第12話 ドライブの行先
ボールルームのスクリーンに、画像が写し出される。
May fortune befall the wise!
(賢き者へ幸運が降るように!)
5,0710(2+19+20)(2+3+20)
7.2205(00+12+27)(28+18+7)
俺はスクリーンをスマホで撮影した。
さて、解けるかな?こういう時は集中が必要だ。
俺は、ウェイターからオレンジジュースを二杯受け取り、飲み干す。
酔うほどワインは飲んでいないが、ここは心を落ち着ける意味でもノンアルコールが良い。
俺はじっとスクリーンを睨む。
ふと考えつき、スマホに数字を書き入れ、検索する。
なるほど。
余興のうちに、ロバートはどこかへ行ってしまった。まあ、忙しい男だし、あちこちと交流しているのだろう。
こういう立ち話で、100億円単位の金が動く。そういう人種が揃っているからな。
ヴェルが戻ってきた。
俺を見て聞いてくる。・
「解けそう?まあ、期待はしてないけど。」そう言って肩をそびやかす。
俺はヴェルに聞く。
「ヴェル、明日は空いてるか?」
ヴェルの目が鋭くなる。
「空けたほうがいいなら、開けるわよ。」
気づいたようだ。
「じゃあ、ドライブしよう。11時に車で迎えに来てくれるか?」
俺は言う。
「いいわ。準備するものは?」本当に話が速い。
「そうだな。車はカイエンより、トランクが大きいセダンがいい。あと、服装は動きやすいもの。靴はスニーカーがいい。あとは、汚れてもいい大き目のバッグ。バール、折り畳みのスコップ、作業用の手袋を二人分、明るい懐中電灯2つ。あとは花束を2つ。」
ヴェルは、俺が言うものをスマホに書き留めっる。
「わかったわ。11時なら大丈夫よ。念のためあなたの連絡先を教えてくれる?」
俺は、ヴェルにTelegram の連絡先を教える。
「冷たいのね。」ヴェルが言う。
Telegram は、通信記録が残らない。その時限りの連絡が可能だ。
「今はこれで十分さ。」俺は言う。
「WeChatはどうなのよ?」ヴェルが聞いてくる。
WeChatは中国人の大部分が使う、通信アプリだ。
「まあ、そのうちな。」俺ははぐらかす。個人的には、敵が多いやつはWeChatを使うべきではないと思っている。 いつどこで情報を抜かれるかわからないからだ。とくに政府関係から。
簡単なコンタクトはWeChatを使うこともあるが、微妙な問題では使わない。まあ便利ではあるので、俺とWeChatでつながる連中もいる。事務的に必要な場合はサブのスマホでやりとりするのだ。
「じゃあ、明日11時に来るわね。」ヴェルが言う。
突然声がした。
「謎は解けたかな? まあ無理だろうけどな。」
トーマス・チャオだ。ヴェルが露骨に嫌な顔をする。
「さてな。」俺ははぐらかす。
「まあ無理だろうな。根なし草と卑しい血のコンビはお似合いだが。」
よくもまあ平気でそんなことが言えたもんだ。普通は思っても言わない。
「まあ、今日の余興は楽しませてもらったよ。今後、カジノにちょっと貢献させてもらうよ。」俺は平静を装って言う。
「まあ、破産しても文句は言わないでくれよ。これから数日間はハイローラーテーブルも大盛況だろうからな。」
トーマスはそう言って去っていった。
俺たちの近所に立っていた男が、彼を追うように消える。俺たちの会話を聞いていたのだろうか。
「何だよあれは?」俺はヴェルに言う。
「見てのとおりよ。あの黒ばばあのドラ息子。アメリカ留学して、そのあとラスベガスでアメリカ風のカジノをずっと見てたから合理的よ。でも、卒業できなかったらしいし、性格が悪いし、中央にもコネがない。彼が実権を握ることになったら、いろいろ厄介になりそうよ。」
なるほど。まあ、あまり関わりたくはないな。
「じゃあ、明日ね。」
ヴェルはそのまままた奥に消える。
俺はその後、一旦部屋に戻り、それから少しだけハイ・ローラー・テーブルに顔を出す。
知り合いにちょっと挨拶し、バカラを少しだけやって、引き上げることにした。
収支としてはほぼプラマイゼロだ。
それでいい。明日に備えるので、大勝負はしない。ただ、招待された手前、まったくギャンブルをしないわけにはいかないのだ。
部屋に戻ってバトラーを下がらせ、メールをチェックしたり資産状況を確認する。
とくに大きな問題はない。
その晩、俺は一人で寝ることにする。コールガールを呼ぶこともできたが、今夜はやめておく。
どうせ向こうも引っ張りだこだろう。
スイートルームのミニバーにおいてあるジャック・ダニエルをオン・ザ・ロックで一杯ナイトキャップにして眠りについた。
朝は六時に目覚めた。
