第1話 マカオ到着
キャセイのファーストクラスで東京から香港の空港に到着すると、係員が出迎えに来る。俺は、東京から香港に行くのはだいたいキャセイを使う。日系の航空会社だと、偉そうな態度の政治家や物見遊山の企業経営者、勘違いした若い女性歌手とかが居て、落ち着かないからだ。
その点、キャセイは香港人が中心で、しかも中国語のできない人間に対する扱いにも慣れている。だいたい、香港人、中国人は金(カネ)という共通の価値観で動いているのでわかりやすい。
酒のラインアップに不服があることもあるが、事前にリクエストしておけば問題ない。
係員がファストパスの入国審査まで案内してくれる。ここはほかの連中のように並ぶ必要がない。俺は係員に一万円札を渡すと、入国管理官に一万円札をはさんだパスポートを渡し、このままマカオに行くことを告げる。
入国審査はスムーズに終わった。
審査が終わったところで、空港係員が二人、荷物のカルーセルに案内してくれる。俺の荷物は二つ。ルイ・ヴィトンのスーツケースと、エルメスのスーツケースだ。
どちらもドアサイドに保管しているので、ほぼ最初に出てくる。
俺がカルーセルに出てきた荷物を指さすと、二人が荷物を取り合う。
「ワン・モア」というと二人はすぐ争いをやめ、一人が俺のもう一つの鞄を持つ。
二人の先導で出口まで来る。そこには、顔なじみのジャンケットのタンが迎えに来ていた。
タンが俺に気づいて、手を振りながら近づいてくる。
俺は空港係員の二人に一万円ずつ渡すと、タンと握手する。
「レイさん、久しぶりね。」タンが上手な日本語で話しかける。
こいつは広東語、北京語、英語、日本語ができる。一時期は韓国語も習っていたようだが、そこは定かではない。
タンが俺に言う。「ジェットフォイル、もう着いているよ。すぐ乗る、それともお茶でも飲む?」
「すぐ乗るよ。着いてからその後のことは考えるさ。」
「了解。」タンはそう言うと、俺のスーツケースを二つとも持って、船着き場に向かう。
小型のジェットフォイルで、乗客は我々だけだと思ったら、中にもう一人いた。
制服を着ている。マカオの入国管理官だ。
俺は先ほどと同じように、パスポートに一万円札をはさんで渡す。
彼は英語で言う。「マカオへようこそ。滞在は何日ですか?」
「事前に言った通り、一週間から二週間を予定しているよ。」俺は答える。
「オーケー、グッドラック」彼は言い、パスポートを返してくれた。
彼はそのままジェットフォイルを降りた。次のVIPの入国審査だろう。
マカオまで、ジェットフォイルで2時間弱かかる。
今は香港・珠海・マカオの連絡橋もあることはあるが、入国審査が面倒だったり、基本的にバスを乗り換えたりするので意外に面倒だ。
それならプライベート・ジェットフォイルのほうがずっと楽なのだ。
まあそのうち橋の運用も変わり、もっとマカオに車で行きやすくなるかもしれない。
東京以外のアジアの都市からのマカオへの移動であれば、マカオの航空会社でもいいが、東京からの場合、あいにくファーストクラスがない。だから俺はキャセイを使い、香港からマカオに入るのだ。
ジェットフォイルが進んでいくと、島が見えてきた。天気がよいので、予定より速い。
「今日はタイパの東側ね。」ジャンケットのタンが言う。
タイパはマカオの島だが、今はもう一つのコロアネ島と埋め立てによりつながっていて、あわせてコタイと言われることも多い。
ジャンケットとは、独立系のカジノコンシェルジュのようなものだ。俺のようなハイローラーをカジノに紹介し、手続きをすべて行う。必要に応じてレストランの予約からコールガールの手配まで、何でもこなす。
カジノは、ハイ・ローラーが預けた金の一定割合をジャンケットに支払う。
ちなみに、客が勝っても負けてもある程度のバックをもらえるので、ジャンケットの連中は俺のようなハイ・ローラーを客にしたがる。
なおハイ・ローラーとは高額に賭ける人間のことだ。預け金は最低で百万米ドル程度だ。まあ、百万米ドル程度ではたいしたサービスは見込めないのだが。
マカオの南側の島、タイパに到着する。 港からホテルはすぐだが、ホテルの車が迎えに来ている。
俺とタンは、ホテルの車でホテルに入った。
ホテルに入ると、ウェルカムドリンクがサーブされる。俺は、ドリンクを飲みながら手続きが終わるのを待つ。
タンが手続きをしているうちに、俺のところに上品な身なりの男が現れた。
