【短編】オノマトペでしか魔法詠唱できないダンジョン(概念)

小鳥ユウ2世

エピソード1

 稼げるバイトがあるって言うから応募してみたけど、なんやこの場所は。突然目隠しをされて連れてこられたからどこにおるんかわからん。見えるのはトンネルみたいに弧を描いてた天井と、背中の方に壁。しかも、その壁に鎖がジャラジャラとひっついとる。鎖は俺や俺と同じようにバイトに応募してきたであろう人らの手錠と繋がってる。いや、これ絶対バイトとちゃうやろ......。


「金に目が眩んだバカか、重犯罪で死刑を待つなどクズばかり......。おあつらえ向きだな。お前ら、ありがたく思え。この仕事は人類のためになる。 なんせ、ダンジョン探索の最終試用運転だからな」


目の前にいた眼鏡をかけたスーツの男が、突然俺達に荒めな口ぶりでド直球の悪口を言い捨ててきた。俺の前にいた目つきの悪い男らがスーツの男に殴りかかろうとするも、手錠と鎖がそれを阻んだ。


「こんなところで無駄に体力を使うな。 では、始めるぞ。 各位、被験者を移送しろ」


 センターにいた男がそう言うと、スーツの男と同じ色のスーツとサングラスをかけた人たちが手枷を外していった。逃走する暇もなく、他の人たちが力負けしてトンネルの奥にあるゲートへゴミをほかすかのようにポンポンと放り込んでいく。逃げるに逃げられへん。そんな中、とうとう俺の番になって、そのゲートへ放り込まれた。


「いってえ!」


 尻もちをついたのも束の間、草や土の柔らかな触り心地が手のひらいっぱいに広がっていく。眩みそうな光りの中、目を開き広がる景色を眺めていった。自然豊かで広大な土地、日本でも海外でもみたことのないような奇妙な生き物。多分、この世界は俺達の住む場所じゃない......。


「なんなんや、この世界は......」


【リュウト】「あ? 誰の声だ?」

【ジョウ】「うああ!? 誰もいないのに人の声が聞こえる!?」

【レン】「これは、さっき集められた人たちの声......。ということだろうか。あの、マオトさんでいいんですかね。あなた、さっきあのトンネルの中にいましたか?」


いきなり知らん人の声が耳元から聞こえた。それに加えて、いつの間にか腕に巻かれていた小さな水晶から、聞いた音声と同じ文章が名前と共に読める。

で、なんでこのレンというやつは俺の名前を知っとるんや? もしかして、この水晶から俺の情報も漏れとるんか?


「せやけど......。もしかしてお前らも、俺が話してる事とか聞こえたり見えたりしてんの? しかも、名前付きで」


そう言うと、先ほど会話していた連中から返事があった。それはどれも「そうだ」というものだった。ほんまになんやねん、この世界......。


【ダンジョンガイド】「探索者様の皆様、こんにちは! ダンジョン=コキュートスβ版へようこそ! こちらでは、様々な体験が可能です! 討伐、クラフト、ストーリー......。 β版では探索及び討伐、そしてメインストーリーの一部を体験できます!」


突如として、女性の声が聞こえて来た。もちろん姿は見えず、文字だけ。

たぶんこの世界に入った瞬間のナビゲーションが働いたんやろうか......?


「急にゲーム感出て来たな......。まあ、これなら楽に稼げそうやな」


【ダンジョン受付】「それでは、早速バトルチュートリアルを開始します!!」


そう言い残すと、プツリという音と共にすべての音声が途絶えた。すると、目の前にキラキラしたものが見えてきたかと思うと、男性の兵士のような姿が現れた。


「いきなりバトルのチュートリアルってどういうことやねん! もうちょいなんか、説明いるやろ! あかん、さっきおった人らと連絡つかへん......」


男に動きはなく、しばらく警戒しているとガイドのアナウンスが聞こえて来た。


【ダンジョンガイド】「今回のチュートリアルでは、かつてダンジョンを守護していた番兵の戦闘データを使用します。データと言えど、実体化モデレータを使用しておいるのでダメージが発生しますので注意してくださいね? さて、遅くなりましたが戦闘スタートです!!」


そう言うと、ガイドの音声が切れた。そんだけ?

