怒るが。商機は逃さないな。

一級都市のビルを10億元で買い、20億元で売れば10億元、200億円の儲けになる。


「そちらのお嬢さんはもしかして…?」

「お久しぶりです。ヴェロニカ・チャオです。一昨年の小規模パーティーでお会いしております。」



「あぁそうでしたね。まだ感染明けの直後でしたね。今はもうこんなに大盛況で。」


ロバートは俺を向く。


「レイ、こんな美女とお話ししてるなんて、君も隅におけないな。」ロバートがウィンクする。


「レイさんには、ここ二日間、私のほうのホテルに泊まっていただいたんです。ただ、ずいぶん稼がれてしまいましたけど。」ヴェルがちょっと悔しそうに言う。


「おいおい、レイよ。どうせむしり取るなら、こんなお嬢さんからじゃなくて、あの黒いおばさんから取れよ。」


ロバートが笑いながら言


「まぁ勝負は時の運だしな。」 俺ははぐらかす。ヴェルもそれ以上は何も言わな


そうこうしているうちに、マダム・ノワールの周りの人数が減ってきた。ロバートと俺はヴェルを連れて彼女の所へ行く。ロバートを見て、マダム・ノワールは、満面の笑みを浮かべる。


それはそうだ。香港の大富豪の息子で、このカジノにも貢献しているし、場合によっては、彼女がカジノを新しく建てる際のスポンサーになってくれるかもしれない。大事な客だからな。


「今日はお招きありがとう。大盛況で素晴らしいね。」ロバートは笑顔で答える。


「マダム・ノワール、予想通り素晴らしいパーティーですね。」


俺も横から口を出す。

まぁ、ロバートと比べると、俺はしがない勝負師でしかない。もちろん、資産はシンガポールにそれなりにあるが、それでも、ロバートの一族の資産と比べれば、ミジンコのようなものだ。


「レイさんもご滞在ありがとうございます。あの子のところよりは、快適にお過ごしいただけると思いますよ。」


マダム;ノワールは、ヴェルを横目で見ながら言う。


俺は無言で笑顔を浮かべる。


「ご紹介しておきますわ。先ほど乾杯のスピーチをしました、私の長男の、トーマス・チャオです。」


先ほど挨拶をした、タキシード姿の男性が慇懃に礼をする。


「お久しぶりです。お会いできて光栄です。ミスター・リー」


トーマスはロバートに向かって言う


「ロバートでいいよ。これからいろいろ接点ができると思うけど、よろしく頼むね。」

ロバートは鷹揚に答える。



トーマスは俺には見向きもしない。ギャンブラー風情など、ゴミのようなものだと思っているのだろう。まぁ、そういう輩は世の中に多いので、あまり気にしても仕方がない。


「私もご挨拶させてください。」 

女性の、よく通る声が聞こえた。見ると、まだ二十歳位の若い女性が立っていた。青い色のドレスに宝石をつけている。肩までも無い短い黒髪で、目が細くて化粧は濃いが、痩せていて、全体に地味な感じだ。まだ垢抜けない印象がある。


マダム・ノワールが紹介してくれる。

「娘のスーザン・チャオよ。

「はじめまして。よろしくお願いします。」

スーザンという娘は頭を下げる。


ロバートが笑顔で握手する。


その後、スーザンは、俺の方にも来て、頭を下げた。

「今回はいらしていただいてありがとうございます、ミスター・ハリタ。これからもリリボアをよろしくお願いいたします。」


兄よりもよっぽど礼儀正しい。まぁ、美貌ではヴェルには全く敵わないので、その分丁寧な対応で何とかしようとしている感じかな。もちろん一族といっても第一夫人と第三夫人では家柄が違うので、直接会う事は少ないのかもしれないが。


ただ、同世代に近いので、意識している事は確かだ


ヴェルが知らん顔をしている。


「これから余興が始まるので、皆さんごゆっくり。」マダム・ノワールはそういうと、2人を連れて奥に引っ込んでいった。ヴェルもどこかへ消えた。


その後は、有名な香港の歌手による歌が3曲ぐらいあり、それから雑技団の曲芸などがあった。


そして、その後マダム・ノワールが壇上に上がる。


「皆様、今日は特別に、我が父、スタン・チャオの残した謎のメッセージを共有させていただきます。


我が一族でも、まだ読み解いたものはおりません。ご興味あれば、解読にご協力ください。」


謎のメッセージか。なかなか面白い趣向だ。もしかしたら、隠し財産かもしれないな、などと俺が思う位だから、金にうるさい他の連中もみんなそう思っているだろう。


スクリーンに、画像が写し出される。




May fortune befall the wise!

(賢き者へ幸運が降るように!)

5,0710(2+19+20)(2+3+20)

7.2205(00+12+27)(28+18+7)


「こんな書付が残されておりました。」


なるほど。Fortuneか。幸運、あるいは富がどこかにあるのかもな。

俺はスクリーンをスマホで撮影した。多くの参加者がそうしている。


==

お読みいただき、、ありがとうございます。


何と暗号です。

まあそこはあまりお気になさらずにパーティの雰囲気を楽しんでいただければと思います。





「面白い」

「続きが気になる」

「マカオ行きたい」

「カジノ当てたい」

「金がない」

「反応ないと作者がかわいそうだから」

「愛田さんに貢ぎたい!

「暗号解けた!」

など少しでも感じられたかたは、★、コメント、ハート、レビューなどくださいあ。














ヴェル「あれ本当に暗号なの?」

レイ「一応そうみたいだけどね。」


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