俺はすぐにホテルのプールに行く。
人の少ないプールは爽快だ。
1000メートル泳いでいると、横に並んで泳ぐ男が現れた。ロバートが来たのだ。
自然に競争になる。
俺のほうがリードしたまま1000メートル泳いだところで俺は止まる。
ロバートも追いついてきた。
「負けちゃったな。」ロバートが笑う。
「この前のゴルフのお返しさ!」俺も笑う。ちょっと前に、シンガポールでゴルフをしたのだ。そのときはロバートが勝っている。
「ま、負けても罰金がないからいいさ。」ロバートが笑う。
ゴルフでは俺の負け分をあとで金貨で渡すはめになったことを思い出す。
「貸し一つだ。そのうち返してもらうよ。」俺は笑う。
「ま、忘れなければな。」ロバートも笑う。
俺は部屋に戻り、バトラーに朝食を頼んでシャワーを浴びる。
バトラーが持ってきた朝食を済ませ、ポロシャツとジャケット、チノパンに着替える。
テレビでは昨夜のパーティーのことを報じていた。。だが、暗号のことはニュースではやっていない。
この辺はメディア管理もしっかりしているのだろう。さすがはマダム・ノワールだ。
俺は11時前にロビーに降りる。ロビーにはヴェルの姿はなかったので、車寄せに行く。
ほどなく、濃紺のアルピナでヴェルがやってきた。
俺は片手をあげ、止まったヴェルの車に乗り込む。ヴェルは今日もサングラスを掛けている。
「おはよう。いい車だね。」俺は言う。
「ありがとう。でも、赤くないのよね。」ヴェルが言う
「まあ、ビジネスユースだからな。普段はどうせショーファー(ドライバー)に任せるんだろ?」俺が言うと、
「最近、ショーファーがやめちゃったのよ。レイ、私のショ―ファーやらない?」ヴェルが言う。
「魅力的な申し出だね。カジノで一文なしになったら頼むよ。」
「期待してるわ。」ヴェルが微笑む。
まあ、もし俺が一文なしになったとしたら、俺の価値はないから、ヴェルは見向きもしないだろう。そんな世界で生きている女性だからな。
「昨夜頼んだものは用意できたかい?」俺はヴェルに聞く。
「ええ。準備できてるわ。後ろに入ってる。」
サングラスを掛けたヴェルが答える。
「そろそろ出ないとね。どこへ行けばいいの?」ヴェルはそう言いながらエンジンを始動させて走り出す。
「実はすぐそこさ。プロテスタント墓地。」
「了解。」ヴェルはそう言って、交差点を曲がる。
ヴェルは少し走ってまた交差点を曲がる。
「やっぱり尾行されてるわね。」ヴェルが言う。
「想定の範囲内さ。」俺は言う。
「どうする?撒く?行くのやめる?」ヴェルが聞いてくる。
「いや構わない。」俺は答える。
すぐに目的地に到着する。
ヴェルは、墓地の駐車場に車を止める。
尾行してきた車も、少し離れたところに止まる。
俺はアルピナのトランクから大きな手提げバッグを出す。中身を軽く確かめる。大丈夫そうだ。ちなみに花束はヴェルが持っている。
「スタンの墓はどこだい?>」俺はヴェルに聞く。
「こっちよ。」ヴェルが俺を連れて、奥のほうに向かう。
墓地は几帳面に区画分けされている。
スタン・チャオの墓はその奥の端にあった。
俺たちは墓の前に立つ。
「さて、謎解きが合っているかな。」俺は言う。
「興味深いな。聞かせてもらえるかな?」男の声がした。
見ると、さっきの車に乗っていたのだろう。屈強な男たちが5人で、俺たちを取り囲んでいた。
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ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
謎解きは次回です。
マカオは狭いので、リリボアから墓地にしても、車で15分あれば着いてしまします。
アルピナはさておき、絶対にカイエンなんか要りません。
ビジネスユースでは、BYD(中国の電気自動車)が無難でしょうね。まあマカオなので中国車でなくても大丈夫でしょう。また、EVの後部トランクは狭いので今回の目的には向きません。
「面白い」
「続きが気になる」
「マカオ行きたい」
「カジノ当てたい」
「金がない」
「反応ないと作者がかわいそうだから」
「愛田さんにカイエンあげたい!
など少しでも感じられたかたは、★、コメント、ハート、レビューなどくださいあ。
なお、カイエンはポルシェ、アルピナはBMWです。念のため。
「カイエンが何台か連なって母の日に音楽を流してた。」
「何を?」
「母に捧げるバラード」
「なんで?」
「カイエン隊だから」
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