「こんにちは、レイさん。ようこそお来しくださいました。ホテル支配人のマオと申します。二泊と伺っておりますがよろしいですか。」
慇懃に男が聞く。俺は無言でうなずく。
タンが戻ってきた。俺はチェックブックを出し、二千万香港ドルの小切手を切り、タンに渡す。。
もちろん銀行は香港の銀行の口座だ。
最近はAML-CFTといういわゆるマネーロンダリング規制が厳しくなりつつある。
まあそのあたりは、「上に政策あれば、下に対策あり」という中国のことわざ通りだ。
俺は基本的に香港、シンガポール、スイス、ケイマン、バージン諸島などに口座を持っている。
もちろん保有資産の関係で日本や米国にもあるが、メインではない。その辺は自己防衛の一環だ。
タンが小切手をたしかめ、スマホで写真を取る。以前はコピーを取っていたが、最近はこれでいいらしい。
タンから小切手をうやうやしく受け取ると、支配人は俺に聞く。
「チップの種類はどうしますか?」
俺は答える。
「ゴールドブラックを一枚。あとは百万パタカを5枚。と一万パタカを10枚。あとはいい。」
ゴールドブラックとは一千万パタカ、約2億円のチップだ。これが一枚の上限になっている。
チップは、このホテル内では通貨として機能する。
ある程度はほかのホテルでも使える。特に、最近は、高額チップにはマイクロチップが梅子前れていて、真偽がすぐわかる。
また、香港ドルとパタカは同じ価値だ。マカオでドルというときはUSドルではなく香港ドルになる。
いまはオンラインが発達してきて、ホテル発行のカードを持っていればそのまま引き出しも出来たりするのだが、ここはホテルとの信頼関係構築のためにもチップでやり取する。
チップを持つと、使いたくなるのが人情だからな。
あと、ホテルはクレジットラインを引くこともある。たとえば俺はいま2千万香港ドルを預けたが、ホテルによってはそれ以上の金額を引き出すことができる。差額はローンだ。
もちろん金利は高い。まあ一発逆転を狙うやつが使うのだが、だいたいそんな時は負けるものだ。
支払わなければ厳しい取り立てが待っているし、海外へ逃げるとしても、毎日利子がかかる。放置すると債務は雪だるまだ。
債務を支払わないとマカオに来られなくなるし、ある日突然本国の銀行口座が差し押さえられる可能性だってないわけじゃない。
だからこそ、カジノのクレジットラインは使わないほうがいい。それくらいなら必要な金額の倍を用意すればいいだろう。
手続きが済んで、支配人自らが俺をペントハウスのインペリアルスイートルームに案内する。
これはVIP用の部屋であり、エレベーターも他の部屋とは異なる。
もともとルームキーのカードが無ければ、エレベーターにすら乗れないのだ。
ペントハウスのスイートは複数あるようだ。
俺が部屋に入ると、すぐに男が現れる。彼はバトラー(執事)だ。この部屋専用である。
バトラーに頼めば基本ホテルで頼めることはなんでも間に合う。
いわゆるプライベート・コンシェルジュのようなものだ。
俺はバトラーと握手をし、チップとして1万ドルチップを渡す。
バトラーは笑顔で受けとった。
さて、やはり作戦前に休憩だ。
おれはシャワーを浴び、バトラーに夜7時に起こすように頼んで仮眠をとることにした。
出陣準備はかなり進んだ。
===
こんにちは。作者の愛田 猛です。
カジノ小説「ショットガン・ゼロ」のスタートです。
途中、結構なうんちくが出てくると思います。
カジノ用語はある程度説明しますg、興味ある人は自分で調べてくださいね。
ショットガン・ゼロの意味はおそらく第三話で明らかになると思います。
この小説はパラレルワールトが舞台なので、カジノ繁栄の立役者の名前も違います。また必ずしも実在のホテルではありません。
ちなみに、マカオとかラスベガスでは基本的にホテルにカジノがあります です。
モーテルとかはさておき、ホテルイコールカジノと思っていいでしょう。
なお、カジノ産業のことを英語で「ゲーミングインダストリー」ということがあります。
キャンブルのことはゲーミングというのです。
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「愛田さん抱いて」(女性のみ)←これ最重要!
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