第3話 ブタ張りハイ・ローラー
九時を過ぎたくらいに,俺はタキシードに身を固め、エレベーターに乗る。ハイ・ローラー・テーブルにはタキシードで臨むのが俺の流儀だ。
戦場には正装で臨む。
目的のハイ・ローラーテーブルはすでにににぎわっていた。テーブルと言っても1つのではなく、むしろハイ・ローラー・エリアというほうが通りがよいかもしれない。
ルーレット、バカラ、ブラックジャックなどが複数テーブルオープンしている。
全員が正装しているわけではない。
俺は1つのルーレットのテーブルへ行く。
髪が茶色で縮れており、目元の化粧が濃いものの結構な美人の女性ディーラーが、ルーレットを回している。西洋系と東洋系のいりまじった感じの、エキゾチックで男好きのする女性だ。
くたびれたサラリーマンっぽい太って下品そうな男が、ルーレットで大声をあげていた。
どうせ某国の国営企業のお偉いさんだろう。
経営者といっても国の中央から送られてくるだけで、業務なんかまったく知らないが給料だけかっさらっていく連中だ。
現場はたたき上げに任せ、自分は人事を握って接待とわいろに明け暮れる連中だ。
そこのルーレットではそのくたびれた男と、あと取り巻きっぽい男たちが三人、それからちょっと身なりのいいおばさ、いやご婦人がいる。
5人がそれぞれ、違う色のチップを使っている。 それは、ほかの人間のチップと混じらないようにするためだ。
カジノが当初発行する現金同様のチップを、テーブルで色チップに変換するのだ。その際に、一枚いくら分とするか指定できる。すなわち、一万ドルチップを預けたとして、変え恵右チップを1枚100ドルにすえうか、1000ドルにするか、など選べる。
ディーラーは、そのチップが一枚いくら分なのか、というのをテーブルに表示する。これは、後で換金するときのトラブルを防ぐためだ。
なお、。ホテルが発行したチップをそのまま賭けることもできる。その場合、他人に取られないように注意する必要がある。
俺はとりあえず見(けん)を決め込む。流れを見るためだ。
ルーレットの流れを見るためだ。
昔は各自で紙に出目を書き込むのが主流だったが、いまは自動で出目が20回分くらいデジタル表示される。
バカラなんかは、いまでも紙でメモするやつもいる。スマホで記録するやつもいる。
確率論から言えば、過去の出目と次回の出目は独立事象であって、関係ないということになる。
だが実際は台の癖やディーラーの腕などに左右されるのだ。
また、オカルトシステムともいえるが、「流れ」があるともいえる。
実際張っていると、流れがあると感じる瞬間が確かにあるのだ。
もちろんイカサマというのもないわけではないが、今日のこういうところではあまり無いとみていいだろう。
ちなみに、日本の伝統的な丁半賭博では、伏せた盆の下で、床下から竿で盆布をたたいて目を変えるようなイカサマもある。
さて、ブタ親父(内心でこう呼ぶことにする。)は、一つの数字のまわりを囲ってたくさんの数字に賭ける戦術を取っている。
別の言い方もあるが、俺はこれを「ブタ張り」と呼ぶ。
ルーレットを知らない人のために軽く説明すると、ルーレットは数字を当てるゲームだ。1-36までの数字がマットに3X12マスで記されており、それ以外に外部に赤黒、奇数偶数、前中後12などがある。縦の列もある。
それとは別にアメリカンルーレットなら0と00,ヨーロピアンルーレットなら0がある。
0と00は赤黒や奇数偶数の例外になる。
さてこのブタ張り親父は、5を中心にして、その四隅にそれぞれ賭けている。
つまり5が出れば大当たり。それ以外でも1から9のどれかが来れば当たりで少し返ってくるものだ。
もう少し説明を続けよう。
ルーレットは、マスの中か、あるいはマスの境界線、あるいは角に賭けることができる。
隣あうマスなら2つ、四つの数字の集まる角なら4つの数字に賭けることになる。
ルーレットの当たりの払い戻しは、、当たったものを含め、賭けた「マス」の数で36を割ったものだ。
つまり1点賭けなら36枚、4点賭け(4つの数字の中心の角)なら9枚戻る。
外部の赤黒や奇数偶数では2倍で戻る。3分の1ずつのやつなら3倍だ。
前者は18マス、後者は12マス当たればいいので計算としては同じだ。
なお、0と00は例外だ。1点賭けすれば36倍にはなるが、赤黒とかにはあたらない。
その分がカジノの儲けとなるわけだ。
ちなみに、ルーレットの回るほうの数字の並びは順番ではない。
1のとなりが2ではないのだ。ここがまたトリッキーである。
というわけで、ブタ張り親父はエキサイトしながら進めている。
1から9までに全部一点賭け、5の四隅にも賭け、5にはチップを山積みにしている。
これだと1-9どれにあたっても36倍および隅で当たった分の9倍となる。
もし1-9までのすべてに一枚、5の四隅に各1枚置くならば、1,3,7、9なら36+9=45が戻ることになり、当初賭けた13枚より多くなる。
5が当たれば36+9x4となり、78枚になるわけだ。
実際はそれぞれの数字を複数賭け、また5にチップの山を作っているのだ。
この親父は、こんな山を二つ作っている。どれかが来ればある程度の当たりだ。
だが、当たらない部分は当然すべて没収になる。
親父がまたエキサイトしている。どうやら当たったようだが、見ると9だ。
ということは36+9で45枚戻ったことになる。だが、親父は45枚以上は賭けているので、収支はそれほど良くない。
でも、当たったことに気をよくして、同じような配置でたくさん賭けている。
また、ほかの連中も一点賭けしたり、赤黒などの外側に賭けている。
親父は、真ん中の2つに大きな山を作った。ここが当たればかなりのものだ。
ディーラーが球を投げる。その時、一瞬親父の顔を見た気がした。
俺はそこで動く。
===
ルーレットの説明、これでわかりますかね。
わからない人は、各種のカジノ入門サイトをご覧ください。
説明が多いと、まだるっこしいですしね。
次回、プロローグでちらっと書いた状況になります。
「気に入った」
「面白い」
「続きが気になる」
「マカオ行きたい」
「カジノ当てたい」
「金がない」
「反応ないと作者がかわいそうだから」
「愛田さん抱いて」(女性のみ)
など少しでも感じられたかたは、★、コメント、フロー、レビューなどをお願いします。
なお、ハイ・ローラー向けテーブルはミニマムベットも高額なので、おつきの人たちは大変です。
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