決意

 詩郎たちが住む街にはファミレスがある。駅から離れていることもあり、駐車場は店舗の3倍以上の広さだ。そこには今、周りの客の視線を引く5人組がいた。

 そのうちのふたりは雅人と悠一だ。残りの3人は10代半ばと思われるピンク髪の派手な格好をした少女、30代と思われる疲れた目の男、そして最後の1人は大きめのパーカーを目深にかぶっており、年齢を判断することができない。

 少なくとも家族・親類関係にあるようには見えず、好意的に見ればオフ会の集まりのように見える。とはいえ、視界に入ると「どういう集まりなんだ」と思ってしまうことには変わりない。

 悠一と雅人の食べっぷりは、アニメのギャグシーンのようだった。まるで回転寿司店のようにふたりの前には皿が積み上がっていく。

「ふたりともすっごい食べてるけど、お金あるの?」

 ピンク髪の女、硯麻菜(すずりまな)が尋ねる。

 ちょうど同時に食べ終えた雅人と悠一が皿の上に乱暴にフォークを放り投げ、

「「ない!」」

 悪びれる様子もなく立ち上がり、ふたりは同時に変身した。


 詩郎と明芽はファミレス前にいた。

『昨日のことを謝りたくて』

 朝明芽に謝罪され、詩郎は「潮見さんが責任感じる必要ないよ」と答えたものの、明芽の気がすまないらしく、パフェをご馳走してもらうためこうしてふたりファミレスへ来ていたのだ。もちろん奢ってもらう気は毛頭ない。

 手痛い出費だが、明芽とファミレスに行けることを考えたら安いもの。と思い入り口へ近づこうとしたところで、ファミレスの屋根が爆音とともに吹き飛び、穴が空いた。

「危ない!」

 こちらに瓦礫が飛んできたことに気づいた詩郎は明芽の手を取り、引き寄せた。ノートパソコン大の瓦礫が、さっきまで明芽がいた場所へ落下する。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫だけど」

「ん? あっ、ご、ごめん」

 明芽を怪我させずには済んだものの、彼女を胸で抱きとめるような体勢になってしまっていた。慌てて詩郎は明芽から離れる。

「それより司くんあれ見て」

 ファミレスからは客だけでなく、制服を来た店のスタッフも出入り口から我先にと飛び出していく。

 そして明芽の視線の先――屋根に空いた穴の周りに、いつの間にか5人の人影があった。

 そのうちの1人には見覚えがある。雅人が変身した姿――レジェンドブルーだ。残りの4人は雅人とは違う赤いスーツに身を包んだ男に、全身木炭のような黒い鎧に包まれた男、そして詩郎より少し年上に見えるピンク髪の少女、最後にフードを目深に被った男。

