第4話  ショットガン・ゼロ


ブタ張り親父が沢山のチップを場に賭けた。

その他のプレイヤーも結構賭けている。



ディーラーが球を投げる。その時、一瞬親父の顔を見た気がした。


俺はそこで動く。


球を投げたあとでも、No More Betsと言われるまでは賭けられるのだ。


俺はおもむろにゴブラックチップを取り出し、0と00の間に賭けた。

ディーラーの顔が一瞬引きつった気がする。


ここはハイローラーテーブル。インサイド、つまり赤黒とかでなく数字に賭けるベットの上限がゴールドブラック、つまり1000万パタカ、約2億円なのだ。ほぼ青天井である。


まあ、その金額のチップを作った時点で、使われることを予定しているわけだ。


1000万パタカ(香港ドル)のチップを見て、場の連中が一瞬息をのんだ。ブタ張り親父も、黙って固唾をのんで見守る。


球はルーレットの溝を回り続ける。何周かしたのち、数字盤の上に落ちて3回ほど跳ね返る。

そして最終的に球が落ち着いた数字は00になった。


沈黙が支配していたテーブルで、上品なご婦人が「ワーオ!」という。


ディーラーの女性が「ゼロゼロ」という。声がちょっと上ずっていた。


ディーラーは、00に張られた俺のの上に当たりの印を置いた。

そして、レーキ(熊手のような道具)で俺の賭けたもの以外の場のチップをすべて掻きあて、チップを納める穴に落とし込む。


そして、彼女は手元のベルを鳴らした。先ほどの支配人のマオがすっ飛んでくる。

支配人がテーブルを見て、状況を理解したようで、顔が引きつっているのが丸わかりだ。


支配人がディーラーに対し、うなずき、一度その場を離れる。程なく戻ると、彼女にチップを渡し、紙にサインさせた。


そしディーラーは、俺のチップの上に、今支配人から受け取った17枚のゴールドブラックのチップを置いた。



ほかの連中の賭けはすべて没収。そして俺は1800万パタカ、すなわち36億円を手にしたことになる。


支配人がおそろおそる聞いてくる。

「ミスター・ハリタ。このチップはどうされますか?」


俺が答えようとしたとき、後ろから、よく通った女性の英語が聞こえた。


「さすが、ショットガン・ゼロね。素晴らしい動きを見せてもらったわ。」


ショットガン・ゼロというのはいつのまにか付いた俺の二つ名だ。以前はスティング。レイと呼ばれていたが、最近はこっちの名前のほうが通りがよい、あるいは悪名を馳せているといえる。


