第10話 リリボアとマダム。ノワール
翌朝俺が目覚めたときには、もうリタは居なかった。
まだ時間は8時だ。
ゴールドブラックでなくてもお小遣いを上げるつもりだったが、それもコールガールのようで、彼女は嫌がったかもしれないな。
俺は、ギャンブラーのコンシェルジュことジャンケットのタンに連絡する。
「今日は1時に来てくれ。 あと、リリボアで昼食に付き合ってくれ。小籠包の店があったと思うから。」
「了解ね。あの店は、COVIDでも生き残ったからまだあるよ。予約しておくね。」
「よろしく。」
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話が速くて助かる。 ちなみに、レストラン予約などはタンのようなジャンケットにとっては得意なジャンルだ。
カジノのお得意さんだから、予約をねじこめる。というかねじ込むのがジャンケットの腕の見せ所なのだ。
俺はバトラーを呼び、食事を9時にしてもらうことと、チェックアウトを延長し、1時にすることを伝えた。
特に次の客がいるわけでもないようで、延長チェックアウトは問題なく受け入れられた。
シャワーを浴び、朝食を食べる。
その後はジムで筋トレとウェイトリフティングとランニングを行う。
やはり体力は重要だ。
ギャンブルのためにも、夜のお楽しみのためにも日頃から鍛える意味がある。
12時半頃、支配人のマオがやってきてチェックアウト手続きをする。
まあ、宿泊費、食費を含め全部オン・ハウス(ホテル持ち)なので特に問題はない。
「
「預けていいただいたお金とお持ちのチップはどうしますか?」
「どうせまた戻るのでそのままでいい。」
「ありがとうございます。」
マオはほっとしたように頭を下げた。
まあ、何十億円も流出するのは避けたかっただろうしな。
俺は、マオに1万パタカのチップを一枚やった。
「これなら没収されないだろ。」
マオに言うと、マオはまた頭を下げた。
タンがマイバッハでやってきて、旧市街のホテル・リリボアを目指す。
ヴェルのホテルのあるタイパから旧市街のリリボアまでも時間はそれほどかからない。
旧市街のちょっと変わった形式のホテル・リリボアに到着すると、黒いドレスを身にまとった中年の太った婦人が出迎えてくれた。
「ようこそ。ミスター・ハリタ。」女性は頭を下げる。
「久しぶり。マダム・ノワール。お招きありがとう。」
ここホテルリリボアは、俺のいままでのマカオでの拠点だった。ハイローラーテーブルによくいるので、マダム・ノワールとも顔見知りだ。まあ、だから招待してもらったわけだが。
「パーティは今夜です。楽しんでくださいね。」
ご婦人は優雅な礼をして、奥に消えていった。
その後、支配人らしい男とタンが話をして手続きをする。
俺はタンに、昨日の競馬の小切手を裏書して渡す。
タンは小切手を写真にとってから支配人に渡した。
俺は、1000万パタカチップを4枚、100万パタカを8枚、10万パタカを20枚頼む。残りはホテルのハウスカードに入れておく。以前からの繰り越しもある。
支配人は礼をし、俺をスイートルームに連れていく。
「レストランで待ってるね。」タンが言う。俺は振り向かず、片手をあげて答える。
特別なエレベーターで部屋に案内される。ヴェルのホテルよりは小さい部屋だ。
それでもスイートでバトラーもいる。
「最上級の部屋をご用意できずすみません。今回のパーティでいろいろな方がいらっしゃっているので。」
支配人が頭を下げる。
「ああ、構わない。」俺は言う。
何度も来ているので、勝手はわかっている。
これより広い部屋のときも、そうでないときもあったのだ。
スーツケースを開け、タキシードのエクスプレス・プレシングとシャツのクリーニングを手配してもらい、俺はレストランに向かう。
小籠包レストランでタンに会う。
タンは、今回のパーティについて調べたことを教えてくれる。