「あん?」

 レジェンドブルーの顔が詩郎たちの方角を向いた。

 5人組からは詩郎たちは丸見えだ。詩郎たちの近くにレジェンドブルーと、赤いスーツの男が飛び降りてきた。

「また出会ったな」

「こいつが例の男か」

 赤いスーツの男の声にも聞き覚えがあった。たしか雅人と一緒にいた男だ。

「おい、こいつは俺たちにやらせろ!」

 レジェンドブルーが後ろを向いて屋根の上にいる3人に向かって叫ぶと、了承したようで3人は飛び去っていく。

「さて、リベンジマッチと洒落込もうぜ」

 レジェンドブルーが首を左右に曲げながら詩郎たちへ一歩近寄る。

 深亜へ返すべきではなかったとわずかにだが思ってしまった。明芽を自分の体の後ろへ隠し、精一杯の虚勢を張って見せる。

「なんだ? 変身しないのか?」

 悠一が変身した姿――ハラキリレッドが尋ねてくるが、答えることなく睨みつける。

 どうにかして明芽だけでも逃さなければならない。しかし、相手はふたり。自分だけで足止めすることは不可能だ。

 この場を切り抜ける方法を必死で考えていると、1台のワンボックスカーが急ブレーキをかけて止まり、中から深亜と公貴が現れた。

「ふたりとも大丈夫?」

「うん、わたしたちは大丈夫」

「戦う気がないならさっさとそれに乗って逃げろ」

 公貴は左腕のシャツを捲り上げると左拳を握り、手のひら側が手前に来る状態で顔の前へ持っていく。

「変身!」

 手首を捻り、スマートウォッチのディスプレイを見つめる。

《――認証完了》

 電子音声が流れ、以前と同じ姿に変身した。

「おお、この前の奴か。前回は撤退命令が出てしまったが、今回は最後まで楽しめそうだな」

 ハラキリレッドとレジェンドブルーはそれぞれカイシャクセイバーとレジェンダランスを取り出す。

「司くん」

 明芽が何を言いたいのか詩郎もすぐに分かった。しかし中途半端な意志で深亜にガーテクターを返したわけではない。

「……潮見さん乗って」

 詩郎は促すと明芽は無言でワンボックスカーへ乗り込み、詩郎と深亜が続くと公貴1人を残してワンボックスカーはその場を離れる。

「また1人になったか」

「この前悠一がコイツと戦ったから、順番的には俺だろ」

「いや、ふたり同時にかかってこい」

 公貴――ガルムはハンドガン『ヒドラ』とショットガン『ラドン』を両手に持ち、臨戦態勢を取る。

「お前面白いヤツだな。俺たち相手に1人でやるたぁな」

 レジェンドブルーが皮肉の込められた口調で言う。

「そうだな。我ながら笑いたくなってくる」

 ガルムは銃を構えると、飛びかかってきたふたりに標準を合わせた。


 詩郎はワンボックスカーを運転していた人物に驚きを隠せなかった。

「橋田……先生?」

 言われてみれば、確かに橋田ユウリは深亜や公貴と同時に現れた。それならば何かしらの関係があるのは不思議ではない。

 とはいえ担任にまで根回しができる組織とは一体何なのか気になってくるが、今はそれよりも気がかりなことがある。

「……七瀬は勝てるの」

 前の席に座る深亜に尋ねる。

「前回七瀬くんが戦った相手――ハラキリレッドとは戦力的に拮抗していた。そして司君が戦ったレジェンドブルーも恐らく同等の力を持っている。……多分、勝てない」

 公貴ならば1人でも余裕。そんな楽観的な回答を期待した詩郎の希望はあっさり打ち砕かれた。


 一対二という不利な状況でありながら、ガルムは善戦していた。

 AIサジェスチョン機能を活用し、前後から挟まれるなどのような不利な位置に来ないように立ち回る。

 左側からカイシャクセイバーを手に切りかかってきたハラキリレッドを『ヒドラ』で足止めし、右側からやってきたレジェンドブルーへ至近距離から散弾をお見舞いする。

「……コイツ、やるじゃねえか」

 レジェンドブルーはガルムから距離を取り、散弾が当たった箇所を手で抑える。声は苦悶に歪んでいた。

「当然だ。今降参するなら半殺しで勘弁してやる」

 銃口は敵に向けたまま軽口を叩いてみせるが、内心では余裕があるとは言えなかった。やはり一対二は想像以上に消耗が激しい。しかし、詩郎が戦うのを拒否した以上自分ひとりで戦うしかない。

「はん」ハラキリレッドはカイシャクセイバーを両手で持ち、腰を落とした構えを取った。「こういう生意気なヤツこそ、泣いて許しを請う姿を見たくなる」

 馬鹿の一つ覚えのようにハラキリレッドは切りかかってくる。一時的にだがレジェンドブルーは動きを止めている。実質一対一だ。両手の銃をハラキリレッドへ向けて引鉄を引く。