ルーレットで0か00に、狙いすまして賭け、当ててしまうのだ。

マカオの米国系カジノ複数うや韓国のパラダイス・ウォーカーヒル、シンガポールのセントサなどで実際に稼いできた。だからアジアの業界ではそれなりに名が知れている。


俺はハイ・ローラーとして多くのカジノから歓迎される。スイートルームの無料宿泊などは当たり前の待遇だ。


しかしその一方でいくつかのカジノは出入り禁止だ。俺はカジノにとってハイ。ローラーであると同時にハイリスク。プレイヤーでもあるのだ。




俺が、声のしたほうを見ると、綺麗にまとめた黒髪に真っ赤なチャイナドレス、そして同じ色の口紅とハイヒールを履いた若くて美しい女性が立っていた。


「そりゃどうも。」俺は答える。


「ショットガン・ゼロ。あなたに一杯おごらせてくれる?」女性は俺に流し目をくれながら近づいてきた。


香水のいい香りがする。シャネルのプワゾンだ。チャイナドレスの上からでもわかる大きな胸g揺れ、ドレスの深いスリットからは、白くなまめかしい足が見え隠れしている。


 すごくセクシーで蠱惑的な女性だ。


「対価もなしにギャンブル中におごられるようなことはしない主義だ。」俺は答える。

つまり、何もなしでギャンブルの時間を中断するつもりはない、ということだ。


今、俺は勝った。これを元手に、まだまだ勝負することだってできる。


それに、アルコールを接種すると判断能力が鈍る。今回のように、ギャンブルには瞬発力が必要なこともある。だから俺はむやみに酒をおごられることはない。


変なことを言うようであれば、もっとむしってやろうかとも思う。

今回、ここのホテルは初めてだ。まあおなじみさんでもないし、出入り禁止になったところで痛くも痒くもない。



「じゃあ、プレゼントをつけるわ、ショットガン・ゼロ。」彼女は俺に向かって言う。


俺としても興味がわいた。

「それは何だい、マドモアゼル・ルージュ。」


間違いない。彼女はマドモアゼル・ルージュだ。


「次のベットの結果をあなたにプレゼントするわ。」それでどう?」


「フェア・イナフ(いいだろう)。」俺はうなずく。



先ほど話が中断されたため、支配人が俺の勝ったチップを手に持って、、指示を待つ。


これはきわめて異例のことだ。客のチップをディーラー以外が触るのは通常は許されないのだ。それが客であっても従業員であっても同じだ。


ただ、今回は高額チップでもあり、しかも支配人なので、俺を含め誰も文句はない。

「ちょっと待て。俺は言う。 支配人は忠犬よろしく待つ。



テーブルが再開される。

ディーラーが球を投げた。

俺が、マドモアゼル・ルージュと読んだ女性はゴールドブラックのチップを出し、赤に置いた。

支配人の顔がまた引きつる。


「No More Bets」女性ディーラ0の声が響く。


球は何回かはじかれたあと、1におさまった。


「ワン,オッド(奇数)、レッド」ディーラーが当たりの印を1に置いて告げる。


ブタ張り親父は、今回は8と20に山を作り、その周りのコーナーと数字に張っていた。


つまり、また外れだ。だいたい50枚はチップを失ったことになる。

親父のチップが一枚1万パタカ(約20万円)なので、こおの親父はだいたいこの1回で1000万円くらい失ったことになる。


おそらく、この親父の負けは今夜これまででもう1億円を越えているだろう。

これがハイ・ローラーテーブルの非情さだ。


そしてマドモアゼル・ルージュと俺が呼んだ女性のベットは当たったので、彼女はブラックゴールドを2枚回収した。

「はい、プレゼント。」彼女は無造作に俺に渡す。


「ありがとう。じゃあ、おごられよう。」俺は同意した。

俺は支配人から18枚のゴールドブラックのチップを受け取り、支配人とディーラーに一枚ずつ、心付けとして渡した。


マドモアゼル。・ルージュはそれをじっと見ていた。


支配人はぴくぴくしながら受け取った。「サンキュー」 だが声が上ずっている。


一方、ディーラーは満面の笑みで「シェイシェイ」と言い、チップでテーブルを二回たたく。 これは、心付けを受け取った、という合図だ。 支配人がそれを見てうなずく。そしてディーラーはこの分を心付け用の箱に入れた。 


勝ったギャンブラーは、ディーラーにお礼として心付けを渡すのが通例だ。だがこんな高額は普通ありえない。


彼女にとって記念すべき日になったことだろう。


「行きましょう。」マドモアゼル。・ルージュが言う。

俺はうなずいた。



======

楽しんでいただけているでしょうか。

一挙に2億円を36億円にしてしまいました。 そして心付けを二億円ずつ支配人とディーラーに。

。なかなかできることではないですね。


なお、「心付け」というのはいわゆるチップのことです。ただ、ここだと賭けるチップと混同しやすいのであえて「心付け」:と書いています。



本文で書いたとおり、「俺」がただ酒でもおごられるつもりがなかったのは、やはり酒で判断が鈍ることを恐れていたからです。あと、飲んでいる時間は賭けられないし、酔うとなかなか真剣勝負のギャンブルができない、とういのも理由です。


彼は、プレゼントをもらったことと、彼女の素性を知っていたことで、一杯飲みに行くのを同意しました。



でも、普段の彼なら、絶対に断るところです。


彼女の素性は次回明らかになります。




「気に入った」

「面白い」

「続きが気になる」

「マカオ行きたい」

「カジノ当てたい」

「金がない」

「反応ないと作者がかわいそうだから」

「愛田さん抱いて」(生物学的な女性のみ)


など少しでも感じられたかたは、★、コメント、フロー、レ










支配人のマオ、苦労がおおいんです。


これからも苦労します。薄毛が加速しそうですね。

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