どういう立ち回りなんかとか、魔法の使い方とか、なんもないの???

立ち止まっていると、番兵が長槍を持ってこちらに向かって来た。


「うおおおお!!?? あんなペラペラなチュートリアルでまともに戦闘できるかあぁ!!!」


そう言うと、ぽわんという音が聞こえて来た。すると、自分の身体が紙のようにペラペラになっていることに気付いた。番兵の長槍は危機一髪、当たらずにギリギリで回避できた。


「って、どうやって元に戻すねん!? なんやろ、同じ言葉とか? ペラペラ! あかん、もっと薄くなって半紙みたいになってもうた......。ほな、逆のこと言えばええか? たとえば、シャキッとか......」


自分のオノマトペを皮切りに、魔法が発動した音が聞こえる。そして、俺の身体は元に戻った。これで、なんとなくわかった。


「じゃあ、メラメラ! とか、ビリビリ! とか言うたら炎とか雷打てんのか?」


さらにオノマトペの効果により、二回音が鳴った。同時に炎が自分の周りに突然湧きだした。さらに、雷がランダムに近くの木の所に落雷していった。


「くそっ全然当たらんやんけ!! 命中率どうなってんねん!!」


だが、幸いに長槍を持った番兵は炎に囲まれた俺に手も足も出ず、周りをうろついている。今がチャンスや、考えろ!! 俺......!


「......。こうなったら、最後にしてとっておきの擬音や! ......『バン!』」


俺は手を銃の形にして、人差し指を番兵に向けた。ぽわんと言う音と共に指の先から大きな魔力の塊が発射された。


「いった!! 指折れた!?」


人差し指がダメな方向に曲がってる!! それにしてもさっきの攻撃、指折ったのもそうやけど、番兵を貫通して、奥の森をちょっと開拓しちゃってるけど??

驚きを隠せないまま、人差し指を押さえていると目の前の場所が一瞬にして建物の中に変わった。見た感じ教会みたいやけど、あの一瞬で移動してきたんか? 

よく見まわすと、他にも人がいる。俺と同じようにキョロキョロしてんのは多分、同じ探索者たちやろうな......。そんで、目の前でニコニコしてる女性......。あれは、運営側か? もしかして、あのガイド?


「探索者様、おめでとうございます! チュートリアルクリアです!!」


やっぱりさっきのガイドの子や! 聖女みたいな恰好してるけど、耳も長くて瞳が緑色っぽい。この子、エルフっていうやつか? 首をかしげているもガイドは話を続けた。


「こちらで、私のガイドは終了となります。後は、こちらで受付をしてご自由に探索してください! では、よきダンジョンライフを!」


彼女が深く頭を下げると、そのまま教会にあったカウンターについた。そこには堂々と「ダンジョン受付」と書かれている。めっちゃ日本語対応してくれてるやん?

ボーッとしてたら、他の人ら受付しにいってる......。俺も列に並ぼ。


......。


列で待っていると自分の番となり、受付のガイドがまた話しかけてきた。


「野辺真央人様の登録が完了しました! 死亡した場合、ダンジョンで回収していたアイテムはオールロストした後、こちらに強制送還されますのでご注意下さい。あと、そちらで持っている水晶では他の探索者との通話やご自分のダンジョンレベルなどが確認できますので、ぜひ活用してください......」


「えらい物騒な言葉が聞こえて来たけど、まあええわ。 ようは、死なんかったらええんやろ?」


「はい! では、いってらっしゃいませ!」


おし......! 行くか! と奮起して俺はガイドに背中を向けようとした。

その一瞬、ふと疑問に思った。


「ほんで、どこ行けばいいの?」


「メインダンジョンであれば、こちらを出て左に進んでもらいますとありますよ!!」


「おっけー!! ありがとう!!」


俺はその子の言葉に従って、教会を出て左に進んだ。

























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