今回俺がマカオに来たのは、このパーティに呼ばれたからだ。これはマカオのカジノの父、スタン・チャオの没後4周年パーティだ。まあ、COVIDが済んでからの年中行事になるんだろうが。
わかったことがいくつかある。
・マカオの行政長官がいる。
・今回は中央政府や党から3人来ている。御付きも数人。
・国営企業の社長も2人。それぞれ取り巻きもいるようだ。
・香港の財界からもかなり来ている。
・シンガポール、マレイシア、インドネシアの富豪が来ている。
・彼らを含め、アジアで有名なハイローラーが10人くらい来ている。(これは俺も含む)
大きな余興があるらしい。
こんなところだ。
俺の香港の友人、ロバート・リーもいる。
「ずいぶん大がかりだな。」
「感染が収まったから、とにかく沢山の人を呼びたいね。そのためのイベントよ。 CCTVやマスコミにも流して、リリボアが元気なところを見せたいみたいね。」
「実際は?」
「結構苦戦しているみたいね。ハイローラーが米国系にかなり流れてる。政府の人たちは香港の人を含めてリリボアみたいなトラッドなカジノが好きだけど、ハイ・ローラーたちはアメリカ風の雰囲気を求めるのね。」
まあそれはわかる。
外見はさておき中身が猥雑なリリボアでは、庶民テーブルは鉄火場のような雰囲気だ。
ギャンブル以外のエンタメ、例えばミュージカルやサーカスを呼ぶのは米系のお家芸だしな。
ただ、米系の奴らが軽視しているのは、マカオの顧客の大部分が中国人だということだ。
中国人は、必ずしも米系のようなサーカスやらミュージカルを好むわけではない。
家族でマカオに来る連中もそれほど多くない。
ファミリー向け施設よりは娼館やコールガールのシステムのほうが発達している。
裏社会を仕切るマフィアも、地元と香港系、広州系、福建系などが入り乱れている。
地域密着でそれなりに温和な地元マフィアに対し、香港系はもう少し荒っぽい。
広州系は、客を送り出す陸路を仕切っているので、それなりに儲けている。
だが福建系はやっかいだ。数は少ないが、手段を選ばない
対立すると、必ずと言っていいほど死人が出てします。
この辺はタンが教えてくれる。
下手に夜も街をうろつくとえらい目に会うこともありそうだ。
俺の場合夜はカジノで遅くまでプレイするし、女が欲しければタンに頼んでコールガールを呼ぶ。そのほうが安全だからだ。
まあ今回はヴェルとリタがいるし、いずれにしてももめごとは避けよう。
タンとの食事のあと、仮眠を取ってパーティに備えることにsぢた。
タキシードのプレスはパーティまでには届けられるはずだ。
さあ、マダム・ノワールがどんな趣向を凝らすのか、楽しみだ。
==
お読みいただいてありがとうございます。
今回は移動です。
ホテルが違ってもレイがやることは通常いつも同じです。
リリボアのモデルはマカオのホテル・リスボアです。外見が独特なので、気が向いた方は画像検索してみてください。
ホテルのエクスプレス・プレシングサービスは文字通り衣服にアイロンをかけるだけです。
クリーニングでは一晩かかりますが、プレシングだけならすぐです。
まあレイはタキシードを複数持ってきているので、実はプレスが間に合わなくても問題ないですが。
基本的に中国人はギャンブルと賄賂が大好きです( ´∀` )。
あ、中国人のあなた、あなたは例外ですよ、きっと。だから怒らないでください。ヌンチャクや青龍刀を持ち出すのはやめてください。
え、それは小さいスケボー_いやそれ、トンファーでしょ? 車輪ついてないし…
口は(筆は?)^災いの元ですね。気を付けないと。
「面白い」
「続きが気になる」
「マカオ行きたい」
「カジノ当てたい」
「金がない」
「反応ないと作者がかわいそうだから」
「愛田さんに貢ぎたい」
など少しでも感じられたかたは、★、コメント、フロー、レ
「どこのマフィアが一番怖い?」
「どこというか、襲ってくるマフィアが一番怖い。」
おれ
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