『ラドン』の弾を一部弾いたものの、残りはもろに直撃し、続いて『ヒドラ』の弾も命中する。

 しかしハラキリレッドは怯むことなく、勢いを殺すことなくガルムへ向かってくる。もう一度発砲する。しかしやはり止まることない。

 ここまで攻撃を食らっても向かってくるのは予想外だった。回避が間に合わない。

 ハラキリレッドの斬撃が、ガルムに初めて命中した。


 深亜が手にしていたタブレットの画面にアラートが表示された。

「七瀬くんの心肺、精神ともに負荷がかかってるみたい」

 淡々とした口調ではあったが、表情は硬い。

 詩郎はいたたまれなさから視線を窓の外へ向けた。数キロ先で激闘が繰り広げられているとは思えない平凡な風景が現れては消えていく。

「!?」

 突如タブレットから耳障りな警告音が鳴り、詩郎は車内へ視線を戻した。

「どうしたの?」

 明芽もタブレットを覗き込む。

「七瀬くんが敵から大きなダメージを受けたみたい。このままだと……間違いなく負ける」

「くっ……」

「そんな」

 車内が重苦しい空気に包まれる。

 詩郎は公貴のことが好きにはなれなかった。しかし、見殺しにできるほど憎んではいない。

 ……そして今助けられるのは自分だけだ。

「――先生、戻ってください」

「んー、戻るのもいいんだけど、司クンはバイクの免許持ってる?」

「はい、持ってますけど?」

 学校とは随分キャラが違うなと思いながら答えると、ワンボックスカーは路肩に停まった。

「下りて」

 ユウリにうながされ、どういうことだと思いながら外へ出た瞬間、詩郎は目を疑った。

「ウソだろ……?」

 なんと無人のバイクがこちらへ向かって走ってきていたのだ。

 そして自分に乗れと言わんばかりに目の前で止まった。パッと見は市販されているバイクをチューニングしてあるようだ。

「これは?」

「君専用のバイク『マシンハリケーン』。さあ、これで七瀬クンを助けに行って」

 色々と聞きたいことはあるが、今は公貴を助けに行くのが先だ。

 バイクに跨ると、高さもちょうどよかった。16になってすぐに母親から「お父さんが帰ってきたときにふたりでツーリングできるように」と教習所に通わされたのがこんなところで役に立つとは。

「司君これ」

 深亜がガーテクターを詩郎に向かって投げてきた。キャッチし、左腕にはめる。

「ありがとう。行ってくる」

 ヘルメットを被り、公貴のもとへ走り出す。排気量的には400CCくらいだろうか。なかなか乗りやすい。

 もう免許を取って1年。二人乗りが出来るようになった。明芽とふたりでツーリングできたら……なんてことを考えているとファミレスまでもうすぐのところへ来ていた。

 バイクに乗ったまま、一瞬だけガーテクターのディスプレイに視線を向ける。

《――》

 以前と同じくどこの国の言葉か分からない電子音が流れ、詩郎の姿が変わったかと思うと、乗っているバイクまで色が変わり始めた。詩郎の変身した姿と同じ、銀を基調とした色に変化し、バイクの出力が明らかに上昇していく。どう考えても大型クラスはありそうだ。

 ただ、変身して肉体能力が向上しているからか、手を持て余すような感覚はない。詩郎はさらに加速をつけファミレスの駐車場へ飛び込む。

 視界に入ったのは、ボロボロの姿で跪いているガルムと、とどめを刺さんと歩み寄るハラキリレッドとレジェンドブルーだった。詩郎は速度を落とすことなく、ふたりへ向けて突っ込む。

「むっ」

「なんだァ?」

 2人は飛び退いて突進をかわし、ガルムから距離を取った。

「司……?」

「大丈夫か?」

 バイクを下り、公貴のもとへ駆け寄る。

「何か勘違いしているようだな」ガルムは膝に手を置き、ゆっくり立ち上がる。「ちょっと足を滑らせただけだが?」

 やっぱり可愛げのないやつだ、と思いつつもまずはこの場を切り抜けるのが先決だ。ハラキリレッドとレジェンドブルーに向き直ると、前回と同じく右腕が変化し、大剣を握りしめていた。

 前回のようになってしまう不安はある。しかし、それを恐れていたら勝てないだろう。絶対に命を奪わず、降参させて変身を解除させる。

「結局二対二か。ならば、前回と同じ組み合わせだ!」

 ハラキリレッドがガルムの元へ、レジェンドブルーが詩郎の元へ向かって走ってきた。詩郎とガルムも地面を蹴り、それぞれの相手へ向かっていく。

 レジェンドブルーが手にしているレジェンダランスは、すでに青白い光を放っていた。必殺技を出すつもりのようだ。詩郎も大剣を握りしめた手に意識を集中すると、刀身が炎をまとい始める。

「今度こそブッ倒す!」

「うおぉぉ!」

 槍の先端と、剣の先端が衝突し、勝負は一瞬で決着した。


 ガルムとハラキリレッドの戦いも早期決着の気配を見せていた。

「今度は真っ二つだ」

 ハラキリレッドがガルムに一太刀を浴びせたときと同じ構えを取る。

「ならばこっちは穴だらけにしてやる」

 ガルムが取り出した武器はガトリングガン『ケーニッヒ』だ。ガルムの足とほぼ同じ長さをしており、青いラインが入っている。一対二の状況では使いづらかったが、今ならば問題なく使用できる。

「はっ。そいつも刀の錆にしてやる。――うおお!」

「ファイア」

 引鉄を引くと、何発もの弾丸が間断なくハラキリレッドへ向けて飛んでいく。

 しかしハラキリレッドはそれをなんと剣で弾きながらガルムへ近づいていくが、全てを防ぐことはできず何割かは命中し、ハラキリレッドは体をのけぞらせる。

 火花が散り、甲高い音と鈍い音が同時に鳴り響く。

 ときおり破損した動画ファイルを再生したかのように前進を止め、体を痙攣させるも、それでも止まることはない。

「止まれ! 止まれ!」

 思わず声が出る。化け物のような奴だ。痛覚が麻痺しているのだろうか。もし、止められなければ……。ガルムの脳裏に『死』の一文字がよぎる。

 後少しで切っ先が届くというところで、ついにハラキリレッドの動きが止まった。

「は、見事……」

 敗れたのにも関わらず、満足したような口調で言うと地面に崩れた。

 銃口を下げ、ため息をつく。とりあえず拘束しなければ。聞きたいことは無限にある。ハラキリレッドへ近づこうとしたところで、突如現れた黒い影がガルムを突き飛ばした。


 闖入者の回し蹴りにガルムが突き飛ばされ、詩郎は声を上げた。

「七瀬君!」

 レジェンドブルーとの戦いに勝利し、公貴も決着がついたかと思いきや、去っていった3人のうち1人が戻ってきたようだ。

 公貴を倒したのは全身木炭のような真っ黒な装甲に包まれた男だった。口元には深海魚のような禍々しい牙があり、肩や肘、膝からはサイの角のような棘が突き出している。そして顔には大きな丸い目が黒く光っていた。

 一見してふたりよりも明らかに強そうで、こちらは特撮ヒーローに登場する、いわゆる『怪人』のような風貌だ。無意識のうちに詩郎は後退りをしていた。

 黒い男は倒れていたハラキリレッドを片手で脇に抱え込むと、レジェンドブルーに無言で顔を向ける。

「ああ、俺は動ける。おいてめえ」レジェンドブルーは詩郎を一瞥した。「……次はねえ」

 そして黒い男と一緒にその場を去っていった。


 夜。詩郎と明芽は深亜、公貴とともに近所にあるマンションの地下駐車場を歩いていた。

「ここに何があるんだ?」

 深亜は詩郎の問いに答えることなく『関係者以外立入禁止』と書かれているドアの鍵を開け、入っていった。仕方なく詩郎たちも続く。

 更に進んでいくと行き止まりだったが、深亜は壁へ向かって歩いていくと、コンクリートに空いている穴へ目を近づけた。

「ウソだろ……?」

 どういう技術なのかは分からないが、何の変哲もない壁の一部が横へスライドし、その奥に扉が現れた。

「うわー、なんか秘密基地みたい」

 特撮好きの血がそうさせるのか、明芽は躊躇することなく奥の扉へ向かって歩いていく。

「ちょっと、潮見さん危ない」

 ここまで厳重に隠されているなら、防衛装置があってもおかしくないはずだ。しかし詩郎の心配は杞憂に終わった。特に何事も起きずに扉が開いたからだ。

「ついて来て」

 深亜が明芽を追い抜いて中へ入っていき、3人は深亜へ続く。

 足を踏み入れた先にあったのは、交通管制センターを思わせる光景だった。壁に大スクリーンが取り付けられており、部屋の中央にある大きな机の上には何台もデスクトップPCが置かれている。

 そしてその1台を詩郎たちに背を向けて操作している女性がいた。彼女は詩郎たちに気づいたようで、操作を中断して立ち上がる。

「ようこそ、私たちの秘密基地へ」

 昼間にワンボックスカーを運転していた、詩郎たちの新担任、橋田ユウリだった。

「やっぱり先生だったんですね。教えてください、今何が起きてるんですか?」

「――それは私から説明しよう」

 詩郎たちが入ってきた扉とは別の通路から男が現れた。年齢は60くらいの痩せた男だ。そして詩郎はその男に見覚えがあった。

「七瀬宗介……?」

「えっ、うそ?」

 詩郎も明芽も驚きの声を漏らす。七瀬宗介。政治家の1人で、あまり政治に関心のない詩郎でも名前と顔は知っていた。

「今の若い子も僕の名前を知ってるんだね。嬉しいなあ」

 宗介はヘラヘラと笑う。以前テレビで見た厳かな雰囲気の七瀬宗介とは別人のようだ。

「その、なんで七瀬……さんがここにいるんですか?」

「僕がこの組織の司令だからだよ」

 詩郎が困惑しながら尋ねると、宗介はサムズアップした右手の親指で自分を指した。

「どういうことですか?」

 宗介は勿体ぶるかのように部屋を歩き始めた。

「君が戦った『スーパー戦士』っぽい奴ら――僕たちは『ベイグラント』と呼んでいるんだけど、奴らは別の世界からやってきた人間で、奴らを追って別の世界からやってきた雨越くんと協力して『ベイグラント』をこの世界から追い出す。これがこの組織の目的で、そして司令が僕ということ。理解できたかな?」

「言ってることは分かりましたが……」

「わけがわからないです」

 言ってることは理解できた。しかし疑問の数は減るどころか増える一方で、それは明芽も同じようだ。

「まあ、詳しいことはおいおい話すとして」宗介は歩みを止め、両手を腰に当てると詩郎を見た。「ようこそ。君はこの世界のヒーローだ」


 小会議室程度の広さの、殺風景な部屋。そこに悠一と雅人を含めた5人がいた。

 部屋に窓は1つもなく、部屋からは今は昼夜どちらなのか判断することができない。

 位置関係は椅子に座るフードを被った男の左右に30代と思われる男と、ピンク髪の若い女が立ち、悠一と雅人は3メートルほど距離を取って3人に向かい合うように立っている。

「『ヤツらの力は把握した。次はない』と言っていたのは誰だったかな?」

 フードの男が雅人と悠一に語りかける。

「見間違えるくらいのことはあんだろ。それにロボっぽい奴はアンタが撤退命令出さなきゃ最初に戦ったときに倒せていたはずだ」

「あのときはあくまで偵察だと言ったのに勝手に戦い始めたお前の命令違反だ」

 雅人が反論するも、即座に言い返される。

「最終的には倒すつもりなんだろ? なら別にいいじゃね――」

 雅人が言い終える前に一瞬でフードの男が接近し、雅人の首を掴んでいた。

「忘れるな。俺はいつでもお前を元の世界に送り返すことができるんだ」

「ぐ……あが……」

「次こそ奴らを倒せ。そして潮見明芽を連れてこい」

 フードの男は手を離し元の場所へ戻る。

「じゃあ次は私にやらせてよ」

 声を発したのは、ピンク髪の若い女だった。

「いいだろう。マナ、次はお前がやれ」

「りょーかーい」

 ピンク髪の女、硯麻菜(すずりまな)は伸ばした右手を右眉の上に当てた。

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